第十五話 未来に目を向けて
メアさんの一件から二年の時が流れた。あれから私は、アルバート様と正式に結婚をして、マグヴェイ家を支えながら、彼の隣で幸せに暮らしている。
「ふふ、とても綺麗だね」
「ありがとうございます」
今日はアルバート様のお誕生日パーティーだ。それと同時に、アルバート様が、王立魔法研究所という魔法を研究する施設の主任になった、記念のパーティーでもある。
そんな記念日を祝う為に、とても綺麗なドレスを着た所をアルバート様に見てもらっているの。
「アルバート様こそ、とても似合ってるわ」
「ありがとう」
控えめではあるが、嬉しそうに頬を赤らめながら笑うアルバート様。
あの日にようやく吹っ切れたのか、アルバート様は無理に明るく振舞う事は無くなった。そして、あの死んだような目には生気が宿り、今ではとてもキラキラと輝いている。
そんなアルバート様は、私と正式に結婚した後、社会に再び出ようとした。その際に、自分の魔法の才能が活かせるのと、大好きな研究が出来る職場である、王立魔法研究所に所属した。
……史上最年少で、主任という凄い立場になるのは想定外だったけどね。
「二人共、準備は出来たかしら?」
「はい、母上」
「私も大丈夫です」
「それじゃあ行きましょうか。私の大切な子供達」
家族三人で準備室を後にして会場に向かうと、そこには百人を超える人数のお客様がいらっしゃっていた。
マグヴェイ家と縁がある貴族の家や、王立魔法研究所の関係者の方がたくさん参加しているそうだ。
ずっと屋敷に引きこもっていて、私の耳に入るくらい、社交界で変人扱いをされていたアルバート様が、こんなに認められて祝福されるというのは、感慨深いものがある。
「フェリーチェ、僕は挨拶回りをしてくるから、ちょっとのんびりしててもらえるかな」
「私もご一緒した方がいいのでは?」
「いや、大丈夫だよ」
「では、部屋の隅でのんびりしてます」
「うん、わかった。じゃあちょっと行ってくるね」
アルバート様は優しく微笑みながら、手を振ってその場を後にした。
私も知り合いとかいれば、挨拶をしに行ったりするべきなんだろうけど、個人的にいくような相手がいない。変な事を言ってマグヴェイ家に迷惑をかけたくないし、少し外で時間を潰していようかしら。
「ふぅ……風が気持ちいい……」
外に出てきた私は、会場の外にある庭園を眺めながらホッと一息入れた。
アルバート様と出会うまでずっと大変で、こんなゆっくりする事なんて無いと思ってたから、今もこうしてアルバート様と一緒に暮らして、幸せになれてるなんて夢みたいだ。
こんな幸せな日常がずっと続けばいいのに――そう思っていた矢先、その幸せを打ち砕く者が現れた。
「こんな所で何をしているんだ?」
「っ……!? お父様にミシェル!?」
のんびりしている所にやってきたのは、まさかの人物だった。招待されているのは知ってたけど、まさか向こうから会いにくるなんて。
久しぶりに会ったけど、私を見る目や態度は、以前と全然変わっていないわ。
「ふっ……我々にとって希望の懸け橋となってくれたお前が、一人でいるのを見かけたから、感謝を込めて声をかけてやったのだ」
「……というと?」
「アルバートは史上最年少で王立魔法研究所の権力者となった、優秀な人材だ。だから、お前の口から、自分はエヴァンス家の出身と言えば、アルバートに認められた人間、そして優秀な人間を輩出した家として、我々の名が広まる。それが、エヴァンス家の復興の第一歩になるというわけだ」
……相変わらずというか、なんというか。今も昔も変わらず、家の事しか考えていないのね。全く話にならないわ。
「申し訳ありませんが、私はもうマグヴェイ家の一員です。忌まわしいエヴァンス家の出身だなんて、口が裂けても言いたくありません」
「まあお姉様ったら、なんて恩知らずなのかしら! 誰がお姉様を汚い孤児院から引き取り、育てたと思っているのかしら?」
……えっと、なんでミシェルが大きい顔をしているのだろうか? 百歩譲ってお父様が偉そうにするならわかるけど、ミシェルだって育ててもらった立場じゃないの。
「確かに衣食住の提供をしてくれた事は感謝してます。ですが、その感謝以上に、私は酷い仕打ちをされてきましたので。わかったらお引き取りを」
「待て! 貴様、親に向かってその態度は何だ!」
「は、離して!!」
この場を去ろうとした私の手を、お父様が強く掴んできた。その力に入り方は普通ではなく……絶対に私を逃がさないという意思が伝わってきた。
せっかく私は二度の人生の中で初めての幸せを掴んだというのに、どうして邪魔をしてくるの? もう関わらないで……!
「おやおや、なにか取り込み中ですか?」
「え……?」
何とか逃げようともがいていると、私達の間に見知った人物が割って入った。その人物は、顔はとてもにこやかだったけど、目が一切笑っていなかったわ。
「アルバート様!」
「おお、これはアルバート殿。ごきげんよう」
「ごきげんよう、マグヴェイ卿。パーティーは楽しんでもらえてますか?」
「おかげさまで。久しぶりに娘にも会えたからな。全くこの親不孝者めは、嫁いでから一度も家に帰って来ていなくて」
助けに来てくれた人物――アルバート様は、誰が聞いても社交辞令としか思えないような事を言いながら、やんわりと私を掴む手を放させた。
た、助かったわ……アルバート様が来てくれなかったら、一体何をされていた事か……。
「そうだ、こうして出会えたのも何かの縁。あなたに良い話があるのです」
「良い話?」
「エヴァンス家が、復興を目指しているという話は存じております。そこで、我がマグヴェイ家とエヴァンス家の友好の証として、僕から魔法を伝授させていただこうかと」
「魔法ですって? そんなものをもらっても嬉しくも何ともありませんわ!」
「これは手厳しい。ですが……これは僕が引きこもっている間に研究して完成させた、史上最強の魔法です」
最強という言葉に反応するように、お父様の頬がピクッと動いた。その隣にいたミシェルも、ニヤつく顔を抑えきれないでいた。
「これを使えば、たちまち凄まじい力を手に入れる事が出来ます。エヴァンス家の復興だって、きっと叶うかと」
「……それは実に興味深い。パーティーの後にゆっくりと聞かせてもらっても?」
「ええ、もちろん。ですので、今はお静かにパーティーをお楽しみください」
そう言い残して、二人は私達の前から去っていった。きっとかなりの収穫を得られる事が確約したから、ホクホク気分だろう。
まあ別に、エヴァンス家がどうなろうと私の知った事ではない。私達の幸せを邪魔しなければ、それでいいわ。
「ふう、大丈夫かい?」
「はい。ありがとうございます」
「礼には及ばないさ。全く、妻の実家だからパーティーに招待せざるを得なかったとはいえ、さっそく面倒事を起こしてくれるとはね。今までなるべく関わらないでいたのは、ある意味正解だった」
……前世でも、こういう面倒な付き合いみたいなのはあった。行きたくもない飲み会に行かされたりとかね。それはこっちでもあるのが、面倒と言わざるを得ないわ。
「あの、本当に魔法を教える気ですか?」
「そうだよ。とっても特別な魔法をね……ふふっ。さあ、会場に戻ろうか」
「は、はい」
笑顔を浮かべながら、私の手を優しく取って会場へと戻るアルバート様。
確かに笑顔だった。そのはずなのに……私は安心感とか一切感じられなかった。むしろ……その笑顔に、若干の恐怖を覚えていた……。
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