魔王討伐したけど最期に呪いでパーティメンバーヤンデレになった。

ACSO

呪いは祝い

 世界を滅ぼすことを宿命に生まれてた魔王は魔物を使役し、何十年何百年とヒト種の領土へと攻め込み続けた。


 絶望と死を振りまく存在に人々は恐怖した。


 ヒトたちは愛する家族を守るため、子どもたちの未来を守るため、種族の垣根を越えて手を取り合って戦った。


 ヒトと魔王の領土の境では何百万ものヒトがこれまで命を落とし、今もなおその数は増え続けている。


 そこは地獄である。


 だが、兵たちの眼には光があった。希望が宿っていた。


 それは神が選びし勇者の存在。


 代々受け継がれて来たヒトの支柱は、今代にして漸く魔王の目下まで進軍できていた。


 命を賭ける兵士、戦地に向かった男を待つ家族、国を守る為尽力してきた貴族、全ての責任を背負う各国国王たち。


 彼らの心の支えとなっている勇者たちは今、魔王との直接対決を迎えていた。










 勇者パーティの七人は満身創痍ながらも、眼前に佇む諸悪の根源、魔王アルビオンに武器を構える。


「今日でお前を殺す!」


 勇者エクス・グエス。

 綺麗にセットされていた金髪は今や泥や魔物の体液で汚れているが、その手に持つ聖剣は眩しく輝いている。


「絶対に倒す!」


 女性にしては少し低い声でそう叫ぶのは、剣聖ルミナリア・フリードリヒ。

 燃えるような長い紅い髪が呼応してたなびく。


「今日で終わりだよ」


 冷静にそう告げるのは、魔女アルマダ・エリシオン。

 若くして全ての魔法を修め、その希代の才能を弛まぬ努力で開花させた、パーティで一番小柄な少女は海のような蒼髪を一本引き抜き、魔法を使う。


「……民の不安をここで断つ」


 一番の重装備を軽々と着こなす、無口ながら凛とした聖騎士ルカ・グラント。

 最前線でタンクを務めあげる、強い女性。


「燃えるねぇ!」


 ニヤリ、と三日月に口を歪めるのは東方から来た最強のサムライ、カエデ・シノノメ。

 藍色の長い髪をポニーテールは、高い集中によって言葉とは裏腹に全く動かない。


「魔王を倒すことがわたくしの使命であり天明です」


 動きづらそうなシスター服を来た、儚い印象を受ける銀髪の女性、聖女マリア。


「……やるしかないか」


 そして平々凡々な才能しかなく、この場にいるのは明らかに場違いなシーフ、シロこと俺。


 相対する魔王は人の形を模ってはいるものの、黒いモヤのようなものでできたその実態は何なのかよく分からない。


「シーフ、行け」


「はいはい」


 勇者の声に俺は渋々先行して攻撃を開始する。


 俺の投げたクナイを合図に、人類の宿敵魔王との最後の戦いが幕を開けた。







 戦闘は熾烈を極め、魔王自ら行使する未知の魔法と生み出される一体一体が即死級の魔物たち。


 それらに対処しながら少しずつ、ダメージを与えていく。


 攻撃が通っても顔を歪めるわけでも、血が出るわけでもない魔王に、俺は山を手で掘って平らにしているような感覚だった。

 それに一撃でもまともに食らえば余裕で死ねる攻撃を回避しているのだから、肉体はもちろん精神的な疲労も尋常では無かった。


「ぐぅっ!?」

 

 所詮は凡人。

 ついに俺の右肩を魔王の魔法が直撃する。

 ドリルのように尖った攻撃は肩を突き抜けていった。


「お、らぁぁぁッ!」


 背後から俺ごと消し去る勢いで聖剣の突きが飛んでくる。


「ーーっ!?」


 俺は慌ててそれを回避し、大きく距離を取った。






 俺たちは何時間、何十時間も戦い続けた。


 そして死闘は決着を迎える。


「『鋼鉄の拘束』!」


 アルマダのなけなしの魔力と、生命力を犠牲にして生み出した魔法の鎖が魔王の五体を捉える。


「居合い『五月雨』」


 カエデの刀が魔王の右腕に突き刺さる。


「『炎剣』」


 ルミナリアの剣が燃え上がり、魔王の左腕を肩口から断ち切る。


「これで、終わりだ! 『ホーリーブラスト』ォォォォ!」


 そして最後に勇者の光り輝く聖剣が、魔王の胸を貫いた。


 すると、周囲の魔物が電池が切れたかのように生命活動を停止し、霧散する。


 魔王から生まれた魔物が消えた。


 これが意味することは即ち魔王が死んだということ。


 しかし、俺には妙な予感があった。


 ヒトを何百年と苦しめたあの魔王が、こんな呆気なく終わるのか? と。


 ドクンッ!


