カルマの施術
絵之色
第1話 日本での来日
世界各国に大規模なパンデミックが起きたコロナから数十年後、
俗称、カルマ病とも呼ばれているその病に陥った人間は、体に何かしらの異常が現れ始め己自身の業を象った形となって、体や精神が変異していく病だ。カルマ病は普通の医者では摘出できない……だからこそ私は、患者たちの治療を行っている。
世界中にカルマ病が静かに広がっていく中で、一人の少女は日本に降り立った。
「ふぅ……日本は、久しぶりですかね」
美麗に輝くブロンドの髪が春の涼風が舞いながら、手でそっと抑える。
黒一色のドレスを纏って、首元に繊細なレースが特徴的なジャボに自分の瞳と同じヴェール色のブローチが太陽の光を帯びて煌めく。
海外ではマスクを外している人もいるけど、日本の方がマスクをしている人が多いような気がする。
「……あはは」
周囲の人物たちの奇異な視線を感じつつ、苦笑いする。
季節は春だから、この格好は問題ないと思っていたけれど……少し変だったかしら。私にとっては正装なのだけど。
ピピピ、と上着のコートから電子音が響く。
私は急いでスマホをポケットから取り出す。通話の相手は私の同業者であり情報屋でもある
『お嬢、無事に日本にこれやしたか?』
「ええ、久しぶり過ぎて迷ってしまいそうです……」
『迷子なってませんかい? 今回お願いした場所の写真は写せます?』
「あ、はい。少し待ってください……」
『わからなかったら、説明の紙を見ながらやってくだせぇ』
「はい! ……えっと、あ、ありました!」
善知鳥の言葉に従いポケットに入れておいたスマホの説明書を確認しつつ彼が指定していた場所の写真をスマホの画面に映した。
木造づくりで、質素だが温かみのある店内に私は口角が上がる。
よし、これで善知鳥と会う場所を再確認できた。
待ち合わせ時間を、壁ある時計で確認してまだ間に合うことに安堵した。
『その写真の店の中に俺はいやすから』
「わかりました、すぐに参ります……ガイドをお願いしても?」
恐る恐る善知鳥に尋ねる。
当画面の向こうで頭の後ろを掻いているのが想像できる。
『……アンタも日本人だろうが』
「私、新しい物が目がないのは知っていませんでしたか? 他の物に夢中になって、仕事の話が遅くなるのは嫌でしょう?」
『……はぁ、わかりやしたよ』
「ありがとうございます」
彼女は革製の鞄を片手に持ち、スーツケースを引っ張りながら歩き始める。
カランカランと、鈴が鳴る音を耳にしながら、彼が指定した店に入る。
可愛らしく白い鳥をモチーフにした看板がついた下の落ち着く扉のドアノブを手にかけて店内へと入る。
「いらっしゃいませ、お一人ですか?」
「いえ、連れがもう来ているのですが……どこにいるのでしょう?」
「こっちですぜ、お嬢」
「では、失礼しますね」
店員に声をかけられやんわりと笑って対応すると、癒理子の声に気づいたのか
手を上げる協力者である彼が見えて、私はほっとして店長ににこやかに頭を下げてから、彼の座っている席の方へと歩き始める。
「お待たせしました、善知鳥」
「待ちくたびれやしたぜ、東京の駅の中くらい把握済みでしょう?」
「私、機械関連は苦手ですので。行ったことのある道しか覚える気がない物で」
青みを帯びた黒の短髪。ヤクザや不良などの雰囲気が漂う中、死んだ黒い瞳と同じ黒いサングラスが彼のトレードマークだ。
チャームポイントである顔から右腕の手の甲にかけてまでの入れ墨は彼だと推察して問題ないだろう。口調が少し古風なのは、彼の祖父の影響なのだとか。
善知鳥が座っている席にやってきて私は先に荷物を隣の椅子に置いてから、彼の前方の席に座る。
「怪異殺し名家のお嬢様なら、当たり前って奴ですかい?」
「もう、善知鳥は意地悪ですね。そんなんじゃ、好きな人に嫌われてしまっても知らないですよっ」
「それはどうも知りやせんでした、すいやせんねぇどうも。これが地なもんで」
彼は日本でも数知れる情報屋の一人。善知鳥を裏社会で知らない人間は、ハッカーなら五流とされているほどの実力者だ。そんな彼と知り合いな自分も随分この業界に染まったと思うが、カルマ病の患者の発見は彼の助けもあったりするので感謝している、自分の友人関係の中でも上位クラスで仲がいい相手だと認識している。
彼がそう思っているかどうかはわからないが。
「……はぁ、お嬢様はこれだから」
「む、何かおっしゃって?」
「へいへい、なんでもないですよー」
ぷく―っと頬を膨らませて抗議して善知鳥に怒る。
……アリッサなら、ここでほっぺたをつまんでくれるけど、善知鳥はしてくれないようだ。素直に諦めて、適当にメニューを開いて自分が食べたい物を注文する。
店員が去っていくのを見た善知鳥は小声で聞いてくる。
「……で? 今回はお嬢の助手さんとは別行動で?」
「ええ、先に日本に来て事前調査を頼みましたので」
「そうですかい……まず、今回の依頼人はとある男性からですぜ」
善知鳥は自分の隣の席に置いてあった鞄から、テーブルに写真を広げる。
私は写真を手に取り、患者の外見を確認する。
学生時代、いや、まだ学生なのかもしれないがその少年の写真は黒髪黒目の大人しそうな少年だった。確かに、男子高校生くらいの人物なのは間違いないようだ。
写真の裏には彼の字と
「……察するに、息子さんですか」
「そうです、
「……そうですか。彼の住んでいる場所は
「わざわざ、情報屋が無駄な場所に連れてくるとでも? そういうのは三流のすることですぜ」
「ふふっ、いいえ。貴方の手練手管には魅了されてしまいます、思わず口から笑みが漏れるほどです」
「お褒めに預かり光栄の至りです」
「お待たせしましたー! コーヒーになります」
私は店員に写真の裏の名前を見られないように手で隠しながら店員に微笑む。
「ありがとうございます」
「……んじゃ、最初にまず腹ごしらえといきやすかい?」
「そうですね、お腹が空いては仕事もできませんもの」
「おまたせしましたー、ホットケーキとバニラアイス、チーズケーキとアップルパイになりまーす!」
「あ、ありがとうございますー」
店員がワゴンで色々と持ってきたデザートの数々に、善知鳥は固まる。
恐る恐る彼は、彼女に質問する。
「……お嬢、ちなみに代金は?」
「ここは現金なのでしょうか?」
「事前に連絡してここがいいって言ったのお嬢ですぜ? 現金でもいい、ってアンタは言ったはずだったでしょ!?」
「後で口座に入金しますので。お願いしちゃ、ダメですか?」
「……アンタって人は。もう少し現金を持ちやしょうやぁ」
頭を抱える善知鳥に、にこやかに私の中の一番の正論をぶつける。
「現金な女の子は、私の可愛い助手で十分ですのでっ」
「はぁ、払えばいいんでしょ払えば! ……かー、これだからお嬢様育ちは」
「うふふ、善知鳥はいい人でよかったです」
癒理子は追加でやってくるデザートも一緒に平らげながら、善知鳥は財布の中身を確認して、ATMにダッシュで走って行ったそうな。
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