第5話 知らない天井

 「いててっ……。ん? 生きている? あ、あいつらは!? あの少女は助かったのだろうか!?」


 痛みで意識が戻った俺は、自分がどういう状況だったかを思い出し一気に覚醒する。

 そして寝ている状態から上半身を一気に起こすと……、


 「痛っ。刺されたこと自体が初めてだったが、あれだけ深かった傷にしては起き上がれるのは一体……」


 俺は痛みに顔をしかめながら、自分が刺された2か所の傷を見るとそこには包帯がまかれてあった。


 「治療されている? というより布団の上で寝かされているということは、病院へ連れて来てくれた人がいるのか? まさかあの少女が?」


 俺は自分の姿を確認すると、自分が着ていた服は上下ともに脱がされていて、上は腹を二か所刺されていたためか包帯を巻かれているだけ、下は簡素なズボンに履き替えられていた。


 バタン


 扉が開いて閉まる音がしたので俺がそちらを見ると、30代前半に見える美人さんと目が合った。


 「あらあら、目を覚まされたんですね。 具合はどうでしょう?」

 「痛みがありますが、それ以外は元気です。貴女がここへ連れて来てくれたのですか? ここは一体!?」

 「たしかにすごーく元気でしたね! ここは私の家なので安心してください。急に娘が戻ってきて、使わないと決めていたはずのポーションを持って出かけたので追いかけたらあなたが居て……。上級ポーションでも完全に回復ができなかったようなので娘と一緒に連れて来ました。あと少しでも遅ければ、死んでいたと思うので助かって良かった。お父さんはもしかしたらこの時のためにポーションを残しておいてくれたのかもしれません」


 ? たしかにすごーく元気でしたってなんだ? 上級ポーションがどれほどのものか分からないが、死ぬ寸前からここまで回復をしていることを考えると物凄く高価なものの可能性がある。

 そこから回復したと言うのに元気? 意味がイマイチわからないが、方言か何かなのかもしれない。


 「それは……大変貴重なものを……。体が動くようになったらお返ししますので……」

 「いえ、私たち家族では何かあっても使うことのなかったものなので、これも運命なのかもしれないです。3日も意識が戻らなかったから娘も心配していたんですよ。ルーナ! 助けた人の目が覚めたわよ!」


 3日!?

 俺は自分が意識を無くしてから3日も経っていた事実に驚く。


 バタバタッ バタン


 「やっと気が付いたのね! ってアンタ大丈夫なの?」

 「あ、ああ君が助けてくれたんだね。ありがとう」

 「もう……何を言ってるのよ。 先に助けられたのはこっちでしょ」


 絡まれていた所を助けたのと、確実に死ぬ傷を負った状態から助けてもらったのでは、助けたという行為は同じでも重要度ははるかに後者が大きいだろう。


 「おねぇちゃん~。あ! おっきくなってて、ぱんちゅをぬがすのにくろうちてたひとがおきてるっ!」


 声がする方を見れば5歳くらいのケモミミの女の子がトコトコとこちらにやって来ていた。


 (幼い子は「さしすせそ」のサ行や「らりるれろ」のラ行が言いにくいんだっけ? 訳すと、パンツをぬがす時に大きくなっていたって……俺のアソコのことだよな!? おっきくなっていて脱がすのにそれが引っかかっちゃったの!? たしか男は死ぬ直前に子孫を残そうとして、生理現象でおっきくなると聞いた事が確かあったが……。ハッ だから死ぬ寸前の傷を負ったのに、すごく元気でしたとこの人はいったのか!?)

 

 俺がそう考えていると、「おとななのに はじゅかちい……」とケモミミ女の子が小さな声でつぶやいているのが聞こえる。

 俺は恥ずかしくなって美人な女性と目を合わす。


 「お、お見苦しいものを見せてしまったようで申し訳ない」

 「イエイエ……すごく元気でいらっしゃいました」

 

 って待てよ!

 え? 家族三人で俺のあそこがエレクト勃起しているのを生確認しちゃってるの!?


 「今の会話からするともしかして俺のアソコは三人ともに見られたってことか!?」

 

 俺が衝撃の事実に気が付いて、少女に目をやると、彼女は恥ずかしそうに下を向いていた。

 

 「ひな おとことおんなのちがい しった」

 「こ、こら。ヒナ、何言ってるのよ!」

 

 ケモミミっ子はルーナが、どうして怒っているのか理解できているのかどうなのか分からない表情でキョトンとしている。

 寝ている間に性教育しちゃってたよ!

 いや、男性と女性の違いについて知っただけだから、性教育ではないか。

 俺は、なんてことだと頭を抱える。


 「にいに うごけるくらいに げんきになった?」


 ケモミミ幼女っ子はそう言うと、天真爛漫な大きな瞳をキラキラさせながら、笑顔としっぽふりふり状態で俺に抱き着いた。

 か、可愛い! なんだこの可愛い生き物は。

 元気になったかと言われると先のことを思い出してしまうが、ここでは普通に体は大丈夫かということだろう。

 まあ、この可愛さならどっちでもいいんだけどな!

 とりあえず撫でまわすことは確定だ。


 「えへへ。 なでられるのすきー」

 「ごめんなさいね。この子はお父さんを亡くしてからずっとふさぎ込んでいたから、貴方……えぇと」

 「あ、俺は天城矜侍あまぎきょうじと言います」

 「え? まさかお貴族さまですか?」

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