02:婚約通知

 



 ジュリアの婚約者になったリディオは、実家から突然届いた婚約を知らせる手紙を丸めて床に叩きつけ、足で踏み潰した。

「何で俺が格下の子爵家へ婿入りしなきゃいけないんだ!」

 学生寮は二人部屋である。

 同室の友人が何事かと驚いてリディオを見ている。


 肩で息をしているリディオを見て、同室のマルツィオ・ポルカーリ伯爵令息が声を掛けた。

「君、次男だろう?婿入り先が決まったなら喜ぶべきでは?」

 マルツィオは三男なので、親が婿入り先を見つけてくれるより、自力で就職先を探した方が早いと諦めている。

 その為、リディオが羨ましいと思っていて、怒っている理由が解らなかった。


「お前!子爵家だぞ!?格下だぞ!同じ伯爵にも婿を探している家はあるのに、子爵だぞ!!」

 リディオのあまりの剣幕に、マルツィオは曖昧に笑って話を終わらせた。



 伯爵家側からしたら、格上の公爵・侯爵家の次男や三男を狙うだろう。

 縁付くなら上の爵位の方が良いに決まっている。

 同じ伯爵家から選ぶにしても、優秀な人材を求めるはずだ。

 まだ学園に入学して3ヶ月だが、リディオが優秀だとは思えなかった。


「ちくしょう!ふざけるな!!」

 リディオは踏み潰した手紙を、更にボロボロになるまで踏みにじった。

 そしてそのまま手紙を放置して、部屋を出て行ってしまった。



「これは捨てて良いのかな?でも婚約の通知だしなぁ」

 マルツィオは手紙を拾い、広げた。

 週に1度入る掃除夫がゴミと認識しないように、どこかへ仕舞おうと思ったからだ。


「え?子爵家って……」

 見るとはなしに見えてしまった婚約相手の名前を、マルツィオは二度見してからじっくりと確認した。

 国内どころか、世界的にも有数の大財閥の本家である、アンドレオッティ子爵家の令嬢が相手である。


「え?何が不満なの?むしろ相手が大き過ぎてプレッシャーとかそういう事?でもあの様子だと、絶対に違うよなぁ」

 マルツィオは眉間の皺を深くしながら、リディオの机の引き出しに手紙を入れた。

 彼がそこには何も入れていないのを知っていたからだ。

 正式な文書ではなくとも、婚約通知を無くしたなど相手に失礼だし、リディオも困るだろうと、マルツィオの親切心からの行動だった。



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