第30話 最凶の転生者①
「ただいま戻りました〜」
「おかえり。今日の昼ご飯なに?」
「しれっと飯炊き頼んでるんじゃあ無いよ」
バサナ共和国の転生者がプロキア王国を襲撃してから二週間が経った。
ヒロの骨折もポーションなどのおかげですっかり完治し、戦争に備えてジークに稽古をつけてもらっていた。
そして午前の訓練が終わり、ギルド『
「むっ……それで、ジークから見てヒロはどんな感じ?」
「筋は良くないし反応もダメ。特殊能力が強いだけで基礎能力は酷いね」
「うげぇ!?」
ジークがこき下ろすのも無理は無かった。ヒロは他の転生者と比べても基礎能力や才能が足りていない。
日常のあらゆるものから経験を得て戦闘に活かさなければ、着いていけないほどだった。
「気にすることはないぞ! ワタシがゲオルク師に鍛えてもらってたときは、最終試験官がジークで気絶しない程度にボコされたからな!」
「そっか。前に師って言ってたのは、もともと同門だったってことなのか」
「でも、そこまで行くのに半年は長すぎだって。僕は二週間、サリエラは一ヶ月半だったし」
「私は一週間。一番才能ある」
「君は途中で破門だからノーカンね」
「むっ」
銀縁のメガネを上げながらジークが諭した言葉に、赤髪の転生者とフワフワした銀髪の魔術師が同調して頷く。
それを受け、空色のショートボブと海色の瞳を持つミライが、いつも通り不機嫌そうに頬を膨らませた。
「……あと、しれっとサリエラここに居るけど。いつもの仕事は?」
「これ首にかけた状態で公務を出来ると思うか?」
サリエラが不機嫌そうにぶー垂れながら、首にかけられた鉄板をミライに差し出す。
そこにはプロキアの文字で、「ワタシは魔導四輪を最悪の形で壊したクソガキです」と刻まれていた。
「ウォルター、やることエグい」
「ジャパンモデルの魔導四輪は、一から作ると五百万ギルもするからね……僕も、もう二度と貸さないって言われちゃったよ」
「口約束なら。契約書がなければ大丈夫」
「はは……残念ながら書かされたよ」
「ヒュ」
怒り心頭な青髪の貴族には暫く近付かないでおこうと、ミライは誓うのだった。
「おじゃましま〜す……」
「おっ、いらっしゃいエリーゼ……あっ」
そんな他愛もない話をしていると、金髪を三つ編みにした少女が明らかに意気消沈といった様子でテーブルの島に入ってきた。
彼女は灰の村から城下町の魔術学校を受験するために上京していたはずだったが、この落ち込みようからヒロは色々と察してしまった。
「その様子だと……」
「ええ落ちたわよ! ねえ〜聞いてよヒロ〜、アウレオラに街が襲われたにも関わらず、受験日の変更は一切なかったのよ!?」
「あそこ、伝統を重んじまくるからな。ワタシは飛び級で宮廷魔術師の資格を得て即刻退学願出したぞ!」
「おかげで皆んなボロボロの状態で受けることになってね! 今年の合格者はたったの三名よ、いつも五十名ほどなのに三名!!」
「むぅ、聞いてないなこれは」
泣きながら愚痴を吐きまくる村娘を見て、サリエラは少し不機嫌そうにする。
「でも三名は合格者いるんでしょ。努力が足りなかったんじゃない?」
「そりゃ無いだろジーク。エリーゼは村でも勉強頑張ってたし。それに災害があったのに、伝統が何だって配慮をしない学校が悪いって」
「結果が出なかったら頑張ってるって言えないでしょ」
「……ビロぉぉ〜〜」
「こりゃヒロ以外の声聞こえてないね」
泣きながらヒロの胸に顔を埋める妹を見て、ジークが呆れたように後ろ髪をかく。
そして彼女が顔と共に押し付けた豊満な胸を見ながら、ミライは自分の控えめなものを触りながら頬を膨らませていた。
「んで、この後はどうするつもりなの? 村に帰るとか?」
エリーゼの背中を優しくさすりながら問う。
「ウォルター卿がアタシ達に同情して、来年の受験まで寮費を工面してくださるのよ。だからそれまで頑張るつもり!」
「そりゃ凄いな。それに次の目標があるなら安心だな!」
「でも今日は甘えさせて〜……ヒロの料理いっぱい食べたい!!」
「オッケー、元気出るもの作ってくる!」
「むっ。私のは聞いてくれなかったのに」
「今日のエリーゼは特別だからなー」
ヒロは、そう言い残して白猫の爪団のキッチンへと入ってゆく。
それから程なくして、ヒロが厨房に立っている噂を聞きつけた代行者や兵士がゾロゾロと集まり、どんどん注文が入ってゆく。
「ヒロ公、定食一つ!」
「ずりぃぞ、俺にもくれ!!」
「……こりゃ結構待たないとダメみたいだね」
ジークが懸念した通り、ヒロが解放されたのはランチタイムが終わった後だった。
まかないと言わんばかりに生姜の風味が香るチャーハンとハトの卵スープ、フレッシュなトマトサラダを作り、皆に配膳してゆく。
「卵はマナ化しなくて助かるよ。卵黄は栄養あるからな」
「すっかり人気者ね、ヒロは」
少し妬いたようにエリーゼが口を尖らせる。
「俺がキッチンに行ったらいつもこうなんだよな」
「普通ないぞ。ギルドに専用の食材置き場があるなんて」
「それに、住み込みさせてもらっているからね。本当にありがたいよ」
ヒロは積極的に家事や料理を行なうため、事実上白猫の爪団の住み込みスタッフのような扱いになっていた。
ギルド側も街の人が食堂などを利用してくれて助かっているらしく、住居の欲しかったヒロにとってもありがたい申し出だったため、お互いにウィンウィンのようだった。
「あ、そうだ。住んでるとこで思い出したけど、明後日くらいに灰の村へ里帰りしようと思うの」
「へぇ。なら俺もご一緒させてもらおうかな、先生にも挨拶したいし」
「じゃあ僕も行くよ。モンスターに守らせてるっていうの、詳しく聞きたいしね」
「あの狼は大丈夫だよ」
「そういう問題じゃない」
「はい決まり決まり! ヒロとジークは明後日の朝、噴水広場に集合ね!」
不穏な雰囲気をシャットアウトしようと、エリーゼが強引に話を締めた。
「それとさ、サリエラ」
「なんだよ。お土産ならいらんからな」
寂しさを紛らわすように不貞腐れている。
「ちょっと調べてほしいことがあるんだ」
そう、ヒロが二週間考えていたことを耳打ちをする。
「……なるほど。たしかに興味深い」
「お願い。これで轢いたこともチャラにするからさ」
「それぶり返すのやめろー!!」
首から下げられた鉄板をガシャガシャと鳴らしながら、サリエラは両手を上げて反抗の意を示した。
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