004 PTメンバー募集

 2日目が始まった。

 今日は朝からギルドに出向いて狩りをする。

 まずは肩慣らしで昨日と同じダンジョンへGO。


「1つ! 2つ! 3つぅ!」


 順調にスライムを切り刻んでいく。

 戦いを重ねるごとに恐怖が薄れていき、今や足が竦まなくなっていた。

 スライムの液体攻撃も注視していれば回避することができる。

 ゲームと同じで現実の魔物にも攻撃モーションが存在するのだ。


「ま、こんなものだろ」


 スマホで時間を確認する。

 12時になろうかというところだった。

 切り上げるにはちょうどいい。


 朝の2時間で倒した数は30匹。

 こいつらの魔石は常に最低価格の500円。

 それでも30匹なら1万5000円の稼ぎで、時給換算すると7500円だ。


「スライムハンターが後を絶たないわけだぜ」


 冒険者の中にはスライムハンターと呼ばれる連中が存在する。

 ひたすらにスライムだけを狩り続ける奴のことだ。

 単価が安くとも、今回のように乱獲できれば問題ない。

 下手にリスクを冒すよりも安全且つ効率的に稼げる。


「人が増えてきたし退散だな」


 流石にテンプレエリアは人が多い。

 俺はゲートをくぐってギルドに戻った。


 ◇


 特区内の飯屋で昼食を済ませたら午後の活動を開始する。

 午後の狩りからは配信を行う予定だ。


 今朝のスライム狩りはカメラを回していなかった。

 スライムを狩る動画は人気がないからだ。

 それに配信を行うとバッテリーがえげつない速度で消費される。

 いずれは過去の配信動画による広告収入だけで生活したい俺としては、動画の品質にもこだわっていきたい。


「さて、仲間を募るとするか」


 冒険者の醍醐味はパーティーだ。

 仲間がいることで実力以上の敵に挑戦できる。

 それに、仲間がいれば緊急時の生存率が上がるってものだ。


 ギルドの各コーナーの手前にあるテーブル席の数々。

 そこの一つに腰を下ろし、俺はスマホを取り出した。

 PTパーティーメンバーの募集はスマホの専用アプリを使うのが主流だ。


「これでよしっと」


 情報を入力して確認画面を表示する。


==================

■募集要項

【場 所】奥多摩第1ギルド

【形 態】野良

【性 別】不問

【年 齢】不問

【ランク】不問

【タイプ】不問

【謝礼金】1000円

【分 配】均等

【説 明】

Fランクの狩場に行く予定

当方デビューしたての初心者


■PTメンバー

①金好 ユウト(21歳、男、F)

