第13話 思想
次の日、朝早くに宿を出た俺は町から離れて覚えた魔法の訓練をする。
「ウォーター」
俺が水魔法を唱えると手から水が放出された。
調子にのって、自分の周りが水浸しになるほどにそれを続けた俺は体調の変化に気がつく。
「最初は気が付かなかったが、肉体の疲労とは少し違う感じで何かが抜けて行っている気がする。魔力か?」
俺はその感覚が重要だと考えて集中する。
「まあ自分の体に流れる別の何か……魔法は魔力の強弱で強さが変わる感じかな」
俺は手から放出するウォーターの威力をあげたり、逆に水道の蛇口からチョロチョロと出ているくらいの水量を出したりして魔法を使う感覚に慣れていった。
「ウォーターカッター!」
攻撃魔法の場合なら1発で魔力がそれなりに減った事を感じとることができるようだ。
ただ、まだまだ打てそうではあった。
「土魔法も試すか」
俺はひとしきり水魔法の練習をすると、次に土魔法の訓練を開始する。
「
「
「
岩肌に攻撃魔法を撃ち込んだり、ウォーターでぬかるんだ地面に落とし穴を作ったり……。
思いつくまま疲れるまで訓練をした俺は休憩をすることにした。
「しかし魔法はルーナの話だと属性ごとで一種類ずつ何度も使っていると次の魔法が使えるようになると言っていた気がするが……、すでに土魔法なら3種類もつかえてるな」
もしかしたらこれはダンジョンマスターになっていることで魔法の理解が早く、正確にイメージできるために使えているのかもしれないなと俺は考えた。
ダンジョンマスターという特殊な職に就いたために、使用できる魔法が初めから理解できてしまっている。
通常であれば一つずつ訓練をして慣れていくことで、次の魔法のイメージが浮かんだり、わかるようになるのかもしれない。
午後の鐘が鳴り食事のために一度町に戻った俺は、もう一度町の外へ出かけるとコソコソと怪しい行動をとり始めた。
町から続く通路を歩き、森の中へ向かい人通りが少なくなる所まで来ると、俺は森に入り隠れながら移動する。
「盗賊や野盗が隠れそうな所があれば良いが……」
ルーナと来た場所よりも町から大きく離れた場所で俺は身を潜めた。
俺の目線の先には数人の明らかにアヤシイやつらが岩陰に隠れていたからだ。
「あれはたぶん野盗だろ。獲物を待っているのかな」
俺は小さく呟くと、少し離れた位置からその三人を監視する。
何度かその道を冒険者のパーティや護衛を連れた馬車が通るが、野盗の人数より冒険者や護衛の人数が多いこともあって野盗がそれらを襲うことはなかった。
「ふう。気配隠蔽とか取得できそうだがどうなんだろう?」
日が暮れかけた俺は野盗が帰っていくのを見ながら、離れた距離を維持しつつ追いかけて野盗のねぐらを確認すると町へと戻るのだった。
宿に戻った俺はシャワーを浴び、食堂に向かう。
「ご主人、今日のお薦めを頼む」
『人生は一度きり!』では宿の料金に朝夕の食事料金も含まれていた。
もっとも、朝のメニューはほぼ決まっていて、パンと
夜はお勧めと定番料理が2つの3種類から選ぶことが出来た。
別料金を払えば、お酒やつまみもあるので夜は食べたり飲んだりする人も訪れて宿は賑わいをみせている。
晩御飯を終えて部屋に戻ると、俺は野盗のことを考える。
「野盗の人数が少なすぎて襲われる人は少ないようだが、俺とルーナが接近をするとさすがに襲われるか? しかし3対2でも、もしもを考えれば普通は来ない気がするが……」
俺はもちろんルーナを危険な目にあわせようとは考えていないので、野盗がいるとわかっていてつれていくことはない。
俺が野盗の位置を調べていたのにはもちろん理由がある。
それは良くある異世界テンプレで、貴族の馬車が襲われている所を助けに入るというやつをやってみたいと日本にいる時に夢想をしていたので、それができる可能性を調べていたのだった。
しかしながら今日の場所では野盗側が思った以上に少なく、馬鹿なやつらでなければ貴族を狙うことは恐らくないだろう。
であるならば、善良な者が被害にあう前に倒してしまうのも一つの案ではあった。
「でもまだ本当に野盗かどうかはわからないんだよな……」
いくら異世界だからと言っても、まだ犯罪を犯したかどうかわからない相手に手をあげる事には抵抗がある。
「ただ、俺はもうダンジョンマスター……人類側の括りにはない気がする。むしろダンジョンを作れば、人間を誘い込むわけだから敵だろう」
ひとしきり悩んだ俺は、さすがにまだ何もしていない者を処分することはダメだろうと
俺はこの異世界に来て自分が好戦的になっている事実には既に気が付いている。
それは単に夢に見た場所に来たから興奮していてそのような状態なのかと考えていたのだが、ダンジョンマスターという
「人の優しさや思いを失えばモンスターと同じだ。出来る限りは……人寄りの思想を持ち続けよう」
俺は自分の作ったダンジョンに、それを攻略しにくる冒険者が訪れた場合にはそれらの冒険者は敵であると言う認識を既に持っている。
なぜなら、攻略をされれば、それは俺が死ぬ可能性があるからだ。
ただ、だからと言って、それ以外で積極的に
それでも日本ではできなかった、悪即斬! はしても良いのかもしれないと考える。
「ふわぁ……。別のダンジョンマスターに遭遇するまでにそいつと戦える力も手にいれないとな」
あくびをして眠気と戦いながら、俺は宿の一室でそう呟くと……、意識を手放すのだった。
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