推しとコラボするために配信者始めたが、有名になり過ぎてしまった件

@NEET0Tk

プロローグ

◯ライブ開始


「今日はオリジナル曲を歌うということで、僭越ながら私の作った曲を歌わせてもらいます」



『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお/ヒカリすこすこ侍』


『待ってましたぁあああああああああああああああああああああああああ!!/ヒカリ大好きBOT』


『この日の為にスケジュール全部開けてきた件/ヒカリは僕の嫁』



「わ!!凄いコメントの量。えへへ、じゃあ私頑張ってみますね」


 少女はどこか恥ずかしそうにマイクを持つ。


 緊張を解くため、大きく深呼吸をする。


 そして


「聴いて下さい。Love& Destroy」



『意味が分からん過ぎて好き/侍』


『曲名がダサすぎて愛おしさしかない/BOT』


『厨二の男ですら思いつかない発想、神/嫁』



 少女はコメントを読み、自分のセンスが無いことに気が付き恥ずかしくなる。


「ぜ、全力で頑張ります!!」


 それでもなんとか最後まで歌い切り、どこか清々しい気持ちが残った。


「ど、どうでしたか?」



『どうやら俺の画面の向こうには天女が住んでいるらしい。他の配信者の歌ってみたなんてアホらしく聴こえてくる/侍』


『アイドル顔負け。Hikariの前じゃ有象無象の顔だけ連中が膝をつくに決まってる/BOT』


『端的に神。歌詞が秀逸過ぎてこの世の作品全てが滑稽に見えてしまった/嫁』



 一斉に好き勝手な感想を述べるコメントだが


「もうみんな!!ダメですよ!!」


 少女は少しご立腹な様子である。


「褒めてくれたことは嬉しいですけど、それで他の人を貶す言い方はよくないと思います。それぞれの世界に個性があり、それぞれの世界に好きなものを見出す人がいます。分かり合えることは出来ずとも、認め合うことはきっと出来るはずです」


 少女はニッコリと微笑んだ。



『ごめんなさい/侍』


『許して下さい/BOT』


『何でもしますから(ガチ)/嫁』



 手のひら返しで謝り出すコメント欄。


「あ、こ、こちらこそお説教を垂れてごめんなさい。私なんかが何様だって感じですよね。あはは」



『神じゃね?/侍』


『仏でしょ?/BOT』


『Hikari様に決まってる/嫁』


『『それだ!!/侍&BOT』』



「ふふ」


 そんなコメントの様子に少女はつい笑ってしまう。


『笑った。はい可愛い。さすがワイの嫁/嫁』


『は?いつも言ってるがお前の嫁じゃないからな?/侍』


『珍しく同感。自分のこと嫁とか名乗る前に外に出てみろよこの根暗/BOT』


『黙れ、リテラシー弱者と暴言厨/嫁』


『それどっちも私のこと言ってんでしょ!!殺すわよ!!/BOT』



「ああまた、もう皆さん喧嘩したらダメですよ」


 少女が抑制をかけるが、喧嘩で盛り上がるコメント欄。


『Hikariを困らせてんじゃねーよ!!/侍』


『それはあんたでしょ!!客観視を少しでも学んだら?/BOT』


『醜い争い。喧嘩は同じレベルでしか起きない/嫁』



「ど、どどどうしましょう」


 慌てる少女。


 だが少し冷静に眺めてみると、その姿が本当は喧嘩しているのではなく


「なんだか……皆さん仲良しですね」



『ありえない/侍』


『絶対ない/BOT』


『生理的に無理/嫁』


『言い過ぎだろ……/侍』



 やはりどこか仲が良さそうなコメント達。


「なんだか私だけ仲間外れみたいです。もしかして皆さんリアルでお知り合いなんですか?」


 少女の質問にコメントが動きを止める。


「あ、あれ?」


 少女は困惑する。


『限りなく関係性がゼロに近い/他人侍』


『さっきすれ違った人の方がまだ知り合いと呼べるレベル/BOT』


『てかお前ら誰?/嫁』


『お前こそ誰だよ。まさか有名作家とかじゃないだろうな?/侍』


『お前を殺す/嫁』


『争いは同じレベルでしか起きない、確かに言う通りだったかもね/BOT』


『ぶりっ子キモ/嫁』


『はぁ?あんたの方がぶりっ子でしょうがこの❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎(あまりにも酷い暴言)/BOT』

