第3話 灰の村②
朝食をとり、いち早く身支度を済ませたヒロは、一人でコッソリとエリーゼ達の祖父へ会いに行くことした。
道中、村人に家の場所を尋ねたときに「いい心掛けだけど殺されるからやめたほうがいい」と念押しされたが、ヒロは恩を返さなければ気が済まない性分のため、エリーゼ達の家に足を進めていた。
「すみません。ゲオルクさん、いらっしゃいますか?」
「要件を言え」
玄関のドアをノックし家主を呼ぶと、年季を重ねた威厳のある声が返ってきた。
「昨晩、泊めていただいた礼を言いたく」
そう礼を言い切る前に、鋭利な刃物がドアを突き破って飛んできた。
刃はヒロの首の皮を掠め、そこからタラリと血が垂れてくる。
「出て行け。二度は言わん」
「すみませんお礼だけです! 失礼しました、ありがとうございました!!」
忠告を聞かなかったヒロは、結局いい加減な礼をしながら逃げ去る事となってしまった。
〜〜〜〜〜〜
「あんだけ忠告したのに、バカじゃないの!?」
「反省はしているけど後悔はしていない」
「ああ、もう……ヒロは転生者の中でもマトモだと思ってたのに」
「むっ」
ミライは、遺憾だと言いたげに頬を膨らませている。
「そりゃ転生者だぜ? ちょっとブッ飛んでないと面白くねーだろ」
「ここにも居たわ。転生者でも無いのにマトモじゃない奴が」
常識外の行動を取る三馬鹿に困り果て、エリーゼは思わず頭を抱えて座り込んだ。
「あと、モンスターの遺物は集めてくれた?」
「あー、あれね。例の白い狼が全部持ってっちゃったわ」
「むぅ。やっぱり最初からそれが狙いか」
「え。なんの話してんの?」
「あまり知らないほうがいい」
ミライが軽く突っぱねる。
「と、ともかく。これから首都に行くんでしょ。なら森を抜けるまで着いていってあげる」
「凄く助かるよ! 絶対に迷うだろうし」
「オレも着いていってやるよ。近道知ってるからさ!」
「アンタは転生者と話したいだけでしょー」
「首都までは空を飛んでいく」
姉に図星を突かれて唸り声を上げるクルトを見てヒロが笑っていると、ミライが口を挟んできた。
「え?」
三人の、素っ頓狂な声が響き渡る。
「いや、歩かなくても空を飛べば五分くらいだし」
「一度行ったことのある街に飛べる、みたいな感じ?」
「そんな感じ」
「うん、凄いなってのは思うんだけど……」
ヒロが指差した先には、どんよりとした空気を放つワァグナー姉弟が座り込んでいた。
片方は世話を焼けなくて、もう片方は転生者と話せなくて気分を害しているようだった。
「この空気どうするよ」
「関係ない。もう会わないだろうし」
「関係なくは無いだろ。助けてもらったわけだし、俺はもっとエリーゼやクルトと話したいし」
「コミュニケーションは必要最低限で十分」
「……いま思い付いたんだけど。首都で手続きを済ませたら、転移魔術で戻ってくればいいじゃない」
「あっ」
その手があったか、と転生者たちの声が重なる。
「よかった……これで暫くお別れは寂しいって思ってたんだよ」
「私は灰の村に入れるか怪しいんだけど」
「別に良いわよ、貴方は来なくても」
「オレもヒロから色々と聞くからいいし」
「むっ」
「自業自得だろ」
「ぷひゅ」
拗ねる二人に対してミライは不服と言いたげに頬を膨らませたが、ヒロに指で突かれてしまった。
「じゃあ、プロキア首都に転移する。ナカジマは私の手を」
「ついでに、これの換金をお願い。店の場所はメモしてあるから」
「折角だし、お土産買って来てくれよ!」
エリーゼは小包を、クルトはお使いをヒロに託していた。
「勝手に頼まれたら困る」
「オッケー、任せてくれ!」
「勝手に承っても困る」
「せっかく泊めてくれたんだし、これくらいはやらないとってね。首都を回って、アルテンシアをもっと知る良い機会だし」
「むぅ」
最もらしい理屈を並べられたため閉口するしか無くなったミライが、強引に左手でヒロの手を掴んで右手を天高く掲げる。
『プロキア首都まで飛べ』
宣言すると同時に術者の周りが青い光に包まれ、土煙が周囲に発生する。
そのままミライが跳躍すると、ジェット機のような速さで、首都があると思しき方向へと飛行を始めた。
「うぐっ!?」
「むんっ!?」
しかし高度五百メートル程で、突如見えない何かに阻まれてしまい、そのまま落下してしまう。
『浮かべ!』
地面に叩きつけられる直前で、ミライはヒロに右手を向けて宙に浮かせた。そして浮いた身体をパラシュートのようにして掴まり、着地した。
ちなみに浮遊魔術を解かれたヒロは、低い場所からとはいえ背中から地面に叩きつけられてしまった。
「ちょっと、戻って来ちゃったじゃ無いの!?」
「それより背中からいったぞ、大丈夫なのかよ!?」
「な、なんとか……これくらいなら」
「そんなことより、気をつけて」
駆け寄ったワァグナー姉弟たちも含めて、ミライが宝石付きの手袋を嵌めながら忠告する。
「この村は何者かに狙われている。見えない障壁に包まれて、出られないようにしてある」
「まさか……モンスターか?」
クルトが不安そうに問う。
「たぶん違う。モンスターがここまでの障壁を貼ったって話は聞いたことない」
「じゃあ盗賊団とか?」
今度はヒロが問う。
「もっとあり得ない、と言いたいけど。半分当たってるかも」
「え、それってどういう」
そのとき、村の外れから狼の遠吠えが聞こえてきた。
真っ先にヒロが飛び出し遠吠えの方へと向かうと、そこには腹を何かで裂かれた中年の男が横たわっていた。
「あれは!」
「あのモンスター、まさか」
「野郎、オレ達を閉じ込めて食う気で」
「ちが、う……」
村人は必死に身体を起こし、掠れた声で続ける。
「俺ぁ、このモンスターに、助けられた……襲われたのは、村の外だ……!!」
男は白い狼のモンスターの無実を証明すると同時に気を失ってしまった。
「クルト、はやく教会に運んで! ポーションを使わなきゃ」
しかし、姉の命令に対する返答は無かった。
先ほどまで側に居たはずの少年の姿が、こつぜんと消えていた。
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