 鼓動のような音。


 俺は直感的に魔王に近い奴らに先におもりがついた糸を飛ばし、回収を試みる。


 アルマダ、ルミナリア、ルカ……


 順番に引っ張っていき、最後に勇者に狙いをつける。


 今までクソみたいな扱いをしてきたんだ。


 このくらいは許せよ。


 心の中で謝りながら、糸を投げようとした瞬間だった。


「ぐ、がぁぁぁ!?」


 死んだはずの魔王の四肢が勇者に絡み付いた。


 うざいくらいに眩しかった聖剣が明滅を繰り返し、やがて光が弱く小さくなっていく。


 捕らえられた勇者の身体も、異常なまでに急激にやせ細っている。


 まるで、生命力を奪われているかのように。


 想像もしていなかった出来事に固まっていると、脳内に音が響く。


『オノレ……タダデハ……シナン……ナヤメ……クルシメ……ソシテ……ゼツ……ボウ……シロ…………』


 言葉ではなかった。


 だが、何故かその音が言葉として理解できてしまった。


 刹那、勇者と魔王から黒い奔流が溢れ出し、その場にいた俺たちを飲み込んだーー。


















 目を開けると、そこは魔王と激戦を繰り広げた場所であり、パーティの面々が倒れている。


 肝心の魔王と、そして勇者の姿はそこにはない。


「なんだったんだ……」


 見るからにヤバそうな黒のモヤ。


 アレを俺たちは直に受けたはず。


 だが、俺の身体にはなんの影響もない気がする。


 勇者が死んだ? ことに関しては清々しい気持ちはあるが、この感情なのか?


「ん……」


 苦しそうに呻いたのは剣聖ルミナリア。


「お、おい! 大丈夫か?」


 慌てて抱き起こし、その安否を確認する。


「んぁ……? しろ?」


「ああ、そうだ。なんともないーーむぐっ!?」


 彼女の呼びかけに応える俺の口を塞いだのは、蕩けた笑顔で俺の顔を掴んだルミナリアの柔らかなくちびる。


「んむっ、れろ……しゅき……」


 とんでもなく気持ちのいいキスだったが、明らかに正常でない様子の彼女も罪悪感あり、本音と葛藤しながらも引き離そうと肩を掴む。


「むむぅ〜!? るにゃおりあ、やめーーんぐ」


 忘れていた。


 俺はこのメンバーの誰よりも雑魚なことを。


 剣聖であり、重たい剣を振り回す彼女に腕力で勝てるわけがないことを。


 そして舌まで俺の口に侵入し、あまりの快楽に崩れ落ちそうになる。


「んわっ!?」


「あうぅ……」


 陥落しそうな理性を引き戻したのは、ルミナリアに覆いかぶさるような体勢だった俺の胴体に腕を回して引き離した東方のサムライ、カエデ。


 強引に離されたルミナリアの腕が寂しげに空を掴む。


「な、なにしてるんだ!? シロとそ、そそそそそんなせ、接吻なんてズルーーけしからん!!」


 早口でテンパっているためつい後ろを向くと、真っ赤に染まった耳だけ確認できた。


「た、助かった、カエデ。ありがーーひぅ!?」


「せ、接吻は恥ずかしいから……耳ならありだよな? れろっ」


 耳に温かいぬめりとした感触が走り、身体がびくりと跳ねる。

 それに気を良くしたのか、カエデは耳舐めをより激しくする。


「んふ、んふふ。良かったんだぁ。れろ、えお……ぐじゅ……」


 脳を揺らすような感覚に、俺の意志とは無関係に身体がびくびくと反応する。


「ちょ、だめだって……うっ……」


 キスとはまた違った良さに、抵抗する気力が無くなっていく。


「接吻はまだダメだけど、付き合ってくれて一生の愛を誓ってくれるのなーーあぁ!?」


 突然俺の身体が宙に浮かぶ。

 ふわふわと運ばれる先は、魔女アルマダの胸の中。

 小さな身体の小さな胸に抱えられるように収まる。


 ガチャリ……


 響く謎の金属音。


 いつの間にか手錠と足錠が俺の身体を繋いでいた。


「あの、これは……」


「もう逃がさないよっ。アルとずぅーっと一緒にいよ?」


 えー、逃げてないし物理的にもう逃げられないんですけど……。


「これまでは勇者ゴミがいたから気持ちを表現できなかったけど、これからは本音で向き合えーーあ〜っ!?」


 濁った瞳を近づけられて少し怯えていると、グイッと襟首を引っ張られる。


「むふふ、ボクがキミを守ってあげるよ……。無口で木偶の坊って言われてたボクを凛々しいって言ってくれたのはキミだけ……。そんな優しいキミはボクが守ってあげなくちゃ……」


