第6話 時の扉


 

 パステルナークが三人の子供達とエリオットと共に神殿の森にいる。

パステルナークは天に向かい顔を上げて祈りを捧げだす。


 この世界以外でも構わない、いや、全ての土地と時間を超えた世界で優秀な騎士を探し出し、此処へ召喚したまえ、あの時にパステルナークが岩山の王ポーに剣に変えられたあの時と同じように、一心に祈った時と同じように、時の経つのを忘れて祈る。


 どれくらいの時がたったであろう。

よく晴れた空から一雫二雫と雨が降り出す。

やがて大量の雨になり、天が怒ったように轟音と共にいかづち落とす。

それは一瞬の出来事であった。

やがて元の静寂を取り戻した森の天空から木漏れ日が落ちてくる。

皆は晴れている空を不思議そうに呆然と眺めていた。

森の大地でひと時の通り雨が草花に水滴を湛えている。


 一番下の娘、5歳を越えたばかりのイズーが言う。


「お母さんが、」


 皆が、パステルナークのいた所に目を向ける

其処には子供達の母は居なく、朱色の鞘に入った細身の剣があるだけであった。


「お母様!」


「母さん、母さんは何処?」


 真ん中の娘ブランシュに続き、一番上の息子ベティエが懇願するように言う。

そして声がする。


「母は此処です」


 剣から声がする。


「お母さんが剣になっちゃたの?」


 イズーが情けなさそうな声で言う。


「そうだ、母は剣になってあなた達と共に異国へ行く。時の扉が開かれるのであれば、その証として我が身を剣に変えたまえと願ったのです」


「なんで、なんでそんなことするんだよ」


ベディエが不思議そうに尋ねる。


「べディエ様、そしてブランシュ様、イズー様、聞いてください」


 エリオットが静かに言う。


「ベディエ様は十五歳、ブランシュ様は十二歳、イズー様に至ってはまだ五歳に過ぎません。この状況で妖魔たちと戦うには無謀。私は止めたのですが・・・。王妃パステルナーク様は、母として皆を守れるよう自ら剣に変わり先陣を切るつもりであらせられます」


 子供達は目の前にある現実についていけず、黙って下を向いている。


「ベディエ様、あなたは剣術に優れている。この剣を帯刀して先陣を切ってください。ブランシュ様、この袋を背に負うてください、中身は全てクノーです。イズー様・・・。」


 エリオットがそう言った時、イズーからエリオットに話しかける。


「分かってるわ、念通力でしょ、本当は飛んだり跳ねたりして戦いたいんだけどね」


 エリオットは少しだけ笑って、すぐに真顔に戻り、イズーに諭すように言う。


「戦とは命のやりとりです、兄弟喧嘩のようには行きませぬよ」


 イズーはエリオットから顔を背けて言う。


「私だって王家の娘よ、戦うべきよ」


 エリオットはどうしようもないお転婆娘だと思うが、確かにこの一番下の娘が成人していたなら、どれほどの戦力になろうかと想像する。

それは秘められた力、念通力だけではなく念動力も備えているであろう。

今のエリオットはそう思っている。


「さぁ、扉は開かれた。私の言う方向へ付いてきなさい」


 パステルナークの言う方向へ歩いて行くと、空間に裂け目ができたように、四人が森から消えて行った。

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