第13話 メッセージ

 俺は病院から出ると祠に向かった。アパートに帰ることも考えたが、鍵がかかっていたことを思い出して行かなかったのだ。


 スマホと充電器を入れたビニール袋を引きずりながらも、できるだけ目立たないように端っこを歩く。そして、やっと大銀杏の下まで来ると、誰もいないことを確認し、祠へ入った。


「ふう……」

 スマホを引っ張り出し、祠の中に座ると、俺はやっと落ち着いた気分になった。

 アプリを開いて未読のメッセージを読む。事故の日、由里子から届いたものが最初だった。



『スカル・バンディット二周年おめでとう。今日は遅くなるね。楽しんで。でも、危ないことはしないでね。じゃあ、また』

 と、あった。この後、事故に遭っている。俺は目に滲んだ涙を前足で拭った。


 続けて、浩二のメッセージを開く。これも、事故の日に届いたものだった。

『竜一くんどこにいる? チームのみんな結成二周年を祝おうって、とっくに集まってるよ』


 その後、時間を置いてメッセージがいくつもあった。

『なんか、事故を見たって奴から連絡が入ったんだけど、竜一くん、嘘だよな? 早く、連絡してくれ』


 俺はため息を吐いた。続けて、他のメンバーからも入っていた。


『おい竜一! 返事しろ。みんな心配してるぞ』

『嘘だろ? 早く連絡してくれよ!』

『大丈夫なのか? 返事もできないのか?』


 事故のことを知ったメンバーからのメッセージだった。

 そして、事故の三日後、もう一つ、浩二からのメッセージがあった。


『ブラック・マンバの奴ら、動きがきな臭い。すぐにでも抗争が始まっちまうかもしれない。竜一くん、早く起きてくれ! じゃないと、俺、もうだめになっちまいそうだ』

 浩二の悲鳴のようなメッセージだった。


「浩二……」

 病院で背中に邪霊が貼り付いているのを見たばかりだ。邪霊は、浩二の心が弱くなっているのにつけ込むんじゃないか、そう思うと焦る気持ちが募った。


 俺はため息をついて、メッセージアプリを閉じた。

 やはり、邪霊を放っておくわけにはいかない。奴らが生まれる巣とやらを徹底的に叩かなくては――



「おい、虎徹!」

 いてもたってもいられなくなって、俺は虎徹に呼びかけた。だが、全く反応はない。俺の時と同じで、寝てるような感じなのか……。


 頭を振ると、スマホのニュースアプリを開いたが、途中から内容が全く頭に入らなくなった。頭の中は邪霊のことで一杯だった。


 浩二だけじゃ無い。幸の背中にも憑こうとしやがったのだ。

 この街の邪霊はどれくらい、いるのか?

 このままだと、また幸が狙われるのでは無いか?

 由里子や母さんは大丈夫なのか?


 俺はため息をつきながらスマホを傍らにやった。

 小さく丸まり目をつぶる。

 ――と、スマホが鳴った。


 メッセージアプリの着信だった。

 同時に、待ち受けの画面に、メッセージが表示される。


『竜一くん、すまない。おれ普通じゃない。目が覚めて、このメッセージを見ても何のことかわかんないかもしれないけど、俺、チームのために頑張るから、許してくれ』

 浩二からのメッセージだった。


「ふっ」

 俺は笑って、スマホの電源を落とした。


 浩二。邪霊が憑いてるっていうのに、お前は大した奴だぜ――。


 目を瞑ると、

 ざ、ざ、ざあ……と、銀杏の葉が風に揺すられる音が響いた。

 俺は子守歌のようなその音を聞きながら眠りについた。

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