第30話 ゴブリンファイター

 俺は前日の戦闘で手に入れたダンジョンポイントのログを眺めながら、ポイント獲得の効率を考えていた。


 「ダンジョンポイントはやっぱりゴブリン同士で戦わせるよりもルーナたちと戦闘をしている方が高いな。俺との戦闘だと大差がないのは俺がダンジョン側だからか?」

 「そうですね。人の感情は複雑で、そういったものがポイント化では重要です。知能が高いものの感情ほど、質が高いので多くなります。マスターとの戦闘でポイントがゴブリンと変わらないのは、自作自演で永久的なサイクルができないようにされている結果です」

 「なるほど」

 「しかしヒナがあそこまで戦えるとはな」

 「ヒナ様は獣人因子が多いために身体能力が一般よりも高いことはたしかですが、才能によるものも大きいのかもしれません」


 ヒナがゴブリンに完勝していたことから、この世界の人類の潜在能力が地球より高い可能性も考えていたが、その場合だと俺がこちらの世界にやって来た時のやからとの戦闘結果がおかしくなる。


 あの輩どもは、俺を殺して森に捨てれば良いと言うような事をいっていたから、過去に同様のことをしたことがあるはずだ。

 そう考えれば、多くの人数で群れていたとはいえ、弱いとは言い難い。

 まあ、ゴブリン自体は小学生くらいの大きさであるので、人族の成人した男であれば不意を突かれなければ倒せることは間違いないだろうが……。


 ただ、ルーナやヒナと輩を単体で比べてみると、同程度のように思える。

 それだとやはりあの輩はイキッていただけで弱かったのだろうか。


 「レイリーは俺がこちらに来た時の、輩に絡まれたこともダンジョンコアの記憶から知っているんだよな? あの時の一人一人の輩の力とルーナやヒナは現時点で同じくらいと思えるんだがどう思う」

 「そうですね、私も同程度だと推測します」

 「それだとあの輩はかなり弱かったということか? 猫獣人とは言え5歳児や15歳の少女と同じって」

 「そのことなのですが、あのお二人とマスターが一緒にクエストを受けているときにマスターはゴブリンを倒しましたよね? あの時の経験値がお二人にも入っていて、レベルが上がっていたのではないかと。今回のダンジョン内での戦闘でも急に動きが洗練されていたことが多々あったので、輩のレベルと同程度のレベルになったのでは」


 レベルだって? たしかに敵を倒した後に動きやすくなったと感じることはあったが、レベルが上がればそれとすぐにわかるのではないのか?

 

 「ステータスオープン!」

 「マ、マスター?」

 「いや、お約束でステータスが開くかと思ってな」


 俺はレベルがあると聞いて、ステータスが見られるだろうとステータスオープンと唱えてみたが、変化が起きることはなかった。


 「この世界ではファンダ様がそのような仕様にしていないので、ステータスを見ることはできません」

 「そうか……、期待したが残念だ」


 転移させたダンジョンマスターが作るダンジョンの仕様はゲームっぽいのに、ステータスは同じように対応をしてないのかよ!

 しかし、レベルがあるということがわかっただけでも戦略が立てやすくなった。

 

 「レベルがあるなら初めから教えてほしかった」

 「聞かれていませんでしたので」


 またそれかよ!

 黒い執事なら主の先回りをして行動するというのに、眷属執事では違うのか。

 まあ話の流れで必要なら、今回のようにそのことだけに対して聞いたこと以外でも、教えてくれるなら隠されるよりはマシには思う。


 「ホブゴブリン同士を戦わせて進化した先はゴブリンファイターか。これは名前だけ聞けば弱くなっている気がしないでもないが、そういうわけではないんだよな?」

 「はい。ゴブリン50体を戦わせて生まれたホブゴブリンをさらに50体で戦わせて進化した個体なので、ホブゴブリンから120%ほど戦力アップしているようですね」

 

 ホブゴブリン50体を犠牲にして能力が2割上昇ってどうなんだ?

 ホブゴブリン2体VSゴブリンファイターだとホブゴブリン側が勝つってことたよな。

 進化させて強くさせていくのに必要な工程としても効率が悪いな……。


 「ホブゴブリン同士を戦わせずに、ホブゴブリン1体をゴブリンと連戦させて、負けそうになれば回復、その後に戦闘を継続させた場合はゴブリンファイターに進化はしないのか?」

 「それでも可能なはずです」

 「ふむ、ならそれでどちらが効率が良いか試してみてくれ。後は……そうだな、ゴブリンファイターがいるなら、ホブゴブリンに弓を持たせたり剣を持たせたりして進化をさせれば、ゴブリンアーチャーやゴブリンウォーリアーができるんじゃないか?」

 「それは! まだそれを試したダンジョンマスターはいないようですが、できる可能性が高いと思われます」

 「そうか。それならそれも並行して試してみてくれ」

 「承知しました」

 「それからゴブリンファイターがどのくらいの強さか試してみたい。一対一で戦ってみるから呼んできてくれ」

 「はっ!」


 


 ゴブリンが弱かったので、一段階飛ばしてホブゴブリンとは戦わずにゴブリンファイターと訓練をしてから2時間。

 ゴブリンファイターは思った以上に強かった!

 俺は魔法を封印して戦ってはいたのだが、ハンデという意味では俺がダンジョンマスターということもあって、致命的な攻撃はゴブリンファイターはすることができないので、俺よりもゴブリンファイターの方が圧倒的に不利だろう。

 

 まあ、俺も貴重な駒を失うので、治せないような傷はつけるつもりはなかったが……。

 ゴブリンファイターの強さから、それより二割弱いだけのホブゴブリンも強いのかと思って、結局戦ってみたのだが、そちらは余裕をもって倒すことができていた。


 「2割上昇でここまで体感で変わるのか」

 「そうですね、2割といっても身体能力が上がるということは今までできなかった動きができることになるので……。ただ、今回で言えば、マスターが近接だけの戦闘の場合であれば、ゴブリンファイターより少し強い程度であったことが苦戦した原因だと思われます」


 それって遠回しに俺が弱いって言ってるよな?

 まあ現状はその通りか。


 「ふむ。一朝一夕で簡単に強くなれはしないか。当分はゴブリンファイターと訓練をして地力をあげるかな」

 「それも良いと思います」


 ダンジョンを強化するのと同時に、俺は自分の訓練のことも考えながらレイリーと色々試したりして効果的な強化方法を探すのだった。


 


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