第33話 崩れるもの
「大穴を崩すな!! ふさがらないように、土魔法で大穴を強化するんだ!!」
エディク王子の叫びながら指示している声がする。
「竜騎士以外は下がるんだ!! 大穴に落ちたら助からないぞ!!」
ウルリク様の大声まで聞こえる。
「ヴィルフリード様がお戻りになるまで、ここを死守するんだ!!」
ヴィルフリードさま……?
………………フリードさま!?
フリードさまの名前を聞いて、我に返ったようにガバッと起き上がった。
眼が覚めた先には、大勢の騎士たちにエディク王子。大穴を中心に、竜騎士たちが飛竜に乗り囲んでいる。
地響きが静まらない。地中ではなにが起こっているのか。大穴は、地響きのせいか少しずつ周りも崩れ出している。グラムヴィント様がきっと荒れ狂って暴れているのだと思うと、胸がえぐられそうなほど痛い。
私が浄化を途中までしかできなかったから、グラムヴィント様は荒れ狂う竜のままなのだ。
二ノ城の救助だけでなく、国中が混乱に陥っている。そのために、全軍が出動している状態だった。
「……エディク王子!! 私はどうしてここに!? グラムヴィント様はどうなさったのです!?」
身体に掛けられていた黒いマントをはねのけて立ち上がり、エディク王子に詰め寄った。
「リューディア……目が覚めたか。よかった……ウルリクがリューディアを連れ帰って来たんだ。……ヴィルフリードはまだ、この大穴の中に……」
「……まさか……フリードさまは……フリードさまはどこですか!?」
エディク王子が大穴を見て、そのままウルリク様に視線を移した。私が目覚めたことに気付いたウルリク様が飛竜で側に降りて来る。
「リューディア様。目が覚めてよかった……! ヴィルフリード様が、リューディア様を助けに行ったのです。ヴィルフリード様は、この国を崩壊させないために、地下に残っています。リューディア様を助けるために一人残ったのです」
フリードさまは、あの地下世界まで来てくれた。私のために……。思考が追い付かずに、声が震える。
「あ……あぁ……では、このマントは……」
「ヴィルフリード様が……リューディア様に……」
震える手で真っ黒のマントを握り締めてそう聞いた。そのウルリク様の答えに身体が崩れる。
フリードさまは、私のためにあの地下世界に来てくれたのだ。そして、今も私や国のために残っている。今も響き渡っている地響きはフリードさまと戦っているグラムヴィント様のせいだ。
死ぬのは私だったはずだ。私がいれば、グラムヴィント様と共にあの地下世界で二人だけで眠るはずだった。それなのに、今私はここにいて、フリードさまが地下世界にいる。
「イヤァ……!!」
フリードさまを助けなくては!
彼が私の身代わりになる理由などなかったはずだ!
今あの場所にいるのは、私だったはずなのだ!
崩れた身体を起き上がらせると、今までで一番大きな地響きがやって来た。倒れそうな私をウルリク様が支える。視線の先の大穴は、周りから陥没して崩れていく。
「イヤァ!! 穴をふさがないで!」
「リューディア様! 下がってください! 陥没に巻き込まれる!!」
「ダメーー!!」
力いっぱい叫んだ。それでもフリードさまには届かない。大穴が塞がれば出口などない。
陥没のせいか、城に引いていた水路まで溢れ出す。
「……っみな下がれ!! 流されるぞ!!」
エディク王子がそう叫んだ時に、大穴の周りを霧が包みだした。
「キュゥゥ……ッ!!」
いつ来たのか、邸にいたはずの白き竜が水を押し出して流れを変えている。でも、その水は、崩壊しているこの場ではなく大穴へと流れて行っている。
「やめてーー!! フリードさまが戻って来られない!! 早くフリードさまのところに行かないと……!! 早くしないとあの地下から出られないわ!!」
「やめてください!! リューディア様をお連れしてから何時間経っていると思うんですか!? ヴィルフリード様が自分で脱出してくるのを待つしかないんですよ!!」
フリードさまが死んでしまう。地響きも止まった。グラムヴィント様が尽きても、フリードさまがいないならどうして私はここにいるのか。
私を地上に連れ出してすでに何時間も経っていた。グラムヴィント様に眠らされていた私には、それがわからなかったのだ。空はすでに夕闇が下りて来そうなほど日が落ちていっている。
その場で、真っ黒のマントを抱きしめてうずくまり感情が崩壊したように泣き叫んだ。
さっきの一番大きな地響きはグラムヴィント様の最後の咆哮のように感じた。グラムヴィント様が死んでしまったのだ。そのうえ、竜聖女の運命にフリードさまを巻き込んでしまった。そのフリードさまも帰って来られない。
__もういない。もう誰もいない。
荒れ狂ったグラムヴィント様に人間が滅竜することなどできない。それどころか、この大穴に水が勢いよく吸い込まれるように流れ落ちている。
死ぬのは私一人だった。地上に帰りたかったのはフリードさまがいたからだ。
たくましくて、優しくてグラムヴィント様に似ていた方。そのフリードさまが私の代わりのようになってしまっている。
その時に、もう一度地面が割れる音が響いた。でも、この大穴ではない。崩壊した二ノ城が地面から攻撃されたように瓦礫が飛び上がった。それを見たと同時に轟音とともに一頭の飛竜が飛び出してきたのだ。
「……まさか……ブリュン……?」
泣き崩れている私を支えているウルリク様がそう呟く。
白き竜も「キュキュッ!!」と騒ぎだしていた。
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