 怖い発言とは違い、その柔らかい胸部の装甲で俺を包み込む聖騎士ルカ

 普段盾を持ち敵の攻撃を引き受けるため、その力は俺を捕らえて離さない。


「キミの匂い……すぅ〜っ、はぁぁぁ……」


 首筋に顔を埋められ、思いっきり匂いを嗅がれると流石に恥ずかしい。


「世の中にはどんな悪い人がいるか分からない……誰にも見つからないところで守ってあげーーぁん!?」


 ルカの背後から手が伸び、そのデカい胸を鷲掴みにする。

 ルカが驚いて力が緩んだところで俺をするりと回収するのは、聖女マリア。


「いけませんよ、独り占めなんて……。はむっ」


 真正面から俺を抱きすくめるマリアは貯めた唾液を俺の口に流し込む。


「むぐっ!? んんぅ……」


 拒むことは許さない、と至近距離で瞳が訴えていて、顔を両手でがっちりと掴まれており、物理的に逃げることも許されない。


 結局、俺は甘い唾液を嚥下した。


「うふふ、よくできましたぁ。それじゃあ次はわたくしの番ですね」


 そう言うとマリアはルカ同様に首筋に顔を埋める。


「あぐっ!」


 違ったのは、彼女が俺の肌に歯を立てたこと。

 血が出るほど強く噛みつき、ちゅうちゅうとそれを吸い上げた。


「ぷはっ、あなたの血液、美味しいですよ」


 マリアは再び首に口をつけようし、


「待ちなさい!」


 普通に戻ったように見えるルミナリアに止められた。


「え、ええええっちなことはダメだぞ! 付き合ってないのに!」


「抜け駆けは禁止だよ!」


「……満足してないのに」


 ……正常に戻ったのかな?








 それから彼女たちは多少の会話を交わした。


 どうするのかと傍観していると、五人揃って俺の前に土下座していた。


「今まで勇者のいじめを止められなくてごめんなさい」


「止めたかったけど、もし反抗してか、かかか体の関係を強引に迫られたら……」


「どうしてもシロと一緒にいたかったの!」


「虫のいい話なのはわかってるけど……」


「どうか許してはいただけませんか?」


 とのことらしい。


「いや……とりあえず土下座はやめて欲しい」


 話しづらくて仕方ない。


「でも……」


「俺からのお願い」


 そう言うと、彼女たちは土下座をやめてペタンと女の子座りをする。


 予想外の展開に戸惑ってはいるが、俺の気持ちを話そうか。


「まず、俺は別にみんなの態度に怒ったことはない。俺が作る料理を勇者と違って一度も残したことはないし、食べカスすら残ってなかった。野営の片付けも自分たちの物は綺麗に整理して置いてくれてたし、地図とか備品を買った後は、こっそり俺の財布にお金を入れてくれていたよな? 態度は冷たいように感じることもあったけど、本当はいい子たちなんだと俺は思ってて、今その姿を見て確信したよ。だから別に俺は怒ってないから許すもなにもないよ」


 本当にクソやろうなのは勇者だけだった。

 まあいろいろあったが、言い出すとキリがないのでやめておく。


「「「「「うぅ……」」」」」


「で、あの黒いモヤを受けたと思うんだけど、何か変化はある?」


 俺が何より気になっているのは、魔王の死に際に放った黒い瘴気の効果。


「俺には何も起こっていないように感じるから、より心配なんだよ」


 すると、彼女たちはお互い顔を見合わせて覚悟を決めたように頷いた。


「実は、元々シロのことは大好きだったんだが……その感情とか欲望が爆発しそうなくらい強くなって、今すぐにでも襲って監禁して独占したい……」


「……え」


 ナニソレ?


「ですが、シロちゃんはもうわたくしたちといろんなことをしましたよね?」


「……ボクたちの責任、取って」


「い、いいい一生の愛を誓って?」


「もう、絶対逃がさないよ!」





 魔王は最期にえぐめの呪いを掛けたらしい。










 そして、俺たちがいろいろ祝うことになるのは近い未来の話。








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