第4話 異世界転生→即死亡!?②

 「大丈夫―――」

 「何が遅いって?」


 俺が少女に大丈夫かと問いかけようとしたその時、後ろから声が掛かり……見るとニヤニヤした八人ほどの集団がナイフを取り出してこちらに来ようとしていた。

 俺は相対する輩二人に集中をしすぎていて、仲間が近寄って来ていることにさえ気が付けていなかったことに歯噛みする。


 「お嬢さん、ここは俺に任せて行ってくれ」


 俺は後ろは囲まれたが、幸いにも前方は二人を既に倒しているために開いていて、逃げ出すことが出来ることを確認すると少女に逃げるように促した。


 「あ、アンタはどうするのよ」

 「さっきのを見ただろう? 俺は強いから大丈夫。ほら時間がないよ。急いで!」

 

 ――!!


 少女は迫りくる大勢の輩を見ると、一目散に逃げだした。


 「ふう、なんとか逃げてくれたか」

 「いや、お前も逃げればいいのに女の前だからってその選択は悪手だけどな」

 「ハハッ。いつも通り、殺したら森に捨ててモンスターの餌食になった事にしやしょうよ」

 「「だな!」」


 もちろん俺も武器を持った大勢の相手が増えた時に、少女と一緒に逃げ出すことは考えていた。

 だが、少女の移動速度がどの程度かもわからない。

 逃げている最中に捕まれば、すでに俺が相手の二人を昏倒させてしまっているために、最初の状況よりも穏便に済むことはないだろうと言う判断のもと……俺は少女を先に行かせて時間稼ぎをすると言う選択をとったのだ。

 そして俺は少女が見えなくなったのを確認して、大勢の輩の方へ向き直った。


 「ここは……もう一度ジャパニーズの本領を見せる時が来たのかな?」

 「は? ジャパ……、なんだって? いやもういいわ」


 男たちはそう言うと、こちらに近づくが……、俺はそれを見て彼らの前で―――

 それはもう綺麗な態勢で、異世界で二度目のジャパニーズ土下座を敢行した!


 「いや、本当に申し訳ない。こちらの不徳の致す所でした。どうかこの作法に免じて許して頂けないでしょうか? あ、これは俺の地元での最上級の謝罪をする時の所作となっております!」


 男たちは俺の綺麗な土下座を見て……、一瞬あっけにとられるも、すぐに気を取り直し俺に近づくと囲んで蹴り始めた。


 「ギャハハ! 何だコイツ! 自分から攻撃をしてくださいって地べたにはいずりやがった!」

 「ぐっ……」


 俺は囲まれて蹴られる痛みを必死でこらえる。

 俺はジャパニーズ土下座でこいつらが許してくれるだろうというような甘い考えは当然の事ながら持ってはいない。

 それなのになぜこのよう愚行に及んだのかと言えば、人はある程度の発散をすればそれ以上の凶行には及ばなくなる可能性があったからだ。


 相手が殺して森に捨てると言う発言をしていた事や人数の多さから、俺が相手を殺す気で対応をしたとしても、ナイフなどの凶器を持っていることなどを合わせて考えれば、無傷で終えることは難しく、最悪普通に殺される可能性もあった。

