第21話 朝霧の雫②
「このまま探しても同じような所になってしまう。植生が違う場所を探す方が良いな。ルーナ、水辺に行くにはどう行けばいい?」
「それなら小川が右方向にあったはずよ。もう少し進んだら分かれ道があるからそこから右に行きましょう」
「了解」
バジュラのお陰でカイフー草は集まっているが、この付近には朝霧の雫草はありそうにはなかった。
俺たちは少し進んで分かれ道を右に進み小川へと向かう。
「お、植生が変わって来たな」
「だね。あるといいんだけど」
「あ! かわだ!」
「ヒナ、あぶないぞ!」
小川を見つけたヒナが喜び勇んで小川へ一直線に移動する。
バシャン
「つめたいー、ばじゅらもおいでー」
「キャウン!」
「ヒナ! もー、風邪をひいたらどうするの!」
「あはは、たのちー!」
俺はヤレヤレと周囲を確認しながらヒナの元へと向かう。
川の傍の植物を鑑定すると結構たくさん食用可だとか、薬草という鑑定結果の植物があったので採集してアイテムボックスに入れていく。
「お、ここにも食用可の植物がって名前が違うけどこれクレソンじゃないか?」
俺は水辺に生えていた鑑定で食用可となっていた植物を手に取ってみると、日本で見たことのあるクレソンによく似ていた。
気になってもう一度鑑定をしてみると、『クレソン。ピリッとした辛みあり。ビタミンCや鉄分を多く含み、去痰、貧血、浮腫、慢性疾患に伴う衰弱などに効果があり』と先ほどの名称と違う俺の知っている名前で鑑定結果が表示された。
「明らかに鑑定結果が変わった件」
「キョウジ? どうしたの?」
「にいに どちたー?」
俺が鑑定結果に戸惑っているとルーナとヒナが俺が声をあげたことを気にしてやってくる。
「いや、鑑定結果が最初見た時と変わってね。俺が知っている植物と考えたらその鑑定結果になったんだよ。国によって違う名称のものは俺が知っている鑑定結果になるのかなってね」
「へー、そんなことがあるの? これはオーランガラシね。お肉の付け合わせに使えるわ。とって帰りましょ」
食べられる食材を見つけたルーナの目は光り、クレソンを取り始めた。
クレソンはオランダガラシとかウオータークレスという名でも日本では知られているが、こちらではオーランガラシというみたいだ。
オランダガラシの名称に似ているのは地球からの転移者か転生者が名前をつけたのだろうか?
たしかクレソンは、イソチオシアネートという植物性栄養素が抗酸化物質を作り有害な活性酸素を無毒化してガンの発生を抑制するということが、国際がん研究機関で世界的にも効能が示唆されていた。
TVではがん予防、再発予防にも効果があって、ガン予防で有名なブロッコリーの2倍だという放送を見て俺も家で水耕栽培をしていた野菜だ。
アメリカの研究では人体に必要な栄養素を持つ野菜で健康に重要とされる主要な栄養素の含有量をスコア化した結果、100点満点を叩きだしホウレン草なんかを超えたスーパー食材。
スーパー食材だけにスーパーで買うと高いから、水耕栽培をしていたのは良い思い出だ(売っている所は稀)。
実はクレソンはムチャクチャ簡単に育てられて上手く収穫すればずっと採れるので、付け合わせにもピッタリなのだが、知名度は低かった。
簡単と言うのは、購入した根付きのクレソンの根を残して、ネギのように埋めておくとまた生えて増えていく。
差し芽でも増えるが、根が張るまでは水を切らさないようにしたい。
ちなみに、種から育てるのはそれなりに難しい。
芽は簡単に出るんだが、3センチくらいから成長せず根がうまく張らないのだ。
水耕栽培だと水が腐るので変えたり、ある程度大きくなると間引きも必要。
ただし、食べ過ぎは良くないし、葉が黄色くなると毒性を持つので注意は必要だ。
「採ったら渡してくれ。アイテムボックス内だと時間経過がないみたいだから幾らでも保存できるぞ。ただ、黄色になっているのは毒があるから避けてくれ」
「そうなの!? でもこれなら当分付け合わせには困らないわね」
「ただし天然ものだから生では食べるなよ」
「えー! ピリッとしてサラダが美味しいのに!」
ルーナの家でお世話になっていた時には、確かに野菜はあまり出てこなかった。
ナンナさんがしている畑で野菜はつくっているようではあったが、季節によってはやはり野菜が少ないこともあるだのだろう。
異世界だから寄生虫なんかの心配はないのか? よくあるアイテムボックスに入れるとそれらは死亡する設定は俺のアイテムボックスだとどうなのだろう。
綺麗な水でシッカリと洗い流せば大丈夫だろうが、現代日本人……元日本人の感覚からするとやはり火を通す方が確実だ。
どうせなら俺が葉の一枚一枚丁寧に魔法の水で洗って、ナンナ家で栽培できるようにしてもいいかもしれない。
根がなくともクレソンは簡単に根が出てくるけど、育てる場合は最初から根がある方が圧倒的に早く育つので、根つきも少しだけ採集しておく。
「そう言えばこれも食べられるみたいだけどどうする? アザミってやつなんだが」
「え? そのトゲトゲしたやつ大丈夫なの?」
「ああ、花びらも茎も葉も根も食べられるらしい」
「こりぇ? いたっ」
「ヒール!」
ヒナがアザミの棘を触ってしまったので俺はすぐさまヒールする。
「アザミは俺が取っておくよ。調理方法はあとでナンナさんに伝えておく。ヒナはこっちのクレソン……オーランガラシ? の採集を頼む」
「あーい」
ひとしきりクレソンの採集した俺たちは川辺を移動しながらクエストで必要な朝露の雫草を探す。
途中でデカいビーバーのような動物がいて、ルーナ曰く美味しいらしいので仕留めて肉もゲットする。
「あ、キョウジ! あの花って似てない?」
「お、鑑定! ――朝露の雫草だ!」
「やっちゃー!」
俺たちはやっとのことでクエストで必要な薬草を発見して採集する。
「花の中の蜜っていうか雫が重要となると結構採集が難しいな」
「気を付けてよね」
「にいにがんば」
「おう、傾けないようにそっとやるぞ」
俺は慎重に朝露の雫を採集する。
「よし、完了。ギルドに戻ろう」
「「はーい」」
目的の植物を採集した俺たちは帰りながらカイフー草を集めて戻り、ギルドへ納品する。
「キョウジ、今日はウチで食べていくでしょ?」
俺はルーナにナンナ家での食事に誘われて、今日獲った獲物や植物をナンナさんへと渡し、アザミの料理法を伝え食事を頂き、『人生は一度きり!』へと帰るのだった。
☆☆☆☆☆
ひなのにっき②
きょうは かわで あそんだ。
つめたかった。
ばじゅらが ごぶりんを さんたいも たおして カッコよかた。
おにくも あたらしいやさいも おいしかった。
きょうのぼうけんも たのしかったな。
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