第498話 ログライス伯爵領 上
現れた場所は薄暗い森の中だった。
「いきなりログライス伯爵領に突っ込むのは危険だから外れにした」
なるほど。確かにそのとおりね。いきなり渦の中とか最悪でしかないわ。そこまで頭が働かないとか、わたし、相当焦っていたようだ……。
「ライルス様。十名で先行して魔獣がいたら退治してください。それとこれを。地面に刺せば広範囲が聖域となります。渦や魔獣が手を出せば浄化されるでしょう。ただ、効果は半日が限界。五つ渡すので使ってください」
「こんなものを用意していたのか」
「あと五年もあれば千は用意できたのですけどね。万が一に備えて五つしか用意してませんでした」
レベル5になることは文献に書いてあったから念のため、って感じで作っていたのよ。それが使う日がこんなにも早く訪れるとは。ほんと、一寸先は闇だわ。
「食糧は持ってきましたか?」
「二日分だけ持ってきた」
「では、この指輪を使ってください。出せるものが頭の中に浮かびます。十人なら二十日は余裕で生きられるでしょう」
予備の収納の指輪をライルス様に渡して指に嵌めさせた。
「……本当に用意周到なんだな……」
「それでも想定外のことが起こるから嫌になります」
これがわたしの限界。先見とか呼ばれるのは不本意でしかないわ。
「わたしたちにできることは限られています。魔獣を倒す。渦を浄化する。それだけです」
ただ、そこに優先順位があるだけ。対処を間違うとさらに悪化するだけだ。
「領民は諦めてください。ここで魔獣を後回しにしたら被害は国内に広がります。そうなったら打てる手はさらに少なくなります。民もたくさん死ぬでしょう。そうなればわたしにできることはなにもありません」
たぶん、そうなれば聖女召喚が行われるかもしれない。わたしとしてはそれだけは阻止したいものだわ。
「自分たちが生きる世界は自分たちで守る。それができないようならわたしたちはこの世界にとって不要な存在だと言っているようなもの。勝って自分たちの存在を示すべきです」
わたしたちがこの物語のモブでも生きる権利はある。自分の身は自分で守る義務がある。この世界で生きる者としての誇りがある。
「強いのだな、チェレミー嬢は」
「強い弱いは関係ありません。人としての誇りの問題です。理不尽に負けてやるものですか。人をナメるな、です」
「フフ。そうだな。人として、聖騎士として、渦ごときに負けてやる義理も義務もない。人をナメるな、だ」
ニヤリと笑う聖騎士たち。案外、ノリのいい人たちだ。
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