第7話 冒険者ギルド

 俺がナンナの家に怪我の治癒のためにお世話になってから、約2週間というところで刺された箇所の痛みは完全になくなり動きに支障がなくなった。

 歩く程度であれば意識が戻った時からできてはいたが、俺はこの状況を利用することにして長期間居座ることに成功していたのだ。


 状況利用と言っても、痛みが残っていて動きに多少の支障があったことは事実だし、何よりも飛ばされて落ちたこの場所の状況が一切わからない事もあって怪我を治しながら情報収集に徹していたというわけだ。


 ちなみに俺が意識を取り戻して着替えさせられていた事で、ダンジョンコアが手元にないことに気が付いた俺はナンナさんを呼んでコアのことを聞いた。

 ダンジョンコアは俺が着ていた衣類を洗濯するために取り出されていただけで、すぐにナンナさんはコアを俺の元へと持って来てくれる。


 その時の俺はポケットも付いていない衣服に着替えていて、どうやって持っておこうかな? と考えたその瞬間にコアは俺の体の中へと吸い込まれたのだ。

 それがナンナさんたち三人の前で起きてしまってひと騒動あったのだが、『魔法で消えただけだから』という一言で簡単に信じてもらえたことにもビックリした。

 魔法がある世界って何かあれば魔法ですって言えば、納得されそうで怖い。


 「キョウジは今日、冒険者ギルドに登録に行くんだよね? 案内をしようか?」


 俺はこの世界のことをこの二週間の間に聞いて、どのようにお金を稼ぐかを考えていた。

 ナンナ親子三人から話を聞く限りでは、俺が異世界転生を心の底から願っていたことで転移をする権利を得たように、この世界は俺が思い描いた世界そのもののようだった。


 思い描いた通り……ということで、当然のように冒険者ギルドが存在しクエストを受けることでお金を稼ぐことができるのだ。


 「ああ、悪いけど案内してくれないか。この辺りはまだそれほど出歩いていないから、迷子になってしまう」

 「にいに、まいごになりゅー? じゃあヒナもついていってあげりゅの」


 話を聞いていたヒナが私もついて行くとぴょんぴょん飛び跳ねながら俺にまとわりつく。

 俺は冒険者ギルドは荒くれものがいて危険なのでは? と考えるが、ルーナが特に止めてもいない事から大丈夫と判断する。

 俺が読んでいたラノベだと、冒険者ギルドで絡まれるのはお約束だった。

 だが、よくよく考えてみると、それらの作品の多くはクエストで町の住人の依頼も受けていた。


 それを考えると、依頼者も冒険者ギルドを訪れているはずで、ギルド内の治安が悪ければ一般人に絡む冒険者も出るはずだ。

 特に綺麗な女性が依頼をしに来た時なんかは、良くあるラノベ世界のギルドでは逆に危険で問題が起こりそうな作品ばかりだった。

 実際はそこまで治安が悪かったら依頼をしに来る住民はいないだろうから、この世界ではギルド内はまともなのかもしれない。

 俺はそう考えて、一緒についてくると言うヒナを呼び寄せた。


 「いいぞー、ほら肩車だ」

 「わーい!」

 「じゃあルーナ案内してくれ」

 「ええ、わかったわ!」


 俺たちはそんなやり取りをすると、三人で冒険者ギルドに向かう。




 「ここが冒険者ギルドか」


 俺はいかにもな建物の扉をくぐり、冒険者ギルドの中へと入る。


 「これは……まさに俺が夢見た冒険者ギルドそのものじゃないか!」


 俺は興奮してつい言葉を発してしまう。


 「ゆめにみちゃ!」


 良く分かってない肩車をされたままのヒナが俺の言葉をリピートしてキャッキャしている。


 「受付があって飲み屋が併設されている。しかも受付の場所によって列の長さが違うだと!?」


 俺は長蛇の列の先を見ると、それは可愛らしい受付嬢が一生懸命に対応していた。

 日本では見られない光景に俺は興奮する。

 4つほど受付窓口がある。

 俺はこういう時って一人はいかつい顔のおっさんが、誰も並んでいない受付窓口にいてそれがギルドマスターなんだよなと思い探してみるが、おっさんの受付はいない。

 代わりに誰もそこに並んでいない受付窓口があるにはあった。

 そこを見ると、耳が尖っていて少し大きなザ・エルフ美人が座っている。


 「どういうことだ? あれだけの美人なのに誰も並んでいない? まさか高レベルの冒険者専用窓口とか? ルーナはどう思う?」

 「どうなんだろ……。私もほとんど冒険者ギルドには来ることがなかったからわかんないなー」


 ルーナに聞いてもわからないならとりあえずはそこに行ってみて、ダメなら他へ移動すれば良いだろうと俺は判断する。

 そしてそのまま一直線にその受付窓口に向かうが……。


 「おい、まじか。あいつルシオラさんの所へ行くぞ」

