第471話 聖衣(渦浄化儀式服) 下

「チェレミー嬢。用意ができた」


 完全やる気マンのライルス様がやってきた。


「嬉しそうですね」


 霊力とかわたしには見えないはずなのに、なぜかライルス様の体から力が溢れ出ているのがわかってしまったわ。


「我らが意を示す場があるのだ、これほど嬉しいことはない」


 難しいものよね。危険を速やかに排除したら民の危機感は薄れ、危険を促すにはあるていど危険を経験させねばならない。その見極めをできる者がいないのがゴズメ王国の悲しいところよね……。


「その力と意志、そして、誇りを未来に繋いでください。世界をお救いください」


 面倒な仕事をやってくれると言うのだ、頭の一つ下げることくらい安いもの。地面に両膝をつき、祈るように頭を下げた。


 そして、聖騎士たちに付与した武器にさらなる力を付与した。


「……その願い。我らが任された。渦浄化隊、騎乗!」


 ライルス様の号令に聖騎士たちが愛馬に騎乗した。


「巫女たち。わたしたちも出発します」


 護衛の聖騎士たちに馬に乗せてもらい、わたしたちはレオに跨がった。


「タルル様。道案内、お願いします」


「……だったら魔力を九割も持っていくなよ……」


 レオの頭に固定したタルル様が力なく異論を唱えてきた。


「自国の聖騎士を守るためです。身を粉にして魔力を差し出してください」


 もう何度も吸われているからか、九割でも口が達者だこと。これなら九割五分でもいけそうね。いや、十割でも大丈夫じゃね?


「ちなみに魔力を全部吸い取っても死んだりしません?」


「普通に死ぬわ! 恐ろしいこと言うな!」


 死ぬんだ。と言うか、九割も吸って体に異常をきたさないのだから守護聖獣の体ってどうなってんのかしらね?


「そうですか。守護聖獣様も生き物なんですね」


「当たり前だ。わたしたちを神だと思うな」


 神だと思ったことは一度もないけど、もうちょっと魔力を増やして欲しいものだわ。二つじゃ足りなくなっているのよね。


「これでも食べて魔力回復してくだはい」


 大福を出してあげた。


「一個では足りん」


 ハイハイ。たくさんあるから飽きるまで食べてください。


「それで、渦はどちらです?」


「あっちだ」


 指を差した方向は山のほうだった。


「わたしが先頭を走ります! ついてきてください! レオ、お願いね」


「グワァ~!」


 任せろとばかりに鳴くと走り出した。


「全騎、チェレミー嬢に続け!」


 わたしたちの後ろに聖騎士たちが続いて走り出す。


「コノメノウ様! 道を切り開いてください!」


 ランと一緒にラナに跨がるコノメノウ様にお願いする。


「だったら九割も奪うなよ」 


 タルル様と同じく九割吸っても平然といられるようになったコノメノウ様。次から九割五分はいただくとしましょう。


「帰ったらとっておきの梅酒を渡すのでがんばってください」


「また隠し持っていたか。いったいどこに隠しているんだ?」


 こちらも奪われてばかりじゃないのよ。


「ほら、早く!」


「わかったよ」


 前方の草木が吹き飛んだ。これだから守護聖獣は信じられないのよね……。

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