36:醜悪と清廉

 



「え?完全な犯罪者に成り下がったのですか?」

 リディオがマルツィオを殴り収監された翌日、アンドレオッティ子爵家に連絡が入った。

「しかも被害者が殴られた理由が、ジュリアと昼食を食べていたかららしいのだよ」

 父であるカルミネの説明に、ジュリアは「え?」と目を見開いた。


「昨日のお昼は、中庭の四阿あずまやで親切な方と相席になり……え?まさか、ポルカーリ伯爵令息が被害者ですの?あの時が初対面でしたのよ!?」

 驚くジュリアに、カルミネが頷いてみせる。


「何でも、前はあのクズと寮で同室だったらしい。その時に、アンドレオッティ子爵家が貧乏では無いと教えなかったのは、ジュリアを狙っていたからだと言い出したそうだ」

「自分が悪いのではないですか!」

「普通はそう思うんだけどなぁ」

 ジュリアの言葉に、カルミネは遠くを見つめた。




 アンドレオッティ子爵家の諜報部で、ジュリアはマルツィオの様子を確認した。

 とりあえずは病院で意識を取り戻したらしく、すぐに命がどうこうという心配はないようだ。

 但し、まだ退院はしておらず、今日は精密検査を受けるとの事だった。


「お見舞いに行っても大丈夫かしら?でも、ある意味私のせいだから、不快にさせるかしら?」

 責任を感じて気落ちするジュリアを、諜報部の人間は必死に慰める。


「お嬢様は、一切悪くありません!」

「勿論、被害者のマルツィオ・ポルカーリ伯爵令息もですよ」

「彼の友人も目撃者も、皆、悪いのはあのクズだと声を揃えて言ってます」

「それにポルカーリ伯爵令息は、人間が出来ていますので、お嬢様を恨む事は絶対にありませんよ」


 諜報部員達の励ましに、ジュリアの表情が明るくなる。

「それならお見舞いに行く事にするわ。まず病院に問い合わせて、面会出来るか確認して。あ、食べ物の制限が有るのかもね」

「はい。かしこまりました」

 一人が部屋を出て行く。


「学園には、本日はお休みするむねを連絡してください。たとえお見舞いに行かなくても、ポルカーリ伯爵家にはお父様と行かなくてはですもの」

「はい。旦那様の予定も確認して参ります」

 更に一人、部屋から出て行く。


「もし食べ物の制限がなかったら、ポルカーリ伯爵令息の好物を調べて、購入しておいてくださいね」

「承知いたしました」

 一礼してから、三人ほどが部屋を後にした。



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