第57話 似ているようで、違う人
「アリスとデートだぁ!?」
次の日の朝、部屋に帰って今日のアリスとのデートを告げると、神様は素っ頓狂な声を上げた。無理もない。アリスに流されないと言い続けてこのザマだもの。
「へへ……まあ、そういうことになりまして……」
親分に仕えるチンピラの如く腰を低くして言ってみるが、神様は盛大にため息を吐いた。
「この間、アリスの好感度が高いから、アリス以外の好感度上げるとか言ってなかったか? そもそも他のやつの好感度上げたのか」
神様にはヴィラから聞いたみんなの好感度数値を教えてある。当然その時にアリスの好感度はこれ以上上げないようにして、他のみんなの好感度を上げる、という話はしてあった。
でも、正直その作戦はほとんど意味をなしていない。今回案の定アリスに流されたし、他のみんなといるときもあんまり好感度のことを考えられていない。
だって人と人の関わり合いで好感度なんかわかんないよ! 自分の気持ちだってよくわかんないときあるのにっ!
ゲームと同じイベントがあればわかりやすいんだけどなあ! この世界ゲームの通りに進まねぇからなあっ!
「おい、やる気あるのか」
目を逸らしてだんまりを決め込んでいたのだが、案の定神様に頭の中を丸裸にされてしまったようだ。
親分がこちらを睨みつけて凄んでいるので、慌てて赤べこのように首を縦に振った。
「ありますありますよ! 今回のデートだって、最近好感度下がるような選択肢選んでたから大丈夫かなって思って……修行のときもアリスのこと選んでないし……」
「お前なぁ……」
もごもごと今回のデートを承諾した理由を述べたけれど、神様はまたため息を吐いて額に手を当てた。
でもやがて、諦めたように顔を上げた。
「……まあ、いい。それより、気をつけて行けよ。お前は街に出る度に何かに巻き込まれて帰ってくるからな」
神様の言う通りである。私は街に出るたびに何かしらに巻き込まれている。
一回目は魔骸に会い、二回目はマグワイヤー将軍に会い、三回目は迷子になってヴィラと不思議な会話をした。
唯一何も起こっていないのは昨日ローレンと彼女の実家に行ったときくらいだ。今日もそうあればいいけれど。
ちなみに、ヴィラに会ったことは神様にだけは言ってあった。
神様には隠しても無駄だし、何よりヴィラについて相談したかったし。知らないってことで特にアドバイスはもらえなかったケド……。
「肝に銘じます」
真剣な顔で頷くと、神様も腕を組んで真剣な顔をした。
「アリスから離れるなよ。アレは何があっても空を守るだろうよ」
その言葉に、思わずまじまじと神様の顔を見てしまう。神様が何だ、というように顔を顰めたので、思ったことをそのまま言った。
「神様ってアリスと結構仲良いよね」
「おぞましいことを言うな」
即座に言われた言葉に思わず笑う。そういうところが、何だか気を遣わない友人のようで仲が良さそうに見えるのだけど。
私に言われた事が相当に嫌だったのか、神様は暫く顔を顰めたままで、持ってきてもらった朝食を食べるまではそのままだった。
「空、アリスです」
朝食も食べ終わり出掛ける準備も出来た頃、部屋の扉がノックされた。相変わらずアリスのタイミングはちょうど良い。
「はーい」
返事をしながら扉を開ける。と、目の前にいる人物を見て体が固まった。
キャスケットに、帽子から見える短い銀髪。青い瞳。美しい顔に、白いシャツにサスペンダー、そしてズボン。
「あ、」
アレックス。そう言いそうになって、すぐに口を噤んだ。
違う、アレックスじゃない。男装しているけれど、今目の前にいるのはアリスだ。身長だって違うし、よくよく見れば体の曲線は女性のものだ。
そう、解っているのに。見れば見るほどそっくりで、脳が混乱する。
「空?」
一向に喋らない私を不思議に思ってか、アリスが私の名前を呼んだ。
そこでやっと、ホッとした。
声がアリスだ。どれだけ見た目が似ていても、声はアレックスと全く違う。ああ、良かった。アリスで――……良かった……?
無意識に思ったそれに自分自身で首を傾げる。
私は、アレックスに会いたくて世界を越えた。今だってこの世界を救いたいという気持ちもあるけれど、アレックスと会うためにノーマルエンドを目指しているはず。
それなのに、アレックスじゃなくてアリスだったことにホッとしてる……?
増々自分のことが分からず混乱する。すると、とん、と背中を小突かれた。隣には、いつの間にか神様が立っていた。
「何をぼーっとしてる。アリスがお前に褒めて貰いたくてうずうずしてるぞ」
「カミュ殿! 勝手なことを言わないで下さいっ」
いつものように、二人がわちゃわちゃやっている。そこでようやく、ハッとした。あまりの衝撃にぼんやりしすぎてしまったようだ。
「あっいや、ごめんなさい……服に、驚いてしまって」
「変装してみました! 女物の服では私だとバレてしまうでしょうから」
そうか、王女様だから国民に顔バレしてるもんね。それで、この格好を。
頷きながら、ゲームを思い出した。
ファンラブで同じイベントがあった。主人公とデートをするためにアレックスが変装するのだけど、今のアリスと全く同じ格好をしていたのだ。
だから余計に、びっくりしてしまった。一瞬、アレックスの世界に来てしまったのかと思って……。
「どうでしょう。似合ってますか?」
にこりと笑うその微笑みは綺麗だけれど同時に可愛らしくて、似てるけど、やっぱりアレックスじゃない、アリスの笑い方だった。
それが、酷く安心した。
「は、はいっ! 凄く……だからびっくりしちゃいました」
「ふふ、ありがとうございます。空も凄く可愛らしいです」
「あ……えへへ、ありがとうございます。チェック同士でお揃いみたいですね」
今日はチェックのロングスカートに白いシャツ、茶色のリボンタイを着けていた。アリスのズボンもチェックなので、なんだかお揃いコーデみたいだ。
「わあ、本当ですね。何だか恋人同士のようで――」
そこまでアリスは言うと、徐々に顔を赤らめて口を噤んだ。そして誤魔化すように明るい声を出す。
「い、行きましょうかっ!」
「そ、そうですね!」
私も特に何も考えないで言った言葉だけれど、言われてみればそういう風に見えなくもない。何だか突然恥ずかしくなって、慌てて明るい声を出す。
神様がハッと鼻で笑った。
「どっちかというとバカップルだな」
「カミュちゃんっ!」
怒って名前を呼ぶけれど、神様は知らないフリでそっぽを向く。もう、なんて言ってみるけれど、照れる雰囲気を消し去ってくれたのは有り難い。
まあ、神様はそんなこと考えてないだろうけど。
「全く……じゃあ、カミュちゃん、行ってくるね」
「今度は怪我せずに帰って来いよ」
「それはフラグになるから止めて」
「お任せ下さい、カミュ殿。私がお守りしますから」
「はいはい、わかったわかった。それ、早く行け」
神様はしっしっと手を振る。私とアリスは神様に笑顔で手を振った。
「「行ってきます!」」
「はいよ、行ってらっしゃい」
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