第27話

 年が明け、ようやくクランハウスに住めることになった。今はホテルからの引っ越し中で、今は南さんと望月さんの部屋へ来ている。


 「南さん!手間賃払うから、ちょっと引っ越しのお手伝いをしてください!」


 南さんたちは、冒険に必要な武具やメンテナンス道具など、そこまで荷物は無いらしいが、俺はスキルの関係上たくさんのアイテムをクローゼットに仕舞い込んでいたので、一人ではかなり時間が掛かると思い頼みに来た。

 スライムゼリーやポーション瓶、そのほかクラフトで作った剣などのアイテムや、その素材たち。スライムゼリーの在庫も、空のポーション瓶の在庫も少なくはできたが、貧乏性が発揮され、ただ買い叩かれるだけの素材や作成品を売ることができず、自分で使おうと取ってあったのが仇となった。


 「あはは…東城君…この量は凄いね…。」


 いつもニコニコ笑顔の南さんの顔が、ちょっと引きつっている。

 

 「色々作らないとスキルレベルが上がらないし、かといってFランクのアイテムで作れるものは買い叩かれるから自分で使おうかと思って…。」


 「松明は、仁さんがスパイダーダンジョンで役立つとか言ってたもんね。でも今から準備してたら、私たちが行けるようになるまでに倉庫一杯になっちゃうよ?」


 「クランの倉庫に入れておけば、きっと仁さん達が使うから大丈夫。クラン倉庫に入れた分はクラン活動費から支払われるみたいで、仁さんからポーションとかの消費アイテムは定期的に補充してくれって頼まれてるんだ。」


 ギルドへ卸してしまうと手数料が取られてしまうが、クラン内で動かす分には手数料は掛からないので、俺たちの収入が少し増える事になる。1回1回は微々たるものでも、10%の手数料は地味に大きい。


 都会の規模の大きなクランなどでは、職人系や運搬系のスキル持ちを数人抱えて、クラン内で素材や武具を回し、非戦闘要員のクランメンバーの収入を底上げをしているらしい。


 「まぁ、そういう大きなクランにいる非戦闘要員って、俺らより余裕で強いらしいけどね。AランクとかBランクダンジョンにいっても自衛か逃げる程度はできるレベルらしいから。」


 「私たちがそんな所に行ったら、きっと逃げる間もなく死んじゃうね。」


 「うん。だから、CとDランクのダンジョンのあるこの街でクランを作ってくれた仁さんには感謝しないとな。鍛えればここでなら俺らも活動できるって言ってくれたし。」


 そんな感じで南さんとおしゃべりしながら、何往復かしてようやく全てのアイテムの引っ越しが完了した。



☆☆☆



 夕方にクランハウスのコミュニティエリアで、俺と南さんと望月さんの三人で話し合いをしていた。


 「私たちと東城君の三人で本格的にパーティを組もう!」


 望月さんがそう言い出したのが始まりで、そうなってくると分配やダンジョン探索以外でどこまで協力し合うのかなどをしっかりと決めておかないといけない。


 「それならダンジョン探索の分配方法と、アイテム関係もしっかりと決めておいた方がいいな。三人みんなが同じように稼げるようにしないと。」


 そして話し合いの結果、ダンジョン探索では南さんと望月さん二人の魔力を可能な限り使用し、俺の魔力は温存しておく。みんなで素材集めなどを協力し、帰宅後に俺がクラフトでアイテムを作る。魔石とアイテムの売却金額からポーション瓶などの経費を差し引いたお金を三等分するという話に決まった。


 この話し合いの中で、「三人でスライムダンジョンに行けば午前中だけで大量のスライムゼリーと薬草が手に入るし、昼からゴブリンダンジョンに行けば、大量に腰巻や木が手に入るから、ポーションも松明も作り放題だ!」という話が出たので、俺がポーションを作り続ける状況は変わらないようだ。



 「ポーションと松明もたくさん作るけど、個人的には隣町のEランクダンジョンのウルフからドロップする革で防具を作りたいな。今使ってるやつもまだまだ使えるけど、だいぶ汚れが酷くなってきてるし…。」


 「「えっ!?」」


 「準備が整ったらすぐに行こ!ウルフ狩りだ♪」


 「私、大きな鞄をもう一つ用意してくね!たくさん持ち帰って私たちの分も作って!」



 二人は革の胸当てなどは装備していない。欲しいなとは思っていたらしいが、お金を貯めてスチールの物を買おうと思っていたんだとか。ただ、革装備でも有るのと無いのでは違うので、できれば欲しかったらしい。革が手に入ったら、二人の分を先に作ってあげよう。



☆☆☆



 夜、翌日の準備をしていると仁さんが俺の部屋にやってきた。


 「コウ、ちょっといいか?」


 「仁さん、どうしまし…た?」


 仁さんが両手に持っている大きな袋たちが目に入り、嫌な予感がした。


 「コウには出来れば色んな物を作ってもらいたいんだがな…申し訳ないがコレを引き取ってくれないか?」


 そして押し付けられた袋の中身を見ると、スライムゼリーがぎっしりと入っている。


 「全部で2万個ちょっとあるんだが、こんな量ギルドに持っていったらさすがに怒られるだろ?由紀ちゃんに押し付けるのも可哀そうだし、コウがポーション作りに使ってくれ。これだけあればスライムダンジョンに潜らなくていいから時間の節約になるし、その分Eランクダンジョンで頑張ってこい!」


 いや、上手いこと言ったような顔してるけど、後半のは後付けだよな!?てかこんな量どこから仕入れてきたんだよ…。

 とりあえず「ありがとうございます…。」と言って受け取り、入る分だけクローゼットに突っ込んでおいた。


 溢れているスライムゼリーもそのうち減っていくだろうと諦め、明日からは三人でEランクダンジョンなので、寝坊しないようにさっさと寝ることにした。

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