「お弁当」

scene-1


こういう時に使うのか‥醤油と酒、そして砂糖を混ぜたカップに、大さじ一杯の”みりん”を加えながら俺は呟いた。フライパンに落とすと、ひき肉と合わさり早朝のキッチンに、いい匂いが立ち込めた。娘が幼稚園に持っていくお弁当‥

フフ、料理など全くしなかった俺が今やみりんまで駆使する。きっかけは、些細な夫婦喧嘩だった。


scene-2


初めての昇進。三十歳での係長というポジションは、俺の務める会社ではまずまずだ。”頑張るぞ”という気負いが、家庭での時間を削り‥結果、妻との揉め事が増えた。そしてあの日「娘のことは全部私任せでしょ」という彼女の言葉に無性に腹が立ち「じゃあ明日の弁当は、俺が作る」と宣言してしまったのだ。


Scene-3


宣言はしたものの、俺は一切料理をしない。いや、出来ない。

さてどうする?‥と言うか腹立たしさの方が勝っており、翌朝俺は、冷蔵庫にあった残り物を、妻への腹いせのごとく適当に弁当箱へ詰め、娘に持たせた。

だがその夜、帰宅した俺は娘が持ち帰った弁当箱を見て驚いた。


Scene-4


弁当箱はきれいに空っぽだった。それこそご飯粒ひとつ残さず。妻への苛立ちでいい加減に詰め込んだ弁当なのに‥娘のことなど全く考えずに作った弁当なのに‥

妻とは仲直りしたが、以来ずっと娘の弁当は俺が作り続けている。

今日は初挑戦のそぼろだ。そぼろで威張るな、と言うなかれ。俺には難しい。味もイマイチかもしれない。でも、いっぱい遊んでお腹をすかせたお前のために、パパは作るぞ!

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