第8話 隠れ家



 姿勢を低くして歩いてきた道の向こう、殆どが崩れたような家が幾つも見える。

全く人の気配は無い。

周りは背の高い雑草に覆われている。

隠れ家にするには絶好の場所ではあるが屋根は崩れて既に無く、僅かに風を防げる壁があるだけで雨は防げそうにない。


 中央に位置する場所には井戸がある。

幸いにして涸れてはいなかった。


 家の中に入ってみる。

かまどはひび割れているが、使える。

食器は? クノーで削ればなんとかなりそうな器がいくつかある。

他の家にも入って集めればなんとかなりそうである。


 時間はない。

念動力を使ってなんとかするしかないだろう。


 エリオットの頭の中で、沢山の思考が流れる。


 その横で二人の少女が落胆したような顔をして家の中を見回している。


「まさか、この家の中で暮らすの?」


とブランシュが呟くように言うと、


「当たり前じゃない、私達は戦いにきたのよ、ピクニックに来たんじゃないんだから」


とイズーが答える。


「そんなの分かっているわよ」


 とブランシュが姉らしく振る舞うために言う。

そのやりとりを聞いてエリオットがため息を吐きながら言う。


「このままでは暮らすことはできないでしょう。とにかくできる事から始めましょう」


 エリオットは両手を前に出し、掌を勢いよく広げると、小さな竜巻のようなものが出来上がる。

そして竜巻は家の中をぐるぐると回り出し、壊れた板や埃が家の外へと舞い上がって行く。


「先ず、掃除はできたか」


 エリオットが独り言のように言うと、


「ヒュー」


 と音にならないような口笛でイズーが答える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る