第8話 ルシオラ
俺は受付の前で少しソワソワしながらルーナとヒナの二人と会話をしていた。
なぜなら、日本の場合ではこういう受付で少し待つ場合は一度席を外して名前を呼ばれたらまたそこへ行くということもあったりするためだ。
ただ、そこに居座っていても誰もこの受付窓口には来ないので問題がなさそうではあった。
「しかし何でここだけ空いているんだろうな? 特にあの受付の人に問題があるようには思えなかったけど……」
「そうだよね。キョウジは美人と話ができて嬉しそうだし!」
「えぇ!? にいに、おとーしゃんになってくれりゅんじゃないのー?」
俺はただこの受付が空いている疑問を口にしただけなのに、流れるように自分への批判が起きたことにビックリする。
「う、嬉しそう? そんなことはないだろー、あとヒナ。そう言うことはナンナさんの気持ちがあるんだから、俺の一存では決められないんだぞー」
「え~。じゃあおかーしゃんにきいてみりゅ!」
「そ、それはどうかな? 気まずくなったらヒナの家に俺が遊びに行けなくなるぞ。と言うか、動けるようになったし宿も探さないとな」
「え、にいに いなくなっちゃうの?」
俺にヒナが今にも泣きそうな顔で聞いてくるが、動けるようになっているのにさすがにこれ以上は居候は出来ないだろうと考えていた。
「お待たせしましたって貴方! こんな可愛い子を泣かせるなんてダメじゃない!」
俺は戻って来た受付嬢に急に声を荒げられて驚きながら言い訳をする。
「い、いやこれは違うんだ。俺はただ単に今日の宿の話をしただけで……」
「今日の宿?」
「えっとね。にいにがでていくっていうの」
その言葉を聞いた受付嬢は、何のことなのかわからず俺に目を向けた。
それを受けた俺は怪我で居候していたことを話し、冒険者登録ができるまでに回復をしたので宿にうつるという話をした所、先ほどのような事態になっていたことを説明した。
「なるほど……。居候をしているのなら仕方がないのかもしれませんね」
「えぇーー!」
受付嬢の話を聞いてまたヒナが泣きそうになったので、俺は全力でナデナデをしてヒナの気分を紛らわせる。
「わ、私も撫でてよいかしら?」
「え?」
ゴホンッ
「何でもありません。それよりお二人の登録証が出来ました。無くすと再発行には登録と同じだけの金額が掛かりますのでお気をつけ下さい。何か質問はありますか?」
ヒナを撫でて良いかしらと言ったことを無かった事にしたこの受付嬢は、俺たちにギルドカードを渡すとキリリとした。
「ああ、ええっと貴女のお名前を教えてほしいです」
「はぁ!? 貴方、今の何か質問はありますかというのはそういう意味ではありませんよ!」
俺の唐突なナンパのような発言に受付嬢は激怒する。
「いえ、こうやって話をしたりするのに、こちらだけ名前を知られていて今後ここに来た時の会話に支障が出ると言うか……。名前がダメならクエストやランクの話を教えてください」
俺が受付嬢の名前を聞いたのは、一応はルシオラという名前を他の冒険者の噂から聞いてはいたものの正しいかどうかわからず、今後話しかける時に呼びやすいようにするためだった。
けっして下心からじゃないんだからねっ!
日本であればこういう受付の対応者は多くが名札を付けていてわかるのだが、この異世界ではそういう名札はつけていないようだった。
「たしかに、こちらだけ名前を知っていると言うのは不公平かもしれませんね。私はルシオラと言います。そうですね、クエストの話はランクに絡むので、まずはランクの話からしますね。ランクはG~SまであってSに行くほど高ランクとなっています。クエストはそのランクの1段階上まで受けることができます。クエストについてはアチラの掲示板に現在受けられるものが貼ってありますので、受けたいクエストを持って受付へ渡せば受理されます。期間内に達成できない場合は失敗となって違約金やランクダウンもありえますのでお気をつけ下さい。お二方は先ほど登録をしたばかりですので、Gランクとなっています。ランクはクエストの達成度やギルドへの貢献度によってあがります」
俺はそれからいくつかの質問をした後に席を立つ。
「ではありがとうございました。今日は……ヒナもいるので帰りますが、またクエストを受けに来ますので。あ、安くて良い宿があれば教えてください」
「宿ですか……。それなら『人生は一度きり!』がお勧めです。リーズナブルなのに宿のご主人が火魔法、奥さまが水魔法を使える事で、全ての部屋にお湯の出るシャワーがついてます」
「へぇ~。それは良さそうですね」
「はい。それに食事も美味しいですよ」
「では後で行ってみます」
俺は宿の名前が名言っぽいのはどうだろう? と思ったが、ルシオラさんお勧めの宿ということでその宿の場所を聞くと冒険者ギルドを後にした。
「ねぇ、キョウジはすぐに宿に向かうの? 聞いた場所なら案内できるけど?」
「いや、先に雑貨屋だとかギルド以外で食事をする場所や、あと装備が買えたりするところを案内してもらっても良いか?」
「もちろん。じゃあ早く行きましょ」
「にいに、かたぐるまちてー」
俺は要望に応えてヒナを肩車すると、ルーナの後を追いかけるのだった。
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