第21話 約束
『カタン・カタン・カタン』
階段を降りる足音が静かに私の耳元に響いてくる。一定のリズムの足音は焦りも迷いもなく力強い意志を感じ取る事ができる。
「伯爵様は覚悟を決めたようですね。私も覚悟を決めなければ」
アーダルベルト伯爵は、クローヴィス兵士長と真摯に向き合い今までの清算をつけるために、1人で地下牢に行くことを決断したと私は判断した。幼い頃からの親からの虐待行為は、クローヴィス兵士長の傀儡によって起きた惨事であり、親の意思ではない事をアーダルベルト伯爵は理解したのだろう。
足音は地下牢の扉の前で聞こえなくなり扉は静かに開かれた。辺り一面に血痕と肉片が飛び散り、鉄の錆びたような異臭が漂う地下牢で、アーダルベルト伯爵は眉1つ動かすことなく辺りを見渡していた。
すぐにクローヴィス兵士長の姿を確認することができなかったアーダルベルト伯爵であるが、動揺や不安も感じることなく、冷静な面持ちで地下牢を隅々まで観察していた。
「死んでしまったのですね」
地下牢の床で静かに横たわっているクローヴィス兵士長の姿を見たアーダルベルト伯爵は、驚く様子を見せることなくクローヴィス兵士長の死を受け入れた。
「あっけないものですね。私はこの方の傀儡によって喜怒哀楽を失い、人生を奪われ、息をするだけの人形として生きていました。しかし、そのような生き方に不満を感じる感情もなかった。でも、アルカナさんを見たとき私の脳天に雷が直撃したような電気がほとばしり、脳を活性化させ、考えるという感情を呼び覚ましてくれたような気がしたのです。アルカナさん・・・あなたはいったい何者なのでしょうか?」
アーダルベルト伯爵の目はクローヴィス兵士長の死体から、胴体と頭だけになった私の方に向けられていた。
「アルカナさん・・・そんな姿になってもまだあなたは生きているのですね」
両腕と両足を失って血の池に沈んでいる私の姿を見たアーダルベルト伯爵だが、私が生きていると確信している。
「あなたはただの『治癒師』だとおっしゃいましたが、それは本当なのでしょうか?いくら治癒学に精通しているからといってもあなたの力は『治癒師』の枠を凌駕しています」
アーダルベルト伯爵は、私に近寄ることなく地下牢の入り口で無表情のまま淡々と語り掛ける。
「あなたの力は『レア称号』に匹敵する力を有しているはずです。しかし、私はあなたの力を詮索をするつもりはありません。しかし、協力をお願いしたいのです。私はあなたと出会い感情という感覚が少しわかったような気がしたのです。私はクローヴィスから洗脳されていた事実を知った時、私はクローヴィスと決着をつけなければいけないと感じたのです。以前の私ならそのような感情が芽生える事はなかったはずです。私とあなたとの出会いはまだ数時間ですが、確実に私は変わりつつあるのです。あなたが私の屋敷のメイド募集に来たのは、何か裏があるのでしょう。私に協力できることがあればなんでも致します。なので、私が感情を取り戻せる手助けをしてもらえないでしょうか?」
その部屋はアーダルベルト伯爵邸の3階にあり、その部屋から聞こえてくる獣の鳴き声のような悲鳴は、背筋が凍りつくようなおぞましい声であった。そのおぞましい声の発信源は亜人種のオークの男性であり、長年この部屋に閉じ込められており、両足を切断され両手を頑丈な手錠で拘束されて全裸で吊るされている。このオークの体を鉄の棒でいたぶって楽しんでいるのがアーダルベルト伯爵と噂されているが、実際に行っているのはシェラルトであった。
「シェラルト様、クローヴィス兵士長が地下牢に監禁されました」
「はぁ!どういことだ」
兵士はシェラルトに事情を説明した。
「そんなバカなことがあるか!あいつは『レア称号』の『傀儡師』だぞ!アイツに逆らえるヤツなど『レア称号』を持っていない限り不可能だ」
「シェラルト様、あまり余計な事をおっしゃってはいけません。どこで誰が聞いているかわかりません」
「やかましい!俺に指図をするな。くそ!くそ!」
シェラルトは苛立ちのあまりオークの体を鉄の棒で殴りつける。オークは体を硬化して攻撃を防ぐことができるが、あまりにも弱っているために硬化することができずに悲鳴をあげる。
「なぜだ!なぜだ!アイツが処分されたら俺たちの安息の地が失われてしまう」
シェラルトは奇声をあげながらオークの体を何度も何度も鉄の棒で殴りつける。オークの体は長年にわたって痛めつけられているので、皮膚の色は紫色に変色し
、両目は潰され、鼻はえぐられ、牙は全部抜かれて喋る事もできず、獣の鳴き声のような悲鳴だけかろうじて発することができる。
「その新しい執事を殺せ!そいつになにか原因があるはずだ」
「クローヴィス兵士長を追い詰めた執事です。一筋縄でいくとは思えません。上の支持があるまで待つべきではないでしょうか?」
「さっきも言ったよな。俺に指図をするな!」
シェラルトはオークを痛めつけるのに飽きたようで、ズボンを脱い女性のオークの体におおいかさぶった。
「シェラルト様、そのオークはすぐに処分すべきと命令があったのではなかったのでしょうか?」
「だ・・・か・・・ら・・・俺に指図をするな!お前は俺の言われたとおりに動けばいいのだ!」
シェラルトはオークの陰部にイチモツを突っ込んで腰を激しく振るのであった。
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