その悪役令嬢の右腕は今夜も疼く
カワサキ萌
第1話 転生
「えーっと、じゃあベタですけど、最強の力でお願いします」
「うん?確かにベタといえばベタですけど、本当にそれで良いのですか?なんでもいいんですよ?私の話、聞いてました?」
自分のことを女神と呼称するこの金髪碧眼のお姉さんは、首を傾げるとそう疑問を俺にぶつけてくる。
どうやら俺は死んだらしい。一体いつ、どこで死んだのやら。ふむ、あとで思い出しておくか。とにかく死んだ俺が次に覚醒したその時、俺はこのなにもない真っ暗な空間にふわふわと幽体のごとく漂っていたのだが、そんなときにこの目の前の女神様が現れたのだった。
――しかしこの女神様、めっちゃ可愛いな。付き合いたい。
そんな女神様が言うには、なんでも俺の魂は異世界に強制的に転移させられようとしているらしい。いわゆるネット小説なんかでよくある異世界転移的な事態が発生しているそうだ。
しかし本来、異世界の魂を別世界に転移させることは神域では御法度の行為らしく、現地へのペナルティの意味を込めて転移者に特別ボーナスとして神の御加護をくれるしい。
異世界から人を呼ぶのはお前らの勝手だけど、どんな結果になっても文句は言うなよ、っていうかヤベーチートスキルつけるからお前の思い通りになるとは限らないからな、というのが神域側の言い分だそうだ。
そらそうよな。相手の意思とか関係なしに無断でよそ様の世界の人間を召喚するのだから、やってること誘拐と変わらんし。デメリットの一つや二つあってもおかしくないわな。
ちなみにどんな加護をもらえるかは自由に選べるとか。この可愛い女神様がいうには、望む限りどんな能力でもくれるらしい。チートやん。
正直迷った。だってこの女神様、よくみると凄い美人なのだ。異世界とかどうでも良いから、この女神様と付き合える権利とかくれないかな、と一瞬思ったが…
『それは神域に干渉するので無理ですね』
とにべもなく断られた。
ふーむ。そっか、女神様とは付き合えないのかあ。そうなると、別にこれといってやりたい事があるわけでもないし、かといって奇をてらって変な能力もらうのもなんかアレだしね。
そりゃあ、欲を言うならモテモテになる能力が一番だよ?でもさ、これから俺が向かう場所って異世界だぜ?平和な日本の常識とかまったく通じない、剣と魔法と死の螺旋が入り混じってる危険地帯だよ?モテモテになる前に力がないと死んじゃうかもしれないじゃん。生きてこそのモテモテよ。だったらまずは生存を優先してどんな敵がきても生き抜けるだけの力があった方がいいじゃないか。
じゃあベタに最強になれる加護でええか、ということで冒頭に戻る。
「なんでも良いのですよ?お金持ちだったり、それこそあなたが考えたような異性にモテる加護でも良いのですよ?本当にただ最強になるだけの加護で良いのですか?」
「え?…ああ、考えてることバレてるんですね。うーん、それは…もちろん…、モテモテも良いですよ?でもやっぱり命あっての物種ですし。お金があっても弱かったら盗まれますからね。やっぱりなにがあるかわからない異世界に行くなら、最悪世界を敵にまわしてもやっていけるだけの力は必須かなあ、と思いまして」
「ふむ。チャラそうな見た目だったので軽薄そうな人かと思っていましたが、意外と考えているのですね。ふーむ、ただですねえ」
なにを迷っているのやら、女神様は腕を組んで考え込む。そのせいでその形の良いおっぱいがむにゅっとたわわに変形していた。素晴らしいな。
「最強って難しくないですか?ただ力が強ければ良いのか、それともあらゆる魔法の頂点に達する究極魔法が使えるようになればいいのか、それともどんな困難にも立ち向かえる強靭な精神力とか、いろいろありますよね?」
「ああ、なるほど。言われてみたらそうですね。じゃあですね、こういうのはどうですかね…」
「ふむふむ。なるほど、そういう方向ですか。でしたらこういうのも欲しいですね。あ、そうだ、こうしたら…」
「ああ、それいいですね。じゃあこうした方が…」
「となるとこういう力も欲しいですよね?」
「さすが女神様、それは気づきませんでした。確かに必要ですね!じゃあこうして…」
そんなこんなで時計がないから詳しい時間はわからないのだが、体感で一時間ぐらい俺たちは一緒に最強について論じ合い、物理から魔法、精神攻撃などなどあらゆる攻撃に対して耐性を持ち、どれほどのモンスターが相手だろうとぶっ倒せるだけの力を有する最強の加護【女神フレイヤが考える最強スキル】をもらった。
やったね!これさえあれば初めてのファンタジー世界でも楽勝だよ!
「できた!これなら異世界でもやっていけそうです!ありがとう女神様!」
「いえいえ、どういたしまして。私も久々に有意義な時間を過ごせました」
よっぽど退屈でもしていたのか、なんだか達成感のある笑みを女神様は浮かべていた。
「では転生者よ。其方にはこれから大いなる困難が待ち受けているかもしれません。しかし今の其方ならばまったく問題ないでしょう。我の加護と共に其方の前途に幸あらんことを」
「はい、なんかありがとうございます!では異世界に行ってきます!」
そして再び意識が途切れる。その間際…
「…ふう、もしかしたらとんでもない化け物を送ってしまったかもしれませんね。でも仕方ありません。勝手に他の神域の魂を呼び込もうなんてする方が悪いのですから」
そんな声が聞こえたような気がした。
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