第44話 旅人を探して
「えっ!? そんな、飛んで別の国に行ける乗り物が……!?」
「場所によっては何十時間もかかったりするけど、一番近い国だと二時間とか三時間で行けちゃうの」
「す、すごい……!」
ふわあ、と口を開けて驚きながらも、目をキラキラと輝かせるアステラ。飛行機の説明をしただけでこの反応である。開発者でもなんでもないのに、私は誇らしげな気持ちになってしまう。
まだまだ私の世界の話を聞きたそうにうずうずするアステラに、次は何を話そうかと考える。
けど、視界の端にローレンが映り、はっとして彼女を見上げた。
「ごめんなさい! つい、話し込んでしまって……」
しまった。ローレンをずっと立ちっぱなしにさせたままだった。しかも彼女は護衛としてついてきてくれただけなので、私の話なんてつまらなかっただろう。あまりにアステラの反応がいいから、つい調子にのって喋りすぎてしまった……。
けれど慌てて謝る私に、ローレンは笑って首を振った。
「お気になさらず。こうして立っているのは慣れていますから」
笑顔だ。笑顔だけれど、それは果たして彼女の本心なのだろうか。それに、このまま喋り続けるのはどちらにしろローレンに悪い。
「アステラ、今日はここまでにしようか。このあと病院に顔を出して回復魔法かけてもらわないといけないし……また今度ゆっくり話そう」
「はいっ! 楽しみにしていますね!」
私はアステラとの話を切り上げると腰を上げた。アステラとはまた別の機会に長話するとしよう。
「もう良いのですか?」
ローレンが首を傾げ、私は頷く。
「はい。今日は顔を見せたかっただけですから」
「そうですか」
にこりとするローレンの真意を測りかねつつも、私とローレンはアステラに別れの挨拶をすると、教会を出た。
アステラからは名残惜しそうにしながらも、また来てくださいね、との言葉も貰えたので、近いうちにまた訪問させて頂こう。
アステラは歳も近いせいかその性格のためなのか、なんだか友達のようで接しやすい。私としても、アステラと一緒に過ごせる時間は心地良く感じる。におい嗅いだりするのはやめてほしいけど……。
教会の直ぐ側で待っててもらっていた馬車へと戻ろうとすると、ローレンがその足を止めた。
「帰る前に一つ、良いですか?」
「はい? 何でしょう」
「空様が出会った旅人がいた場所に、連れて行って下さい」
思ってもいなかった言葉に首を傾げる。
突然なんでそんなことを言うのかも分からなかったし、私の話を聞いていたことにも少しばかり驚いた。てっきり右から左かと思っていた。
「良いですけど……そこにまたいるかは分かりませんよ?」
そうローレンに言ったことで、そういえばヴィラにはまたどうやって会えばいいのだろうか、と思う。
彼女とはデートの約束はしているけれど、日時も待ち合わせ場所も決めていない。旅人であるヴィラの行く先は、彼女を攻略していない私にはわからないことだった。
「そうですね、会えればいいですけど……会えなくても、何か分かることもあるかも知れませんから」
「……わかりました」
ローレンがヴィラに会いたい理由はよくは分からないが、案内することを拒否する理由はない。
それに、私が魔骸に向かって走って行くことで別れてしまったから、ヴィラも心配してくれているかもしれない。会って無事なことも知らせたいし、私も出来れば会いたいと思った。
私は頷くと、ローレンと一緒に前回ヴィラと出会った場所に歩き出した。
「でも、どうして会いたいんですか?」
道すがら、ローレンに尋ねてみる。
ローレンはアステラみたいに旅人に憧れてるわけでもないし、歌を聴きたいわけでもないだろう。それなのにわざわざいるかもわからないヴィラに会いに行く理由が見つけられなかった。
ローレンは私には視線を寄越さず、前を見ながら口を開く。
「……今のこの国で旅人なんて、不可解ですから」
それは少しばかり温度の低い声だった。その言葉と声色で、ローレンがヴィラを不審がっていることが良く分かった。
「……やっぱり、今旅人って少ないんですか?」
「はい。かろうじて、護衛をつけた荷馬車が来れるぐらいですから。勿論、その荷馬車と一緒についてきた旅人かもしれませんが、今の危険なこの国にわざわざ来た旅人は一体どういう人間なのか、知りたいと思いまして」
「そうですか……」
確かに、ローレンの言うことは最もだ。
とはいえヴィラは隠し攻略キャラ。攻略キャラ達が一様に強い戦闘力を備えていることから考えて、ヴィラ自身もめちゃくちゃ強い可能性がある。というか、その線が濃厚なのでは……?
でも攻略キャラだからですよ、とはローレンに言えないしな……。まあ、もしヴィラと会えたら、ローレンが今持っている不信感も多少は良くなるかな?
そうこう考えていると、以前ヴィラと会った場所が近くなってきた。
「あ、この先ですよ。高台のところです」
ローレンを伴って建物の間を通る。そしてそこを抜けると目の前が開け、ヴィラと会った高台に着く。
青空に、石畳に、胸元まで高さのある塀。その場所には人がいた。
でも、その人はヴィラではない。大柄で、迫力のある、黒い軍服姿のその人は。
「――マグワイヤー将軍」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます