第10話 薬草クエスト

 次の日の朝、俺は支度をして『人生は一度きり!』を出るとナンナさん宅へ向かう。

 『人生は一度きり!』はギルドで紹介されるだけあって、個室は鍵をかけることもできて狭いながらシャワーを浴びるスペースもあった。

 かなりの良宿と言えるだろう。


 午前9時の鐘が鳴った後に宿を出ているので、ルーナもそろそろ暇をしているはずだ。

 ナンナ家に入り浸って1日の様子を見た感じでは、朝8時くらいまでは洗濯などをして忙しくしていた。

 その後はナンナさんは農作業をする。

 ルーナは農作業を手伝ったり教会が運営している学校に通ったりということをしていた。

 まあ、ルーナの場合は大半がヒナの面倒を見ていたけどね。


 っとそう考えると、今日はヒナはどうするのだろう?

 ナンナさんの近くで農作業かな?

 地球の中世は都市部は別として村や町は治安がかなり悪かったので、俺はそこが気になって一度農作業をしている場所について行ったことがあるのだが、町からそう離れている訳でもなく、周りにも知り合いが農作業をしていて治安は悪くないようだった。


 ナンナさんの話では山や森にはそういう類がいるようなのでクエストを受ける時には気を付ける必要があるだろう。

 俺はそれらを考えながら歩いているとナンナ宅に到着する。


 コンコンッ


 俺はドアをノックするとドアを開ける。

 現代日本の都市部では考えられない事ではあるが、田舎では今でも玄関の鍵を閉めていることは稀だし、近所の子供がなぜか家の中にいたり畑で採れた農作物が玄関の中に置かれていることもあるほどだ。


 当然、中世レベルのこの異世界であれば、ノックをして待つなんてことはしない。

 まあ……、貴族の屋敷でそれをすれば捕まってしまうだろうけどね。


 「ルーナいるか~?」

 「はーい。今行くよー」


 俺の声に反応してルーナがやって来た。


 「ナンナさんとヒナは?」


 俺は大事な娘と出かけることになるので、ナンナさんに一言話をしておこうとやって来たルーナに聞いた。


 「お母さんとヒナはもう作業にでちゃったから私だけだよ」

 「そうなのか。じゃあ行こうか」

 「おー!」


 俺はナンナさんが既に家を空けていることで、信用されているのかな? と思いながらルーナとギルドを目指した。


 

 ギルドにつくと俺たちはまずクエストボードに行きクエストを確認する。


 「思ったよりできそうなクエストが少ないな……」

 「そうねぇ。でも貼ってあった形跡はあるから、遅かったのかもしれないね」

 「たしかに。うーんどうするかなー。定番のドブさらいはあるみたいだが……。俺たちのランクよりワンランク上の依頼になるけど、このゴブリン退治は難しい感じなのかな?」

 「ゴブリンは……、たまに女性が攫われると聞いたことがあるけど、強いとは聞かないかな? でも数が多いらしいから、そのせいで攫われてしまうこともあるとか」


 俺はルーナの話を聞いてゴブリンは倒せそうだなと感じるが、今日はルーナもいることもあって止めておくことにした。

 女性が攫われることもあると言っているのに、じゃあゴブリン退治に行くかって言うのはさすがにダメだろう。

 一緒に倒しに行くとしたら一度はゴブリンがどの程度なのか俺自身で試してみてからだな。


 「うーん、後は薬草採集か……。ルーナはここに書かれている薬草って見分けることができたりしない?」

 「時々取りにいっていたから、カイフー草ならわかるよ!」

 「お、ならこれにするか。ただ他にも採集すれば売れるものがあるなら知っておきたいが……」

 「うーん。それならクエストを受ける時に受付で聞いてみる?」

 「そうだな、そうしよう。じゃあこの薬草採集のクエストを受けようか」

 「りょ!」


 ルーナの現代日本人のような返事を聞いてから、俺たちはクエストボードから薬草採集のクエストを剥がすと、今日も何故か誰も並んでいないルシオラさんの受付へと向かうのだった。


 「ルシオラさん、これお願い。あと他にどんな薬草があるかってわかる資料とかない?」


 クエストをルシオラに渡した俺は薬草についてわかる資料がないかと気安く声をかける。

 周りはなぜかそれを息を呑んで見守っているが……。


 「薬草採集のクエストですね。受領しました。薬草の資料なら2階の資料室に絵と効用、そして採取方法と良く生えている場所などが書かれた書籍があるはずよ。入って受付に声をかければ誰でも読めるわ。ただし持ち出しは禁止です」

 「おお、ありがとう。この後で行ってみるよ」


 俺はそう言うと、ルーナと共にギルド2階の資料室へと向かった。

 俺がルシオラの受付で問題なく対応をされているのを見たせいか、俺の後ろには数人が並んでいた。

 ただ、俺たちがその場を離れ少し経つとルシオラの前にいた男が『ヒッ』と言う声を上げたかと思うと、一斉にその列から離れてしまったのだった。


 「なんだアイツら」

 「ほんとなんなんだろ? ルシオラさんに失礼よね!」


 俺たちは不思議に思うが、そのまま階段を上ると資料室に入り受付に声をかけて薬草の本を持って来てもらい少しの間その本を読み耽るのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る