35:もたらされたもの

 



 サンテデスキ伯爵家では、次男が同級生に暴力をふるい収監されたと連絡が入り、その対応に大童おおわらわだった。

 てんやわんや?てんてこまい?

 とにかく、皆がせわしなく動き回っている。


「学園内での暴力沙汰なのに、なぜ牢屋に入れられたんだ!?」

 息子を牢から出すには保釈金が必要なのだが、そんな大金は今のサンテデスキ伯爵家には無い。

 ドメニコはその金策の為に、他家へ借金の申込みをする手紙を書いていた。



「父上、サンテデスキ伯爵家の名前で申し込むのはやめてくださいね」

 長男のラッザロが冷たく言い放つ。

 通常業務を放り出し、リディオの件にかかり切りの父親に代わり書類をチェックしていたラッザロは、山になった書類を揃えて父親の前に置いた。


「これは、後は当主の決済印があれば良い書類です」

 冷静なラッザロの態度が気に障ったのか、ドメニコはラッザロの置いた書類を机の上から払い落とした。

「お前はなんて冷たい人間なんだ!そんなヤツはうちにはいらん!出て行け!」

 ドメニコの言葉を受けたラッザロは、ニッコリと笑った。



「それは、縁切りの言葉ですね?では、本日をもってサンテデスキ伯爵家との縁は切らせていただきます。あぁ、大丈夫ですよ。手続きは全てこちらでしますので」

「な、何を?今のは言葉のあやで……」

「嫡男に向かって勘当すると宣言した事が言葉の綾で済むとでも?今の言葉は録音してありますので、ご安心を」


 ラッザロはポケットから小さな四角い箱を取り出した。

 最近発売された『録音機』だ。

 大切な商談などに使われるようになってきた、アンドレオッティ大財閥の新製品だった。




 ドメニコは、書類の散らばった部屋で茫然としていた。

 馬鹿な子ほど可愛い……そんな気持ちで、リディオの件を処理していた。

 そこには、頼りになる後継者が居るからこその安心感があったから出来る事だった。


 それが、根底から覆ってしまったのだ。


 優秀なラッザロがやると言っていたのだから、確実にサンテデスキ伯爵家の籍から抜ける手続きを恙無つつがなく終わらせるだろう。

 サンテデスキ伯爵家には、前科者になる確率の高い次男しか後継者がいなくなってしまった。



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