俺には見る事しかできない!~中途半端な霊感持ちの俺がオカ研に入りました!~

梅玉

第1話  出会い

ある地方都市の冬。

高校の合格発表を見に来た巧一朗こういちろうは、無事自分の番号を見つけ帰路に就いていた。

(・・・何とかこっちの高校に合格できたし、春からはこっちで頑張らないと)

彼はこの春からこの町に引っ越してくる予定なので、

いち早くこちらの高校を受験に来ていたのだ。

そして今は帰り道の途中にある商店街を通り抜けているところだった。

(へぇ、結構大きい商店街だな)まだ雪も残る中、多くの人で賑わっている。

巧一朗は商店街の小さなスーパーで飲み物を買うと、

その先の公園で一息つくことにした。


ベンチに座って買ったジュースを飲む。今日はとても寒い日だったが、

それでも喉を通る冷たいジュースの感覚は心地よかった。


しかし、そんな彼の耳に奇妙な声が聞こえてきた。

「・・・聞こえる・・・?私の・・・声」

巧一朗が自分の左手を見ると、

見知らぬ少女が彼の手の上に手をのせていた。

しかしその姿は、透けていた・・・。


「!!?」巧一朗はあまりの出来事に驚いてその場で固まった。

しかし周りには誰もいない。

どうやら目の前の少女の姿が見えているのは自分だけらしい。

彼女は巧一朗の手を握ったまま話しかける。

「・・・見える、の?」かすかに頭に響くような声。

(ま・・・まただ!)

巧一朗は所謂「見える」人間だ。

昔から普通の人とは違うものが見えてしまう事が多々あった。

それは幽霊であったり妖怪であったりするのだが・・・

彼にはどうしようもできなかった。

(だからなんもできないんだってば、俺は・・・!)


ここで漫画や映画などであれば、霊感の強い人間が、

何らかの形でこういう存在を浄化したり除霊したりするんだろうが、

あいにく彼にはそういった能力がない・・・。

(あてにされても困るんだよ・・・)巧一朗は恐怖に震えていた。

「見える」だけで何もできない彼にできることは、

こう言った存在をひたすら「無視」する事だ。

(・・・俺には見えてません!俺には見えてません!だから・・・

どっかいって・・・!)

巧一朗はメガネの奥の目を瞑り、祈るように無視をした。


「・・・ねぇ、聞こえてるんでしょ?返事してよ!」

そう言うと、彼女はさらに強く握ってきた。まるで、

「お前しか頼れる者がいないんだぞ」と言っているかのように。

巧一朗はますます怯えてしまった。

(お願いします勘弁してくださいマジで怖いです)

しかしそんな彼の願いも空しく相手は消えてくれそうにない。

それどころか、徐々にどす黒い物体へと変化し始めている。

(え・・・ヤバイこれ絶対ヤバいやつだろ・・・!?)

巧一朗の顔色はみるみる青ざめて行った。

『・・・ふぅん、やっぱりあなたには私の姿がはっきり見えるみたいね』

彼女の顔はどんどん黒く染まり、ついに完全に真っ黒になる。そして、

そこから口だけが浮かび上がった状態になった。

(うう、こんなことにならないように、それっぽい場所には

なるべく近寄らないようにしてたのに・・・)

巧一朗が己の不幸を呪ったその時だった。

どこからともなく声が聞こえてくる・・・。

(これは・・・お経?!)


「ナウマクサンマンダボダナンアビラウンケンソワカ・・・」

巧一朗にはその意味はさっぱりだったが、

しっかりとしたその声は耳に心地よく届いていた。


するとどうだろう。先ほどまで巧一朗の手を掴んでいた少女は、

見る見るうちに姿を消していった。

それと同時に辺り一面に白い光が満ちていく。

(何だこの光は一体何が起こってるんだ・・・)


巧一朗が声の下方向を見ると、女性の後ろ姿があった。そ

の女性は髪を肩より少し上あたりで切りそろえており、

別に特別な服装はしていなかった。

やがてその女性が振り返ると、そこには美しい顔立ちの女性がいた。

「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました・・・」

巧一朗は女性に礼を言う。

「何のことだ?」

「え、だって今助けてくれたんじゃ・・・」

女性は不思議そうな顔をしている。

「私は君を助けた覚えはない。君は何だ?」

(え?)

こういったお経はただ唱えるだけではこうはならない。

よほど徳の高いお坊さんか、修行を積んで霊力を得た人が

こういった力を発揮できる。


巧一朗はこの体質のせいで、よくそういった人にお世話になっていたので、

そう言った能力を持った人をなんとなく見分けることができていた。

「だって今・・・お経を・・・」

「ああ、これはただの練習だ。」女性はぶっきらぼうに答えた。

「練習ですか・・・」

(すごい能力だったのに・・・練習?!)

「そうだ」

「じゃ、じゃあさっきの女の子は・・・」

「だから何のことだ?」

(ええ?!)巧一朗は驚愕する。

「・・・いえ、なんでもありません」

(俺、疲れてんのか・・・?でも確かにあれは現実に起こった事だよな)

「いつもここの公園で読経の練習をしているのだが?」

「いつも?」

「・・・家が寺なもんでな」

(・・・!!)

ここで巧一朗は確信した。

やはりあの子は幽霊であったのだ。

そして目の前にいる女性が、幽霊を成仏させたという事に。

だとしたら彼女は霊能力者ということになる。

(でもさっきの会話的にこの人まったく見えてないってことになるぞ)

「おい、聞いているのか」

「あ、はいすみません」

考え事をしていたら、いつの間にか注意されていたようだ。

「それで、君はどうしてここに来たんだ?見たところ学生っぽいが?」

「いや、俺は合格発表見に来ただけで・・・」

「ほう、ということは受験生か?君は。」

(なんか口調が偉そうな気がするが気のせいだろうか)

「まぁ一応・・・」

「・・・だったら私の後輩になるか・・」

彼女は特に気にしていない様子で答える。

「この辺りに高校なんてうちしかないからな」

そういえば、彼女は自分よりも年上に見える。

この制服を見る限り、おそらく高校生であろう。

この出来事と会話の調子ですっかり面食らっていたが、

しかもよくよく見るとかなりの美人だ。

短い髪も凛とした感じだし、肌も透き通るように白くて

触ったら気持ちよさそう・・・。


そんなことを考えているうちに、巧一朗は彼女に見惚れてしまっていた。

「ま、春からよろしく頼むな少年。また会えればの話だが。」


そう言うと女性は去っていた。

その後で思わず深呼吸をする巧一朗だった。


その後で肝心なことを忘れていたことに気付く・・・

「名前聞くの忘れた・・・」


しかしこの出会いが、のちの彼の人生を一変させる出来事になるとは

思いもよらなかった。


つづく

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