『おいクソBOTが!!Hikariのいる場所でなんちゅう言葉使ってんだカスが!!/侍』


 最早完全に身内ノリで盛り上がるコメント。


 それを見た少女はつい


「いいなぁ〜」


 言葉を漏らす。


『Hikari?/侍』


「あ、ごめんなさい、つい……」


 少女は自分の中から湧き上がる気持ちを言葉にする。


「いつか、皆んなと会えたらなぁ」


 愛おしそうに画面をなぞる。


 そこから伝わるのは人肌ではなく、ただの機械から発生する熱。


「私は皆さんの声も、顔も、名前も年齢も職業も何も知りません。それなのに、こうして毎日お喋りして、一緒に笑って、一緒に泣いて……私にとって、皆さんは気兼ねなくお喋り出来る友達だと思っています」


 少女の言葉をまるで噛み締めるように、コメントは動きを止める。


「それでも皆さんがそうして本当の意味で一緒なのは、やっぱりネットではなくリアルなんですよね。当たり前のことなんですが……その……少し寂しいですね」


 それはどこか危険な考えなのかもしれない。


「いつか皆さんと会えたらなぁ〜、なんて考えてしまいました」


 少女はその叶わない願望を口にした。


『……/侍』


『絶対にダメだから。ネットで会いたかがる連中なんて頭おかしいのしかいないから/BOT』


『ウグッ!!/侍』



「は、はい!!それは肝に銘じています!!けれど、皆さんなら大丈夫なのかもしれないと思っている自分もいまして……」



『絶対ダメだから!!本当は会いたいけど……それにかこつめられたら本当に危ないから!!/BOT』


『普段から可愛いしか言えないBOTだが、こいつはある意味一番そっち方面は信用して良いと思う/侍』


『危険なこともそうだけど、そもそもHikariに会ったら消滅する自信しかない/嫁』


『『分かる/侍&BOT』』



「そんな、私はただの一般的な高校生ですよ?私なんかよりも、そうですね……あ、あの人ですよ」


 少女は思い出したかのように


「有名な配信者のサトュンさん。あの方の声を聞いて消滅した人が続出したと聞いています。私も先日アップされた動画も見まして。本当に素敵なお声だったんですよ」



『な!!あ、あれを聞いたの!!/侍』



「はい。友達が見つけてくれて、それで聞いてみたら凄くドキドキするような曲でした」



『NOOOOOOOOOOOOOO!!!!/侍』


『滑稽/嫁』



「それに感動してしまい、私も曲を作ってみたいと思ったんです」


 結果として曲名は批判されてしまったが


「こうして私は思い出を一つ作ることが出来ました。これは私のリアルでは出来ないこと。みんなの前では猫を被る私の、ちょっとした抵抗」


 少女は自嘲するように笑った。


 だが、直ぐに元気を取り戻す。


『最高の思い出になった/侍』


『新曲待ってる!!/BOT』


『また聞いてみたい/嫁』



「皆さん……ありがとうございます」


 少女は笑った。


 ここはネットの中。


 それぞれが互いの素性を隠し、騙し騙されが当たり前の世界。


 それでも確かな繋がりが、思いが込められている。


「よし!!それじゃあ私歌います!!次は私の好きな曲を歌おうと思います。曲名は」


『ちょ、それはらめぇええええええ!!/BOT』


 こうして楽しく愉快な一日を終えた。



 ◇◆◇◆



「今日も最高だったな」


 俺はライブ終了の画面をしばらく眺め続けた。


 幸せの余韻がまだ体中を描き巡っているからだ。


 だが、そんな時間を許してくれないのがこの世界の辛いところだ。


「あー、そろそろ時間か」


 時計を確認する。


 既に時刻は22時に差し掛かろうとしていた。


「しょうがない、始めるか」


 俺はパソコンを操作し、準備を整える。


「そういえば昨日の曲……聴かれてたな」


 あれは元々Hikariの為に作った曲だが、いざ実際に本人に聴かれてると思うと恥ずかしいな。


「……」


 チラリを後ろを見る。


 壁に貼られた巨大な紙にはデカデカと


『推しとコラボする!!』


 そんな目標を立て早一年。


 それなりの値段をしたマイクも取り出し


「あー、あー」


 そして


「声って大丈夫か?」


 俺はマイクへと声を当てる。


「どうもこんばんわ」


 これは俺こと佐藤望が


「はぁ……ヒカリん今日も可愛すぎ!!」


 世界一の美少女と言われるアイドルと


「同性愛、結婚、可能な国……チッ、またまとめサイトに引っかかった」


 最強の作家と繰り広げる


「今日も推しのために死ぬ気で配信する男こと、サトュンです。以後お見知り置きを」


 一人の少女をただただ褒め称える物語である。


 そして


「おはよう、光」

「おはよう美樹ちゃん」


 そんな三人に振り回されてしまう私の物語でもある。

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