にっぽん荒唐無稽ばなし
無頼庵主人
権兵衛の飲みくらべ
ある日、権兵衛がバーに行くと見慣れない男がいた。いつも権兵衛が座っている席におり、不快な心持ちがした。
しかし、権兵衛は週一度程度しか通っていなかったので、個人経営店にありがちな権力を持っている常連には到底なれず、しぶしぶ男から一席あけたところに腰掛けた。
権兵衛が甘ーいカクテルをちびちびやっておると男の方から話しかけてきた。バーではよくあることである。そして、これまたよくあることだが、偉いのか偉くないのかよくわからない肩書きの男だった。
なんのきっかけか、二人は口論になった。
拳と拳の闘いに発展しそうになったが、
権兵衛は相手の腕の太さに内心ビビっていたので、飲み比べを提案した。
喧嘩腰になっている相手はそれを断るはずがなかった。
「マスター!」
権兵衛はキープしておいた酒瓶をあけた。
そうして同じ銘柄の酒を一本注文した。
二人の前にはショットグラスが置かれ、飲み比べがはじまった。
瓶を片手、グラスを片手にグイグイ飲む。
みるみるうちに相手の顔が紅潮してきた。
(野郎、もうちょっとだな)
権兵衛は圧倒的な差をみせるためさっきまでの二倍の速さで飲み進めた。
権兵衛の顔色が変わらないのには秘密があった。ボトルの中は水なのである。
バーテンダーもグルだったのだ。
権兵衛は勢いづいてハイペースで飲み進めた。
一瓶、二瓶………と続いた。もちろん中は水である。
「ギブアップです……」
ついに男は降伏をつげた。
そして、権兵衛は水中毒で死んだ。
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