“ANGEL ENGAGE”

イトセ

プロローグ

序章 東の魔女が死んだ

 東の魔女が死んだ。


 この訃報を世界が嘆いた。

 世界で最も偉大で、最も高潔で、最も賢く、最も発明をした彼女が、ここで倒れてしまうなんて。


 彼女の功績は大きい。

 中世の大陸中央に生まれ、ばね、歯車、蒸気機関に始まり、電池、自動車に人工知能、アンドロイドや核融合炉、そしてレーザービームまでを作り出した、〈人類革新の母〉と名高い彼女。


 寿命を迎える前に自らを機械の体へと預け極東に隠遁し、それでも尚大陸を支配する二大勢力、〈西方連盟ウェスタル〉と〈東方機構イェストム〉に技術を伝えた魔女は先進化の立役者だ。


 正に世界の基礎ともいえる技術群を築いた彼女は、初め異端として扱われていた名残の、魔女という名称で全世界の注目の的だった。

 機械の体で、寿命にも縛り付けられず、このまま永劫の時と素晴らしい知恵を超えて行くのだろうと。


 魔女が新技術を開発する度、世界は湧きあがり人類は一つ上のステージへあがるのだ。

 独占や確保を目的に多少の争いは起きたが、概ね人々にとってプラスとなった。


 突如発表された魔女の死に、世界は揺れた。

 我々は余りにも、惜しい人を亡くしたのだと。


 だが嘆き悲しまれる一方で、魔女の死は新たな争いを引き起こした。


 魔女最後の発明にして最高の発明。

 傑作のデータファイル〈イグニヴァ〉は、今までのどの技術をも超えた代物だと発表された。


 何処にあるのかも分からず、概要すら伝えられていないそれに、〈西方連盟ウェスタル〉と〈東方機構イェストム〉はお互い震えあがった。

 そんなものを先に取られては非常に不味い。


 そこからだったのだろう。世界が崩れたのは。

〈イグニヴァ〉を巡っての情報戦、牽制、衝突、最後には二大勢力が互いに宣戦布告。


 魔女の発明は敵の血を流させるためだけに使われ、テクノロジーがものを言う大戦争が起きた。


 果たして魔女の〈イグニヴァ〉とは何なのか。

 果たしてこの戦争の決着はどうなるのか。

 果たして魔女の残した発明はどのような奇跡を起こすのか。


 世界は少し、残酷である。

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