第43話 散りゆく運命編(6)

 さっそく麗美香達は、待ち合わせ場所のカフェ・ミルフィーユの向かった。商店街の一角にあり、こじんまりとしたカフェでがあるが、店長が美人で麗美香や豊もドギマギとしてしまう。意外と優はそんな事はお構いなしのようで、栗子に会えた感動に浸っていた。


 豊が紅茶を注文し、飲みがら幸村について話す事にした。


「それにしても悪魔崇拝儀式で人を殺す事何てあるのかしら。私は信じられないわ」


 紅茶を飲みながら麗美香は呟く。ここの紅茶はフルーツティーというもので、林檎やベリーなどの果物がポットの中に入っていた。砂糖を入れなくてもほんのりと甘く、麗美香の頬も思わず緩むが、今はきっとそれどころではない。


「まあ、かなり口封じはやってそうだし、船木さんの話によると警察も役に立たないっぽいな」


 優は腕を組んでため息をつく。さっきまで笑顔ではあったが、やっぱりこの話題には表情は重くなる。


「芸能界は黒いですよ。まともな人だったら、きっと辞めてますねぇ…」

「豊さん、それを言ったらうちの親はどうなるのさ」


 優の母親も父親も芸能人だった。まあ、父親の方は実力で売っているミュージシャンのようなので、芸能界というよりは音楽業界ではあるわけだが。


「まあ、あの二人はメンタルが鉄のように太いですからねぇ…。それに浩さんの方は親もミュージシャンですし、その点に於いては少し事情が違うかもしれませんね。浩さんは作曲や楽器演奏などの実力もありますから」


 優の父はそんな家庭だったのか。麗美香は初耳だった。


「坊ちゃんは芸能人にはならないの? ルックス的には、かなり良いと思うけど?」


 麗美香はふと頭に浮かんだ疑問を優にぶつけた。まあ、おバカだから台本を覚えられるかは疑問であるが、ルックスはかなり良い方だ。


「俺は芸能人になるのは嫌だね」


 意外とキッパリと宣言していた。


「私も反対ですね。ピュアな坊ちゃんが黒く染まっていくのは、見ていられませんよ…」


 豊はつくづく芸能界には否定的なようだった。


「そうだよ、俺は探偵になりたいし!」

「だったら勉強しなさいよ。犯人が英語ペラペラだったらどうするの? 化学の知識を使ったトリックしてきたらどうするの? きちんと敬語も使えないとクライアントに失礼になるわ。国語の勉強もしなさい」


 麗美香はついつい現実的な事を言ってしまう。本当は税金や納税の仕組みに勉強もしろとも言いたかったが、そこまで言うにはちょっとキツすぎると思って麗美香なりに自重した。


「そっか。学校の勉強って探偵に役立つんだね」

「そうよ。まあ、例え探偵になれなくても、学校の勉強がわかっていた方がミステリも楽しめるわ」

「よし! 帰ったら勉強しよ!」


 ついにそんな事まで優に言わせてしまい、豊は目を丸くしていた。


「あぁ、あの坊ちゃんが勉強のやる気を持っているなんて…! 私は感動しました!」

「そうだよ、豊さん。僕はこれからガリ勉になる!」

「いや、ガリ勉はいいから普通に高校生レベルぐらいまでは知能つけてよ…」


 麗美香がため息混じりに言うと、この場は笑いに包まれた。そこうしているうちに時間が過ぎ、栗子の親戚だという女性がやってきた。


「こ、こんにちは。栗子おばさんに呼ばれてきたんだけど、ここでいい?」


 カフェに入ってきた女性は、とにかく暗そうな女性だった。まだ二十代ぐらいと思われるが、前髪が長くいかにも隠なオーラが漂っている。優や豊の姿を見ると身構えていたが、麗美香を見るとホッとしたように座った。


「三田瑠璃花です……。雪村くんがいた事務所で働いていたけど、何を聞きたいの?」


 瑠璃花は、下を向きながらポツポツという。よく見ると目の下は腫れていた。雪村の死についてショックを受けているのは明らかだった。


「ごめんね。ちょっと聞きたい事があるんだ」


 優が明るく言ったものだが、瑠璃花は泣きそうな顔をしていた。

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