魔界の王
織風 羊
第1話 辿り着けば
暗い、なんて暗い場所なんだ。
一体、私は何処へ飛ばされて来たと言うのだろうか?
父であり王の命令で飛ばされて来たのだが、ここが何処か分からない。
他の者は何処へ行ったのか?
私一人だけがここへ飛ばされて来たと言うのか?
ベディエの背後で物音がする。
咄嗟に身を低くして剣の
気のせいか? と思ったが、何故か気配は消えていないように思える。
「正面か!」
ベディエはその構えのままで、上腕だけに力を集中し剣を水平に素早く振る。
「斬れたか?」
闇の静寂の中で、何かが地面に落ちる音がする。
「斬れた、然し何が?」
闇が自分を中心に狭まって来ているような錯覚に陥る。
「キサマ、ナニヲシニ、キタ」
ベディエから向かって正面右側から声がする。
近いか? いや、そう遠くはないが声の位置からしてベディエの太刀筋の間合いには入っていない。
ベディエは剣を青眼に構え直し、相手の出方を待つ。
姿勢は低く保ったままでの構えだ。
ここで無闇に動けば相手の思う壺だということは充分に承知している。
然し暗い、相手が何人いるのかさえ見当がつかない。
ベディエは闇の中で、更に目を瞑り、意識を集中する。
見えた! 闇に閃光が走るように、一筋の光が走った。
闇の中で走る閃光に合わせてベディエは青眼に構えた剣を右肩へ縦に構え直す、というよりも受けの構えにでた。
思った通り剣に強い衝撃を感じた。
それと同時に闇に火花が散る。
ベディエは火花が散った一瞬を狙って目を開ける。
「見えた、相手は妖魔三体、一体は胴が切り離され地面に転がっている」
続いて、別の一体から槍が突き込まれるのを感じる。
これか、風を感じるのではなく、念通力で相手の動きを読め、と言っていた父の言葉を思い出す。
先ほどの衝撃で地面に向いた剣を立て直し、下から斜めに振り上げる。
何とか槍の突きを避けることは出来た。
ベディエは目を瞑ると、静かに身を低くする。
「そうか、これが実戦で使う念通力か」
ベディエは地面スレスレに剣を構えている。
「今か? 今だ!」
ベディエは刃をそのまま上に傾け下段から上段に振ったが、何の感触も感じられなかった。
「しまった、遅かったか」
そう思ったのも束の間、剣を持った妖魔の二の太刀がベディエに襲い掛かる。
ベディエは、飛び退く。
「危ない、少しでも遅れていたら斬られていたぞ」
と自分に言い聞かせると、真っ直ぐに背を伸ばし、右足を少し前に出す。
「来た!」
ベディエは袈裟懸けに剣を振り下ろす。
「斬った」
地面に相手の剣の落ちる音がする。
胴体のような大きなものではない、斬ったのは手首だ。
そう思う。
「オノレ ニンゲン」
ベディエは声のした方へ突進するが、正面の妖魔ではなく、振り向きざまに剣を持ち上げたかと思うと、剣は美しく弧を描いて、背後に迫っていた槍を持った妖魔を二つに斬る。
父の言った通りだ。
妖魔が二体居る時は、正面は陽動で、必ず背後から別の一体が襲い掛かってくる。
背後から襲ってきた妖魔を斬り裂くと、剣の柄で正面に居た妖魔の腹部を力一杯に突く。
そして、更に正面に居る妖魔へ振り向くと、そのまま水平に剣を振るが避けられる。
ベディエの二の太刀は突きだ。
真っ直ぐに伸びた剣の先が妖魔の喉を貫く。
ゆっくりと剣を妖魔の喉から抜くと、片手を失った妖魔が声もなく地面に落ちる。
「目を開きなさい」
声が聞こえて、ベディエはゆっくりと目を開いていく。
辺りが少しづつ明るくなっていく。
「あの妖魔三体は、虚の朝と昼、そして夜を操る者」
「母さん」
ベディエは朱色の鞘から抜刀された細い剣に話しかける。
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