第77話 畑の異変
真っ青な顔をしてを呼びに来た子に連れられ、急ぎ孤児院に戻るセリナとティグ。
誰かが怪我をしたのか、何かが壊れたのかと思い当たる節を探すも、確定的なものは見つからない。
呼びに来た子も全力で走っており、走りながら会話が出るほどの余裕はないようだ。
いろいろな事態を想定しながら、孤児院へと駆けこむセリナたち3人。
しかし、呼びに来た子は建物の中へは入らず、裏側へと一目散。
その先にある物を思い出した時、セリナの中に不安と焦りが生まれた。
間違いであって! そう願いながら、導かれるようにして向かった先。
「シスター!」
「あぁ、セリナ、ティグも」
「どうしたんですか?」
「これを……」
そこにはシスターの他、孤児院の子供たちも大勢いた。
皆不安そうな顔をしており、小さい子の中には泣いている子まで。
そんな子供たちとシスターの視線の先にあったのは……。
茶色く、枯れ果てた家庭菜園の野菜たちであった。
「そんな……」
「※※※※※※……全滅か」
孤児院の家庭菜園は、子供たちが管理するため生命力の強い野菜がほとんど。
だったのだが、そのすべてが枯れ果てていた。
葉は茶色く、パリパリになり。
わずかに付けていた実も小さいまま生命力をなくし。
イモは地中で腐り、形も残っていない。
ここしばらくは収穫物が小ぶりで、葉も項垂れ元気がないとは思っていたのだが。
いっきに全てが枯れてしまうなど、想像もしていなかった。
「今朝はどうだったの?」
「いくつかの野菜が枯れ始めてわ。だから農家さんから貰った肥料を追加したりしてたのだけど……」
セリナは今日、早めに孤児院を出た為、畑の様子は見ていない。
担当した子とシスターによれば、今朝はほとんど野菜が取れず、葉の何枚かが枯れていたとの事。
街の畑でも育ちが悪いという話は聞いていたため、枯れた葉を取り除き、肥料を追加する対策を行った。
まさか1日で全ての野菜が枯れるなど、予想もつかない事だった。
「シスター、野菜死んじゃったの?」
「ごめんなさい、ぼくが、ちゃんと見てなかったから」
「大丈夫、あなたのせいではありませんよ」
自分たちが世話していた野菜たちが枯れ果て、死んでしまった事が悲しく、涙を流す子。
菜園の世話を担当して子は自らを責め、申し訳なさから泣きじゃくっている。
シスターはそんな子供たちを宥めていた。
(スーおじいちゃん、何かわかる?)
『ふぅむ……植物の育成に関しては分からんのう……』
(そう……)
『じゃが、1日にして枯れると言うのはさすがにおかしいのぅ』
(やっぱりそう、だよね)
『この国で長く続く不作とも関係があるやもしれん』
スードナムは魔法に関する知識はすさまじいが、さすがに植物に関しては専門外。
ではあるが、生前はかなりの年月を生きてきた彼でも、1日にして野菜が枯れたというのは聞いたことがないという。
シェリダンの街、いやシェルバリット連合王国で続く不作と関係ありそうにも思えるが、やはりこれも確証がない。
その上、不作の原因も今だもって不明。
これでは手の出しようがないというのが本音だ。
野菜は全滅してしまったが、一緒に飼育している鶏には影響がないようだ。
そこら辺を歩き回り、地面をつついている姿に安堵するセリナ。
「シスター、とりあえず夕食の用意を」
「そう、ですね……」
「ティグは……」
「おれはここを片付けるよ。荷物、頼む」
「分かった」
ここまで枯れてしまっては、もう元に戻る事はないだろう。
セリナはシスターといまだぐずっている子供たちを宥め、孤児院の中へ。
ティグと年長の何人かはそのまま畑に残り、枯れた野菜たちを抜き取り、穴を掘って埋めてゆく。
先程買い込んだ食料を棚にしまい、魔法鞄に扮した【亜空間倉庫】から果物と野兎を取り出す。
孤児院には獲物を捌くことが出来る子もおり、数名で手分けして野兎を捌いて行く。
野兎は小さいが、毛皮は売ることが出来、骨は砕いて肥料になる。
特に毛皮は綺麗に剥げばそれだけ高額で売れるとあって、みな真剣そのもの。
セリナも以前いた孤児院の時から手伝いなどでよく捌いていた。
さすがに本業レベルとはいかないが、素人がやるにしては上出来だろう。
しかし、セリナはここでも違和感を覚えた。
「これ……大きさの割にお肉が少ない?」
『ふむ、毛皮もどこか毛並みが悪いのぅ』
「痩せてる……のかな?」
『そのようじゃのう。栄養状態が良くないようじゃ』
そう、野兎が見た目の割に小さく、毛並みもよくないのだ。
この時期は森の恵みも多く、野兎たちの食料も豊富。
普段であれば丸々と太り、肉も多くとれるのだが。
「もしかして……森も実りが悪くなってるのかな?」
『可能性はあるのう』
最近はローラントたちの戦闘力が上がった事と、ランクアップを目指したため討伐依頼を多くこなしていた。
反面薬草採取は討伐の片手間という事が多くなり、採取依頼だけという日はもうずいぶん前のことになる。
「スーおじいちゃん、これ調べてみた方が……」
『いいじゃろう。何かわかるかもしれぬ』
「……だよね!」
スードナムと小声で話しながら、手際よく野兎を捌き肉にしてゆく。
炊事班の子達も順調に夕食を作っており、野兎の肉も追加。
完成間近というところでタイミングよくティグ達も戻ってきたため、そのまま夕食となった。
みなでテーブルを囲い、地母神スファル様に祈りを捧げ。
祈り終るとスプーンやフォークを持ち、食事に手を付ける。
「おにく、ぱさぱさする……」
「パンも柔らかくならない……」
「ほら、贅沢言わない」
全国的な不作は、食卓にも影を落とし始めていた。
もともと予算の少ない孤児院では、硬めの黒パンが主。
スープなどに付け、柔らかくしてから食べているのだが、最近の物は硬さが増し、スープでもなかなかふやけない。
肉も価格高騰からワンランク下げるを得ず、味はお世辞にも良いとは言い難かった。
その為、少しでも美味しいものをとセリナは野兎を仕留めたのだが、こちらも痩せていたため脂身がなく非常に硬い。
さすがに文句を言うような子は居ないが、みなしぶしぶと言った表情であり、おいしそうには見えなかった。
食事を終えた後はそれぞれが使用した食器を洗い、入浴の日である子はお風呂へ。
薪代と水の節約のため、入浴も毎日ではなく日替わり。
セリナの魔法をもってすれば毎日の入浴は可能ではある。
しかし、それが日常になってしまうとセリナが居なくなってからが困るとスードナムに止められている。
入浴でない子達は、濡れたタオルで体を拭く程度。
セリナもこの孤児院のルールに従い、タオルで体を拭いてゆく。
それは終われば後は寝るだけ。
シスターも自室に戻り、子供たちだけとなるのであった。
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