②なし

③なし

④なし

==================


 場所は此処・奥多摩第1ギルドであっている。


 PTの【形態】は今回限りの関係を想定しているので「野良」だ。

 ここで「固定」を選択すると、末永いお付き合いを求めていることになる。


【性別】【年齢】【ランク】は選り好みできる立場にないから不問でOK。

【タイプ】はアタッカーやヒーラーなどの戦闘タイプのことだが、これも不問だ。


 PTに入ってくれた者に支払う【謝礼金】は1000円。

 本当は1円も払いたくないが、1秒でも早く応募して欲しいので支払う。


 魔石やアイテムの【分配】については均等でいいだろう。

 早い者勝ちの「任意」や話し合いで決める「相談」は面倒くさい。

 皆で平等に山分けするのが一番だ。


 あとは今回の募集に関する説明を入れて完了だ。


「おー、見てる見てる」


 募集情報のページにはアクセスカウンターが設置されている。

 投稿してからわずか1分で20人近い冒険者が読んでくれた。

 その後もアクセス数は順調に増えていく。


 ……が、しかし。


「応募しろよこいつらよぉ! 頼むよほんとさぁ!」


 どれだけ待っても応募者が現れない。

 まぁ、どうしてそうなっているのかは見当がつく。


 まず俺はデビューしたての初心者を公言しており、しかも男だ。

 冒険者の世界でも他と同じで、初心者の男は世知辛い思いをする。

 性別が女だったら、今頃は下心に満ちた男が群がっていただろう。


 さらに場所が奥多摩――これも最悪だ。

 奥多摩は東京都に存在するけれど、アクセスは不便である。

 というより、東京都に存在するからこそ不人気なのだ。

 東京都であれば、新宿や渋谷のギルドへ行くのが普通である。

 わざわざ奥多摩まで来る人間は少ない。

 組んでやろうと思っても「奥多摩じゃあなぁ」となる。


「こら待つだけ無駄だな」


 仕方ないので別の方法でメンバーを探すことにした。

 その方法とは――ずばり、現地調達だ。


「その武器めっちゃカッコイイっすねー! ドロップすか?」


「お、あんちゃんコイツの良さが分かるか? 若いのにやるねェ!」


 こんな感じで適当な人間に話しかける。

 俺は元ニートだが、人と話すことにそれほどの抵抗はない。

 だからガンガン話しかけて、まずは距離を詰める。


「ところでよかったら俺とPT組まないっすか?」


 で、相手が気分をよくしたところで本題だ。

 すると相手は「しゃーねーなー」と承諾する――はずだった。


「すまんな、それは無理だ」


 あっさり拒否された。

 命を張る仕事で新米と組みたくない、という気持ちは分かる。

 俺は少し食い下がり、ダメそうなら引き下がった。


「よかったら」「俺と」「PT」「組まないすか?」


 その後も色々な奴に声をかけてはPTに誘う。

 しかし、どいつもこいつも返事は「すまんな」の一点張りだ。

 そんな時、一人のおっさんが承諾してくれた。


「Fかー、僕にもそういう頃があったなぁ」


 昔を懐かしむおっさん。


「狩場は君に任せるよ。それか僕のオススメにする?」


「どっちでもOKすよ! あっ、その前に配信始めますねー」


「えっ? 配信?」


 ここで問題が生じた。


「はい! 俺、ヨーチューバーなんすよ!」


 嫌な予感を抱きつつも元気よく返す俺。

 だが、おっさんの表情は険しくなった。


「それじゃあ……一緒に組むことはできないな」


 予感的中だ。

 おっさんは一秒でも早くこの場から離れたそうにしている。


「な、なんでっすか?」


「だってほら、ヨーチューバーの冒険者って視聴者を沸かせる為に無茶するでしょ? そういうのって本人はいいかもしれないけど、カバーするほうからしたら最悪なんだよね」


「いや、自分はそんなことは……」


「それにさ、うっかりカメラの前でお気に入りのゲートワードを話しちゃったら大変だよ。翌日どころかその日には拡散されて、他の冒険者がやってくる。そういうのが嫌なんだ」


 このセリフで思い知らされた。

 配信者が人気なのはネット上に限った話なのだ、と。

 現場からは鬱陶しい奴でしかないのだ。


「そっすか……」


「ごめんね」


「いえ」


 おっさんはその場を去り、話は白紙に戻った。


「PTの戦いを配信するならやっぱ固定メンバーが必要だなぁ」


 人気配信者でもない限り、野良のPT配信は難しそうだ。

 ――と、思いきや。


『PTの参加を希望している人がいます』


 冒険者アプリが通知を出したのだ。

 俺は慌ててアプリを確認する。


 吉見よしみカスミという19歳の女が参加を希望していた!

 Fランクの妨害担当デバツファーとのことだ。


「応募があっただけでなく女だ! ひゃっほい!」


 アプリの情報は冒険者カードとリンクしているので偽れない。

 つまりネカマの可能性がないので、これはもう手放しで喜べる。

 やはり男よりも女、男よりも女なのだ!


 俺は光の速さで申し込みを承認した。

 すると吉見カスミからメッセージが届いた。

 今から向かうので1時間ほど待ってくれ、とのことだ。

 俺は二つ返事で快諾した。


 ――そして1時間後。

 ギルドの扉が開き、女と思しき者が入ってきた。


 170cm程の身長、脂ぎった顔面、ゴキブリみたいなテカテカの髪。

 全身はパンパンに膨らんでおり、体重は150kgぐらいありそうだ。

 そんな生物学的には女って感じの女が俺の向かいに座った。


「えっと……吉見カスミさん?」


 恐る恐る尋ねる。

 頼む、違うと言ってくれ! 頼む!

 心からそう願った。


 俺の願いに対する運命の回答、巨体女の返事は――。

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