010 これがSNSの力だ!

 ボスが死ぬと、目の前に魔石と武器が現れた。

 大事なことなのでもう一度――武器が現れた!

 紺色の刀身が特徴的な両刃の剣『オーシャンズブレード』だ。


「やったぞカスミ! お宝ドロップだ!」


「おおおおお!」


 魔石の回収をカスミに任せ、俺は剣を拾った。

 ノーマルソードよりも軽くて、手に馴染んでいる。

 まるで俺に拾われるのを待っていたかのようだ。


「いい感じじゃねぇか」


 試しに剣を振るう。

 すると、空がゴゴゴォと轟いた。


「今の音は……!」


 ピンッときた。

 俺はすかさず冒険者カードで武器の情報を確認する。


[雷霆]オーシャンズブレード(E)


 案の定、OPに[雷霆]が付いていた。

 雷霆の効果は、通常攻撃に連動して近くの魔物に雷を落とすもの。

 戦闘の快適度を格段に上げることから、当たりOPとして人気が高い。


「どうせなら武器のランクも高かったらよかったのだがな」


 同じ武器でもランクにはばらつきがある。

 俺の知る限り、オーシャンズブレードの最高ランクはCだ。

 もしも雷霆付きのC級だったら、それだけで大金になっていた。


「ユウト君、その剣、売らずにとっておきませんか?」


 いくらで売れるか考えていると、カスミが言ってきた。


「売らないだって?」


「それがあれば、今後の狩りが快適になるじゃないですか」


「たしかにそうだが……いいのか?」


 俺たちの分配方法は均等である。

 魔石や武器は全て換金し、均等に分けるものだ。

 売らずに欲しい場合は、代金を支払う必要がある。


「私たちは固定PTですから」


 微笑むカスミ。

 なんていい奴なんだ。


「ありがとう、ならお言葉に甘えさせてもらうとしよう」


 オーシャンズブレードを装備し、ノーマルソードを処分することにした。


 ◇


 ボスの魔石は6万円で売れた。

 思ったとおり雑魚よりも遥かに高い。


「玉金スナイプ戦法なら楽に狩れるし、今後は可能な限りあいつを狩るとしよう。他の岩山にも窪みがあったし、今回ほど労することなく稼げるぞ」


「次からは雷攻撃もできるからますます快適になりそうですね」


「だな。たぶん5分くらいで倒せるだろう。移動などの時間を含めても30分足らずで6万――1人あたり3万円も稼げるぞ! 余った時間で別の魔物を狩れば更に稼げるし!」


「わー、すんごい!」


「とりあえず今日は疲れたからメシでも食って休むとしよう。流石にシャワーだけだと辛いから近くのスーパー銭湯にでも行こうぜ」


「いいですねー! 賛成!」


 ということで、今日の狩りを終えることにした。

 換金も済んだことなので配信を止めておく。


 ◇


 キャンピングカーに戻ってきた。

 スーパー銭湯へ向かう前に今日の配信結果を確認する。

 運転席に座り、スマホを取り出した。


「今日の視聴回数はどのくらいあると思う? 昨日は630人ほどだったが」


「昨日より多くなっていることを期待して1000の大台で!」


「俺もそのくらいあるとありがたいが、果たしてどうかな」


 ヨウツベを開いて確認する。

 そして、顎が外れそうな程に驚いた。


 視聴回数:10,219

 高評価数:1,120

 低評価数:30

 コメント数:401


 とんでもないことになっていたのだ。


「どうでしたかユウト君――って、なんですかこれぇ!?」


 後ろから覗き込んできたカスミもおったまげる。


「やばいぞ、アクセスカウンターが止まらん……」


 配信は終了すると、動画としてヨウツベに保管される。

 その動画がリアルタイムでガンガン再生されているのだ。

 先ほど1万だった視聴回数は、瞬く間に2万へ到達しようとしている。

 高評価とコメント、それにチャンネル登録者数もうなぎ登りだ。


「どうなっているんですか!?」


「おそらくバズったのだろう」


「SNSとかで拡散されているってことですか?」


「それか大物ヨーチューバーの配信ページに表示されている『似た動画』の欄に掲載されたかだな。どちらにせよバズったことに変わりねぇ!」


 驚異的な伸びを見ていると怖くなった。

 冷たい手で心臓を掴まれているような感覚に陥る。

 もちろん嬉しさもあるのだが、嬉しさ以上にそういった気持ちが強い。


「と、とりあえずコメントの確認だ」


 俺はコメントを開いた。


==================

0001 ぴゅりす:枠おつー(*´ω`*)

0002 TAROMARU:おっぱい! おっぱい!

==================


 まずは昨日と同じメンツのログが目に付く。

 ぴゅりすが可愛い顔文字でコメントし、TAROMARUが喚く。

 TAROMARUが50回くらい「おっぱい」と言ったあと、他のコメントが目立ち始めてきた。


==================

0071 松茸タケシ:やばいやばい!

0084 紅天狗マン:カスミちゃん、逃げて!

0103 韋駄天のギン:迫力ヤベェェェェ!

==================


 コメントの内容からボスに追われている頃だと分かる。

 俺たちの悲鳴に合わせて、リスナーも大興奮だ。


 だが、この盛り上がりはすぐに終わった。

 早々にスタミナ切れを起こして窪みに逃げ込んだからだ。

 最大の盛り上がりを迎えたのはその後――玉金スナイプである。

 ヨウツベに登録していない人たちのコメントが急増した。


==================

0182 未登録ユーザ:このヒットアンドアウェイ戦術、熱くね?

0211 未登録ユーザ:ボスを一方的にハメてるぞ

0252 未登録ユーザ:ザコもいないし、このダンジョン当たりだな

0289 未登録ユーザ:ゲートワード教えて

0314 未登録ユーザ:うお、倒しやがった!

0340 未登録ユーザ:雷霆武器出てて草

0382 ぴゅりす:ナイスファイト&ドロップおめー(*´ω`*)

==================


 俺の考案した玉金スナイプに絶賛の嵐だ。

 ハメ技なのが大ウケしている模様。

 おっぱい連呼民TAROMARUは鳴りを潜めていた。


「たぶんバズってる内容も玉金スナイプだろうな」


 調べてみたところ、思ったとおりだった。

 トゥイッターで、冒険者に関する有益な情報を呟くことで有名なアカウントが、玉金スナイプの部分だけを抽出してトゥイートしていたのだ。

 このトゥイートが拡散されまくると、今度はまとめブログがそれを取り上げた。


 噂が噂を呼ぶならぬ、人が人を呼んでいる。

 冒険者系の有名ヨーチューバーすら、俺の戦い方を話題にしていた。


「すごすぎですよ、ユウト君!」


「たまたまなんだがな……玉金だけに」


「そういう下ネタはダメです!」


「わりぃわりぃ――って、見ろよ、チャンネル登録者が1000人を超えたぞ」


 配信前は29人だったチャンネル登録者の数が一気に1000人を突破。

 これによって、動画に広告を貼り付けることが可能になった。

 念願の収益化だ。


「これはもう立派なヨーチューバーですね!」


「いやいや、今回のはただの偶然さ」


 俺は照れ笑いを浮かべてスマホをポケットにしまう。


「でもまぁ、今回の偶然が偶然でなくなるよう今後も頑張りたいな」


「私もユウト君の役に立てるよう精一杯頑張ります!」


「おうよ!」


 お祭り気分の中、俺たちはスーパー銭湯に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る