第25話 芋臭女子の大変身編(5)
次の日の日曜日。幸花と接触する前に学校の近くのドラッグストアに寄ってみた。
普段はドラッグストアでは、マスクやニキビ薬ぐらいしか買わないわけが、今日はメイクコーナーに直行した。
メイクコーナーに行くと麗美香は落ち着きがなくなる。色鮮やかなアイシャドウやマニュキア、美人芸能人の化粧品のポスターを見ていると場違いだとしか思えない。ファンデーションやアイブロウも何種類もあり、もはや迷宮である。安いものから高いものまでズラリと並ぶメイクコーナーを眺めながら、この中から自分に合うものを選ぶのは不可能のようの思えてならない。
店員がこちらに視線を向けてきた。万引き疑っているのかもしれないが、麗美香は決してそんな事はしない。万引きした化粧道具で綺麗になれるとは思えない。例え外見は取り繕えたとしても神様が見ているだろう。
化粧道具の迷宮から、アイプチを探してカゴに入れる。幸花の顔写真がついたアイプチが売っていた。花のように笑う幸花の顔の横には「可愛いは作れる!」というメッセージ入り。果たしてそうだろうか。整形とも化粧とも言えないような微妙な立場のアイプチを持ってレジに持っていく。
「ありがとうございます」
店員に袋に入れてもらって購入した。こんな化粧道具を買っているなんて、ちょっと店員に笑われた気もしたが、それは被害妄想だろうか。
そのままドラッグストアのトイレに行き、アイプチを試してみる事にした。
試してみた感想は一言。まぶたが痛いし引っ張られるような感覚がする。心なしか瞬きが不自然に見える。鏡を見たが、特に変化しているような気がしない。むしろ、若づくりのおばさんのような珍妙な感じが増している。優はメイクすれば良いと言ってきたものだが、期待して損した。
やっぱりこんな化粧道具で激的に綺麗になれそうにない。ましてちょっとメガネをとっただけで、美女に変身する少女漫画はファンタジーと言って良いだろう。
麗美香は瞼の上のピリピリに乾いたアイプチを丁寧に剥がしてオフした。
しかし、学校では一応校則ではメイクが禁止。化粧しているクラスメイトは多いわけだが、別にそんな事をしていなくても許される。地味で芋臭いだけで優等生に見られる事だって不可能では無いだろう。
ただ、社会に出るとハシゴ外してくる。学生時代はメイクはダメなのに、大人になったらマナーだからしましょうと言う。麗美香は秘書検定の資格も持っているが、メイクはマナーとあった。
理不尽である。結局真面目で芋臭い子よりもこんな校則を無視してメイク慣れしている子の方が社会に馴染み易いわけだ。
メイクだけでない。
学校では従順さを求められる。先生の言う事を聞く子が良い子。しかし社会に出れば「指示待ち人間か?自分で考えろ」と言われる。今の麗美香は、社会に出ていないわけだが、そんな風にハシゴは外される様子が手に取るようにわかる。
本当に理不尽だ。
学校は別に社会に出るために学ぶ所ではないのだ。理不尽さだけを押し付けれ、学校で「真面目で良い子」は、ブラック企業の養分になるか、ニートにでもなるのがオチだろう。全くブスで陰キャらしい考えばっかりしてしまった。
そんな事を考えながら幸花の家の方に向かう。事件の事などは全く分からないが、今は美人な幸花だが、社会に何らの鬱屈した思いを持っていてもおかしくは無いだろう。犯人かかどうかもわからないが、ブスを経験した美人なんて、生粋のブスよりも歪んだ思想を持っていてもおかしくはないと麗美花は思う。
そんな事を考えながら、ついにあのひき逃げの現場に着く。
今は、昨日の喧騒が嘘のように平和を取り戻していた。つくづく被害者が助かって良かったと思うが、警察による看板が出ていた。
事件の詳細や日時などと共に、犯人の目撃談を寄せるよう協力を呼びかけている。どうやら警察も事件解決までは進んでいないようである。
「ふうん。犯人はまだ捕まっていないのね」
麗美香に隣に看板を見るめる人物がいた。
幸花だった。
そばで見る幸花は、化粧がちょっと濃いめではあるが、美人に見えた。目も大きい。ファッションもピンク系統に纏めて、フェミニンな雰囲気をまとめている。
SNSの画像で見せるような胡散臭い笑顔を麗美香に見せてきた。ブスに優しいというのは、本当らしい。
「あの! 幸花さんですよね? ファンです!」
麗美香は、あのアイプチを見せながら幸花に声をかけた。
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