第32話 漆黒将軍と黒緋竜

 数時間街を離れていた間に、城は壊滅状態。二ノ城に至っては、住めないほどの崩壊だった。いつも空からでも見えていたグラムヴィント様の巨大な籠の檻もない。すでに壊滅されて、その籠の檻があった場所にはゾッとするほどの巨大な穴が空いている。




「エディク王子!! 一体なにが!? グラムヴィント様はどこです!? リューディアは!?」


「ヴィルフリード! やっと帰って来てくれたか……!」




 エディク王子は、腕の立つ竜騎士たちを編成している。崩壊されたこの籠の檻には、リューディアの姿もない。リューディアが、グラムヴィント様のもとに召喚されたと報告を受けていたのに……。




「グラムヴィント様が、荒れ狂ってしまわれた。この惨状は全てグラムヴィント様がやったことだ……この二人が竜の逆鱗に触れたんだ……! それだけではない。リューディアが、グラムヴィント様と共に行ってしまった。すぐに助け出さないと……いくら竜聖女でも、荒れ狂ったグラムヴィント様がどうするかわからない。それどころか、無傷であってもリューディアが帰って来られないかもしれない!」


「リューディアが!?」




 グラムヴィント様がリューディアを連れてあの巨大な穴に潜ってしまった。そのリューディアを助け出そうとエディク王子は、腕の立つ竜騎士を編成している途中だった。




「リューディアは、俺が助けます。竜騎士はウルだけで結構……国中が、地震で混乱状態です。竜の咆哮のせいか、街の周りの魔物たちも狂い始めているんです。残りの竜騎士たちはすぐにそちらに回します」




 この巨大な穴なら、ブリュンに乗って進める。それほどの巨大な穴。闇に吸い込まれそうなほど先は見えない。それでも、リューディアはほうってはおけない。


 躊躇する理由などなかった。




「時間が惜しい! 行くぞ!!」


「ハッ!!」




 ブリュンに再度乗り、飛び上がると一気に大穴に向かって飛び込んだ。


 大穴は広く飛竜が翼を広げても、まだ余裕があるほどのもの。グラムヴィント様の巨大な体を考えれば当然だった。




「ヴィルフリード様! 灯りを燈します! 目を瞑ってください!!」


「頼む!!」




 後ろについているウルが、照明弾のように魔法で灯りを燈す。そのおかげで一線の光もない大穴が明るくなる。飛竜は暗闇でも人とは違う感覚で進んでいたようだが、それでも明るくなると、さらにスピードを上げた。




 ひたすらに飛竜で飛び進んでいると、竜の咆哮が聞こえる。それが振動になり、大穴の中の空気が震える。グラムヴィント様が暴れているのか、大穴が少しずつ崩れている。


 地に埋まってしまえば、飛竜では脱出できない。早くリューディアを助け出さなくてはと、はやる気持ちを抑えていた。


 


 そして、辿り着いた場所は開けた鍾乳石が乱雑にある巨大な洞窟。そこには、狂ったように荒れているグラムヴィント様がいた。




「リューディア! リューディア!!」


「ヴィルフリード様! あそこにリューディア様が倒れています!!」




 平べったいキノコのような鍾乳石の上にリューディアは倒れていた。背筋を凍らせながらも、すぐに降り立つ。彼女の名を叫ぶように呼び掛けると柔らかい唇からは息をしているのがわかる。




「リューディア……っ!」




 生きていたことに感無量になる。間に合わなければ……と脳裏をかすっていたものが消える瞬間だった。


 リューディアを抱えると、あの巨大な竜グラムヴィント様が鋭い眼光で目の前に来ていた。眼は血走っていて無機質なものにすら見えた。


 それが、リューディアを見ると、そっと瞼を閉じて雰囲気が変わる。


 


 この巨大な洞窟の中で暴れていたのか、すでに天井からは鍾乳石を含め、崩れ始めている。




「ウル。リューディアをこのまま連れて帰れ」


「ヴィルフリード様はどうするんですか!? ここは崩れるかもしれませんよ!?」


「……このまま、ここが崩れれば地上も陥没する。それに、そうなったらリューディアもここから出られない」




 抱き上げたリューディアをウルに渡すと、その開かない眼と顔が名残惜しい。あの大きく優しい瞳で竜を慈しむように世話していたリューディア。その愛おしいリューディアに自分がまとっていた黒いマントをかけて、そっと頬に口付けをする。




「……リューディアは必ず連れて帰るんだ。彼女がここで死んでいい理由はない」




 困惑したままのウルに、「行け」と言う。グラムヴィント様は、荒々しさを抑えられないのか尻尾を地面に叩きつけた。身体が揺れ、天井はボロボロと崩れる。




「グラムヴィント様。あなたにリューディアは返さない。ここも崩壊させない」




 武器召喚の魔法で、槍を出す。竜聖女じゃなくても不思議とわかる。グラムヴィント様は、死ぬ気だ。リューディアが眠っている理由はわからないが、彼女がこの状態ならもうグラムヴィント様は、以前のような穏やかな様子には戻らないだろう。今も喉を鳴らしながら、俺たちを見ている。




「俺はリューディアのように甘くないぞ! 黒緋竜グラムヴィント!! ……ウル! 行け!!」


「……っ必ずリューディア様をお連れします!!」




 平べったいキノコのような鍾乳石から、ウルが飛び降りると飛竜がすかさず二人を背に乗せる。ウルは振り向くこともなくやって来た大穴へと飛び込んだ。




 そして、グラムヴィント様の咆哮が響き渡った。














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