第24話 芋臭女子の大変身編(4)

 幸花は「元ブスの美容系インフルエンサー」としてネットで話題の人物だった。


 その夜、麗美香は、全てバイトや勉強を終えると、一人ベッドの上にごろ寝しながらスマートフォンをいじる。


 幸花について調べていた。


 事件にかかわっているのか何なのかはわからないが、怪しい人物であるのは変わりがない。何か手がかりがあるかもしれない。


 幸花はブスで中学高でいじめられていた。身体に危害も加えるようないじめも受けていたようで思わず顔を顰める。


「やり返せばいいのに」


 気の強い麗美香はそう思うが、一般的には無理である事はわかっていた。


 幸花のブログに当時の状況が書かれていたが、読んでいると気分が悪くなるほどいじめ描写が細かい。


 ただ、当時の写真が載っていたが、今の麗美香に似たような雰囲気の芋草い女子高生だった。思わず親近感が湧くが、いじめられてもグッと耐えているだけの描写をみる限り、麗美香は幸花と気が合わないだろうなぁと思った。


 こんないじめられっ子の幸花だったが、大学進学を機会に変身した。ダイエットと化粧、ファッションを勉強し、今や一躍美人インスタグラマーとして活躍しているようだ。最新の二重にする化粧品・アイプチの広告塔にも決まったようで、商品と一緒に幸花の笑顔の写真が載っている。


 写真だけ見ると違和感はないが、優を嫌う理由は何だろうか。


 確かに変身した姿は、垢抜けて綺麗になってる。インスタグラムなどのSNSの投稿もそつがないと言うか、優等生的で誰もが好感を持ちやすい雰囲気もある。もちろん、美女やイケメンの悪口も載っていない。


 ただ、なんとなく幸花に笑顔に胡散臭さも感じる。確かに芋臭バージョンに比べれば綺麗ではあるが、だからといって芸能人並みに綺麗かといえば微妙であるし、ありふれた話題にも感じる。幸花の人気がいつまで続くかはわからなかった。


 世間には「いじめられた人の方が人の痛みがわかる」なんて言う名言もあるようだが、麗美香はそれは嘘じゃないかという気がする。結局「いじめっ子の価値観」に合わせて変身しただけものが多いようの感じる。


 ネット上での幸花の評判を調べてみた。ファンも多いようだが、アンチもそこそこいた。熱心なアンチは、整形だと決めつけ、比較画像もあげている。麗美香はその熱意に圧倒される。熱意というか、悪意たっぷり含まれているように感じるが。


 ただ、ファンへの対応はとても良いようで、特に芋臭いブスへの対応が丁寧らしい。麗美香はこれを見逃さなかった。これは優が接触するより、自分が幸花と接触した方がいいかも知れない。別に優にように推理したいわけではないが、イケメンに厳しい幸花に興味がわく。


 事件に関係あるかは不明であるが、幸花に胡散臭さい笑顔の写真を見ながら彼女に接触する事に決めつけ。


 翌朝、キッチンで朝食を作っているとき、優がやってきた。今日に朝食は、和食だ。味噌汁、納豆、玄米ご飯、卵焼き、菜の花におひたし。菜の花はまだ消費しきれそうにないので毎日のように食卓にあがっていた。


 偏食の優はヘルシーだが、地味な朝食メニューを見ながらブーブー文句を言っていたが、いつもの事などでスルーした。しかしこんなに偏食気味なのに全く風邪ひかないのは羨ましい。本人に聞くと、小学生の時の一回インフルエンザになって以来、風邪をひいていないそうである。バカは風邪引かないというのは、本当かもしれない。まあ、麗美香はこんな事は決して口に出せないが。


「坊ちゃんは事件について何か解りました?」

「それは全くわからん! ネットにも目撃情報がないようなんだよね」


 優は事件調査について全く進んでいない様で、イライラと髪をかきむしる。


「そう。私はやっぱり幸花が怪しいと思う。彼女に接触しようと思うのよ」

「えぇ、マジで? 俺と一緒に行くか?」

「いいえ、結構。彼女のファンのフリして行くから」

「つまんないの」


 自分が活躍できないと悟り、優は文句を言い始めた。事件の謎が全く解けてないないせいか、普段陽気な優もちょっとイライラとしているようだった。


「あれ? 麗美香ちゃん?」


 なぜか優が麗美香の珍妙な顔をじっと見つめ始めた。


「な、何?」


 優はイケメンであるが、全くオスには見えない。こうして見つめられても「宿題を減らそうと媚を売っているのか?」と思うほどだった。


「麗美香ちゃんって意外とまつ毛長くね? それに眉毛も手抜きし放題でほったらかしの割には、形綺麗じゃない? 化粧すればいいのに〜」

「そうかしら。メガネ取ったら美女だなんて少女漫画じゃあるまいし。それに私は普段メガネしないし」

「いやいや、そういう話じゃなくてさ。なんか勿体無いなって」

「そうかな」

「そうだよ。麗美香ちゃんの容姿が悪く言われるのは、雰囲気のせいだよ。ちょっと化粧すれば変わるって。姿勢もいいし、スタイルも悪くないじゃん」


 どうも男性は化粧を万能な魔法のような考えている面があるように感じる。確かにそれで綺麗になる確率は上がるだろうが、土台から崩壊している麗美香からしたら、微々たる差しかないと思う。


「そうかなぁ」

「そうだよ!」


 珍しく優は頑固で意見を変えなかった。


「麗美香ちゃんの容姿を悪く言う奴はいたら、俺に言うんだよ」

「何で?」

「俺がボコボコにしてやるんだから!」


 ドヤ顔でそんな事を言う優に麗美香は思わずクスリと笑ってしまう。今まで容姿を悪く言われてきたもにだが、彼らが優にボコボコにされている様子を想像すると胸がスッとする。麗美香は始めて優は王子様のように格好いい存在に見えた。まあ、be動詞もわからなかった優をオスには思えないが、学校でキャーキャー騒がれる理由もわかってしまった。ちょっと王子様のようではある。


「でも整形はしちゃダメだからね、麗美香ちゃん」

「何で?」

「身体は神様から貰ったものだよ。それを自分勝手な願望で土台から変えてしまうのは、きっと自己肯定感が減るね」

「そう? むしろ自信がつきそうだけど?」

「自信なんて、他人の評価に依存している限りつくわけないっしょ」


 おバカな優なのに、その言葉は真理ををついていると思った。そう思う麗美香も学校に成績の点数よりも、長い英単語が聞き取れるようになったとか、食材を余らせずに料理ができた時の方が嬉しかったりする。誰かの視点が一斎介入しない完全な自己満足だ。それで良い結果を得た時の方がなぜか楽しかった。


 そう思うと、整形で無理矢理綺麗になる事は、本当に良い事かわからなくなった。まあ、麗美香は土台から崩壊していると自覚はあるし、何より金もないので、そんな事をする予定はないが。

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