第40話

「うぐっ……」


「アークライトッ!!!」

 

 サイクロプスのお腹より伸びた五つ目の腕に腹を殴られて壁へと叩きつけられた僕は口から血を吐く。

 僕のHPはサイクロプスに殴られた瞬間に吹き飛んでおり、壁に叩きつけられたときは普通に生身であった。


「ふっぐ……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 息を吐き……視界が揺らぎながらも僕は立ちあがる。


「くくく」

 

 僕の口から笑い声が漏れる。

 

「あぁ……これほどの極致。終着点。いつぶりであろうか?」

 

 もはや刀を持つことも出来ず、ずるずると刀を引きずりながら歩く。


「やはり止まらぬか。やはり終わらぬか!さすがであろうぞッ!我が最高傑作!」


 楽しそうに言葉を漏らし、話し続ける男の言葉を聞きながら僕は内心で苦笑する。

 

 これはもう無理だろうな。

 

 僕は既に死に体。

 別にこれくらいの逆境であればいくらでもあった。

 HPがなくなり、腕がひしゃげ……それでもなお戦い、勝利してきたことなどいくらでもあった。

 しかし、僕の前に立ちふさがっていた敵はどれも僕の攻撃が通るものであり、かつ可能性が見えた敵だった。

 でも、このサイクロプスに勝つ未来を僕は見ることが出来なかった。


「お姉ちゃん……ごめん。無理だった」

 

 僕はお姉ちゃんに向けて話す。

 そんなことを言いだす僕に向かって話すお姉ちゃんの言葉をすべて無視して言葉を続ける。


「お願い……逃げて。僕は、お姉ちゃんの死ぬところを見たくないから。だから……お願い」

 

 返答など聞かない。


「ふー」

 

 息を吐き、血を纏う。

 僕はずっと封じ続けていた自分の枷へと意識を向ける。

 たとえ、僕の切り札を切ったとしても勝つことは出来ないだろう。

 でも……お姉ちゃんが逃げる時間くらいは稼いで見せる。

 僕がすべてを開放しようとしたその時。


「アークライトッ!!!」


「え……?」

 

 この場にリーミャの声が響き……僕は呆然と言葉を漏らす。

 僕が通ってきた廊下の方へと視線を向けた僕はそこにリーミャ


「なんでッ!?」


「安心してよ。私一人で来ているわけないでしょ?あなたと違って無鉄砲じゃないの。お願いします」


「おうよ!生きのいい後輩を守るのも先輩の仕事よォ!!!」 

  

 リーミャの言葉に反応したのは野太い男の声。

 その声と共に完全武装した5人組がリーミャの後ろから姿を現し、サイクロプスへと襲い掛かっていく。


「ボロボロすぎん!?HP消し飛んでいるのになんで立っているの!?」

 

 ここに来たのはリーミャだけじゃなく、アイとアリスもいる。


「馬鹿じゃないの?無理なら一人で突っ走っちゃダメでしょ」

 

 アイは僕を罵倒しながら回復魔法をかけてくれる。


「ふー」

 

 回復魔法を受けながら……僕はゆっくりと姿を消す男を見て深々と息を吐いた。

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