 「ほんとだ。子供を肩車ってどういう状況だ!?」

 「横にいる子、可愛いな」


 こっそりと周りの話に耳を傾けるが、特に有用そうな会話はなかった。

 唯一、あの受付嬢はルシオラという名前ということが分かったくらいだ。


 「すみません、冒険者登録をしたいのですが……、この窓口でも登録できますか?」


 窓口に着いた俺は、とりあえず冒険者登録ができるかどうかを聞いてみる。


 「はい、貴方だけですか? そちらのお嬢さんも登録をするなら後からだと2度手間になって面倒です。登録するなら今、決めてください」


 お、おお? 口調が物凄く冷徹だな?

 でも俺は見逃していなかった。

 彼女が俺の肩に乗っているヒナを見て、一瞬ふにゃりと表情を崩したのを。

 この人、絶対に可愛いもの好きだろ。


 「ルーナはどうする? 聞いた限りでは登録をしておいて損はないんだよな? ルーナはまだ登録してないって言っていたし、ついでにしておいたらどうだ?」

 「私? うーん、でも町から出ることも今までになかったし……」


 ええ? ルーナってこの町から出たことがないの?


 「じゃあ、ヒナがすりゅ!」


 ヒナがそう言った瞬間、エルフ受付嬢はだらしなく表情を崩した。

 そして俺と目が合ってしまう。


 ゴホンッ


 「それでどうなんですか! 登録するの? しないの? 今でしょ!」


 急にキリリとしたかと思うと冷たい言葉をルーナに投げかけるが、そんな事では俺は騙されない。

 しかもその『今でしょ!』って、言う必要あった?

 とりあえずは登録をしておけばってことかな?


 「とりあえず、ルーナも登録しとけばいいよ。別に冒険者になったからと言って問題がでるわけでもなし」

 「うーん、それもそうね。なら登録するわ」

 「はい、二名ですね。では一人あたり3銀貨です。こちらの用紙に名前と年齢、魔法かスキルが使えるのならその記入もお願いします。あ、虚偽を書くと罰則がありますよ。この後にどの道、検査を受けるので虚偽の報告をしても無駄です。代筆が必要な場合はおっしゃってください」

 「すみません。細かいものがないのでこれで……二人分です」


 俺はそう言うと大金貨1枚を受付に払う。

 この大金貨はダンジョンコアと一緒になぜかポケットに3枚入っていたものだ。

 あの管理者も多少の融通はしてくれたのだろう。


 ちなみにこの国での貨幣は、

 銭貨が1円、鉄貨が10円、銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が1万円、大金貨が10万円、白金貨が100万円くらいの価値となっている。


 俺はたくさんのお釣りの小銭と登録用紙を2枚受け取ると、登録用紙の1枚をルーナに渡して書き始めた。


 「ヒナは? ヒナもとうりょくすりゅ!」


 俺がチラリと受付嬢を見ると、やはり顔を盛大に崩していたが、見られていることに気が付いたエルフは表情をキリリッとした。


 「ほら、ヒナはまだ登録はできないだろ~。年齢制限があるのかはわからないけどな~」


 俺はヒナをあやしながら、年齢制限というところで受付嬢を見る。


 「年齢制限は特にありませんが……、クエストがこなせそうにない場合は登録することは出来ません」

 「むー」


 ヒナはもちもちのほっぺをぷくーっと膨らませて納得がいかないようではあるが、ここは我慢してもらおう。


 「書けたよ」


 ルーナは想像通りの15歳か。

 俺も書き終えたので受付嬢に提出した。


 「では、一人ずつこれに手を当てて下さい」


 エルフの受付嬢はそう言うと、水晶球を取り出した。

 おお……、ダンジョンコアっぽい。

 全くの別物というのはわかっているが、見た目だけで言えば俺のダンジョンコアを少し大きくしたようなものだった。


 「では俺から」


 俺はそう言うと、水晶球に手を乗せる。

 エルフの受付嬢は登録用紙と水晶球を見比べながら、頷いている。


 「はい、結構です」


 ルーナも同じ事を済ませると、エルフの受付嬢は2枚のカードを取り出した。


 「ではこのカードに……この針で一滴、血を落として下さい」


 俺たちは言われるままカードに一滴血を落とす。


 「少々お待ちください」


 エルフの受付嬢はそう言うと、2枚のカードを持ってギルド内へ入って行く。


 俺はヒナを肩車から下ろすと、目線を合わせる。

 どの程度時間が掛かるかわからなかったためで、三人で会話をして時間を潰すことにしたのだった。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る