 だから、ある程度の攻撃をさせて気を晴らさせて「これに懲りたら調子に乗るなよ」といった状態で切り抜けようとしたのだった。


 「は~。笑ったわ~。自分からヤラれに地面に這いつくばる奴なんて初めてみたぞ。これに懲りたら――」

 「てかコイツ、こんなバカが生きている意味とかなくね?」

 「んん? そう言えばそうだな。じゃあやっぱり殺すか」

 「だな。ハハハ」


 俺は輩たちのその発言を聞いて自分の策が失敗した事を悟る。

 そうとなれば、これ以上ダメージを受けることは反撃の機会を失うことにもなりかねないためにすぐに行動をおこした。


 その行動というのは相手に蹴られた瞬間に、痛みに悶えてそのまま蹴られた方向に移動するというものだった。


 「お、効いたみたいだぞ!」

 「ハハッ ヨエー!」


 俺はゴロゴロと転がり、その先にいる別の輩の足元に転がる。

 その先にいる男は俺との距離が縮まった事で蹴ることができず、囲みを解いて移動した。

 それを確認した俺は一気に立ち上がり、距離をとった相手を蹴り飛ばす。


 「グハッ」

 「!? コイツ! やっちまえ!」


 俺は迫りくる敵を躱しながら攻撃を加える。


 「避けながらだから腰が入っていないせいで倒しきれはしないが、当たらなければどうということはない」


 俺はそう言うと華麗に攻撃を躱して、一撃では仕留められない代わりに確実に一人ずつ倒していった。

 幸いにも彼らは短いナイフで、線ではなく点で攻撃をしてきたためにナイフで刺された後の恐怖を感じなければ、少し手の長い拳と同じ対処法で問題がなかった。


 「ふう。ハイ終りっと。想定よりもかなり弱くて助かった。しかしさすがに疲れたな」


 最初の二人を含めて、十人すべてが地に伏した事を確認した俺は一人そう呟く。


 「さて、戦利品の確認と行くか。異世界だし、こういう時ってドロップアイテムは俺のものだよね?」


 日本では考えられないし、絶対にしなかった行為を俺は敢行する。

 倒れ伏した輩に近づくと、俺はおもむろにしゃがみ込んで懐をまさぐり始めた。

 こいつらの持っている金銭を、ゲームで言う所の敵を倒した後のドロップ品として扱おうとしたのだ。


 「……グフッ」


 金目の物を探していて意識がそちらへ取られていた瞬間に、俺は瀕死の輩の一人から、しゃがみ込んでいたことも裏目に出てしまってわき腹をナイフで刺されてしまった。

 痛みを押して立ち上がった俺は、刺した相手の頭を全力でサッカーボール蹴りする。

 蹴られた相手は首が曲がりピクリとも動かないことを確認し、刺された傷をみると衣服に大量の血が滲みんでいる。

 かなり深くまで刺し込まれているようだった。



 「これは……まずいな。日本では犯罪者を倒した後でも強奪は犯罪だから、罰が当たったのか……?」


 内臓が傷ついていればそれだけで死に至るし、しかもここは異世界だ。

 見る限りの建物から中世のヨーロッパ程度の文明に思える。

 痛みに耐えて失血死を防ぐために傷に手を強く当てている俺は、他にも立ち上がる輩を確認して自分の置かれている状況が非常にまずいと判断していた。


 立ち上がった一人目の攻撃を傷を受けた体で何とかかわすが、二人目の攻撃はかわすことが出来ず、そのまま腹をまたもやナイフで深く刺されることになってしまった。


 「……異世界転移してすぐに死亡とか……、夢は叶わないから夢だと言うのに叶って調子に乗った結果がこの有様だよ……」


 俺はこれから死ぬ事を自覚する。

 しかも相手はこのまま俺が、失血して死ぬことすら待ってくれそうもない状況だ。


 「こうなったらイチかバチか……。死んだらこいつ等も解放されてしまうかもしれないが……」


 俺はそう言うと、ポケットに入れていたダンジョンコアに手を当てて、周囲にいた連中の全員をコアの中に入れるように思考する。

 その瞬間、俺に攻撃をしようとしていた者を含めて全員が俺の周囲から忽然と消えた。


 「はあ。俺が死んでもあいつらが……解放されなければ良いんだけど……」


 俺は一言そう話すとドサリと倒れ、霞む目を彷徨わせる。


 

 「ああっ……! アンタしっかりしなさいよ!」


 俺はその声に霞む目を向けると、助けて逃げたはずの少女がこちらへ駆け寄って来ているのを確認する。


 「―――なんで戻って来たんだ、俺が死んだらあいつらが解放されて―――」


 俺は言葉を最後まで発することが出来ないまま、意識を失ってしまうのだった。



 

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