ニートから冒険者になった結果、想像の100万倍すごかった

絢乃

001 グッバイ・マイ・ファミリー

 好きな言葉:不労所得、一攫千金

 嫌いな言葉:努力、勉強

 それが俺、金好かねよしユウト(21歳、ニート、童貞)だ。


 今日も俺は自室のPCに張り付いていた。

 ディスプレイに映るのは動画サイトの〈YoTubeヨーチユーブ〉。


『これは勘ですが、この魔石は相当な価値がありますよ!』


『魔石の換金所にやってきました!』


『査定結果はぁー』トゥルルルル……ドン!


『なんと8万円! あんなザコで8万円とは、これは美味い!』


『このダンジョンのゲートワードが気になる冒険者諸君はオンラインサロンに参加してね! URLは下の概要欄から!』


『視聴者の皆様、よければチャンネル登録と高評価よろしく!』


 ディスプレイの向こうでは、人気の冒険者系ヨーチューバーが狩りの成果をアップしている。

 コイツは冒険者として活動する傍ら動画の広告収入で年に数億円を稼ぐ大物だ。

 人気なだけあって楽しめる動画ばかりだが、いつも大変そうである。


「そこまで頑張って金を稼いでどうするんだろうな……。それも命懸けでよ。魔物との戦闘に負けたら死ぬかもしれないんだぜ。やっぱり家でまったり過ごすに限る」


 パソコンに向かって独り言をつぶやく。

 これが俺、高校卒業から今に至るまでニートを貫いてきた男の台詞だ。

 最近は独り言が増えてきていた。


 大学受験に失敗して以降、俺はニート生活を満喫している。

 両親は最初こそ「バイトしろ」だの言っていたが、すぐに何も言わなくなった。

 世間体を気にしない、物分かりのいい寛容な両親だ。

 ――そう思っていた。


「ユウト、ちょっと下りてこい」


 一階から親父が呼んできた。

 おそらく皿洗いや風呂掃除をさせたいのだろう。

 ニートでも、いや、ニートだからこそ、そういう“重労働”は必要だ。

 これがニートの処世術。


 俺は視聴していた動画に低評価を押してから一階に下りた。

 居間に行き、ダイニングテーブルに座る親父へ尋ねる。


「風呂掃除でもすればいいのか?」


 すると親父は、何も言わずテーブルの上に茶封筒を置いた。

 札束でも入っていそうな膨らみ具合だ。


「50万、入っている」


「アメリカドルか?」


「日本円だ。今は真面目な話だぞ、ユウト」


「あっ、はい」


 俺は親父の向かいに座った。

 台所にいた母親が俺の前にお茶の入ったグラスを置く。

 迷うことなく飲み干す。

 おかわりを要求すると無視された。


「母さんと話したんだがな」


 この時点で悟った。

 追い出されるのだと。


「嫌だ! 出て行きたくない! ニートがいい!」


「察しのいい子だ。分かっているなら出て行ってくれ」


 親父の無慈悲な言葉が突き刺さる。


「なんでだよ! 母さん! 父さん!」


「そりゃお前、世間体ってものがあるからな」


 その後も俺は駄々をこねた。

 グラスを壁に叩きつけたり、包丁で壁を斬りつけたり、ふすまを頭突きで破ったり、それはもう暴れに暴れまくった。

 それでも両親の決意は固くて、俺は追い出されることに決まった。


「生むだけ生んで思い通りにいかなかったら育児放棄ぽいすてかよ!」


 ひとしきり暴れ終わった後に吐いた台詞だ。

 これはよろしくなかった。


「その腐った根性を叩き直してこいっつってんだ!」


 親父の右ストレートが俺の頬を貫く。

 横に回転しながら派手に吹き飛んだ。


「誰にもぶたれたことなんてなかったのに!」


 俺は金の入った茶封筒を懐にしまい、部屋に駆け込んだ。

 大学用に買って使っていなかった黒のバックパックに荷物を詰める。

 スマホ、充電器、着替え、タオル、それから、セクシー画像が印刷された光沢紙のファイルも忘れない。


「って、おい、マジかよ」


 準備をしていて気づいた。

 スマホの電波が入っていない。

 今日に合わせて解約していやがったのだ。

 これではただのデジタル文鎮である。


「出て行ってやるよ! だからほら、鍵をよこせ!」


 準備が終わったら一階の居間に行き、親父に言う。


「鍵ってなんだ? この家の鍵か?」


「そんなわけないだろ! 俺が住む家だ!」


「あるわけないだろ」


「はっ?」


「その50万を使って家を探せ。保証人にもなってやらん」


「ふっざ、ふざけ、んなよ! 保証人ってなんだよ!?」


「そんなことも知らないのか……まぁいい、失せろ」


 親父は驚く程に冷たかった。だがまだマシだ。

 母親に至っては目を合わせようともしない。

 人の心ってものがないのか。


「そうかい、ならコイツを貰っていく!」


 俺は鍵入れの箱から鍵を一つ取り出した。

 親父の愛車であるキャンピングカーの鍵だ。

 これがあれば宿に困ることはないだろう。


「それは俺の……まぁいい、くれてやる」


「ダメと言われても貰っていたさ、じゃあな」


 俺は家を飛び出し、キャンピングカーに乗った。

 幸いにも車の運転免許は持っている。

 車の運転なんぞお手の物だ。

 レーシングゲームでも鍛えていたしな。


「とりあえず適当に駐車できるスペースを探さないとな。出発だ!」


 ギアをRに入れてアクセルペダルを踏む。


 ドゴォ!


 車はまさかのバックを始め、ケツから壁にぶつかった。


「クソッ、間違った! 前進はDだった!」


 今度はどうにか前に進んだ。

 キャンピングカーなので動きがもっさりしている。


「飛び出したはいいがどうするか……」


 幅の広い車道を走りながら考える。

 俺みたいな落ちこぼれの家なしにまともな労働は期待できない。

 かといって、ニートでGOとはいかなくもなった。

 何かしらの手段で金を得る必要がある。


「そうなるとアレしかないな」


 俺はヨーチューバーの広告収入で生きていくことに決めた。

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