第74話 エルフ(エロフ)

 なにかと忙しい冬の日々。食事会を開いたり、ラデガルの奥様とお茶をしたりとやることいっぱいだわ。


 ロンドの滞在期間もあっと言う間に過ぎ去り、マゴットともに帰っていった。次もやってくるそうよ。当主なのに大丈夫なのかしらね?


「暖かいわね」 


 一月も終わる頃なのに気温は八度くらいはあり、太陽も燦々と輝いていた。


「かまくらも解けてしまいましたね」


 スケートリンクに作ったかまくらは完全に崩れており、ただの雪が盛られたものになっていた。


 ウォーキングするにはいいけど、冬らしさがないのも悲しいものよね。スケートをするのも汗だくだわ。


「飽きないわよね」


 今日も今日とて村人たちがスケートに興じている。ちょっと自重させないと働かないって苦情がきそうね。明日も暖かいならちょっと解かしますか。暖かくてもできると思われても困るしね。


「チェレミー。少し走ってきていいか?」


 レオに跨がったマーグ兄様。やっと乗れるようになって嬉しいのでしょう。走らせたくてウズウズしているわ。


「ラン。悪いけど、付き合ってあげて」


 モルチャカに乗れるのはわたし以外だとランだけとなる。わたしがいけないのだからランにお願いするしかないのよね。


「畏まりました」


 メイド服は着ているけど、スカートの下はズボンを履いている。護衛として側にいるんだからパンツ丸見えで動けないわ。


 ……ちなみにわたし、パンツ見てもヒャッホーとはありませぬ。ガリゴリのおっぱい派です……。


「マーグ兄様。ランになにかあればちょん切りますからね」


「だからなにをだよ! ぼくは女性を見捨てたりしないぞ!」


 まったく、チェリーボーイなんだから。男は性教育しないのかしら? 十七歳ならおっぱいばかり考えている年齢なのにね。ちょっと心配になってくるわ。


「はいはい。ラン。朝食までは戻ってくるようにね」


「畏まりました。必ず朝食までに戻ります」


 よろしく~と、わたしたちはウォーキングを続けた。


 わたしの言いつけを守り、マーグ兄様とランは朝食前には戻ってきた──のだが、エロフ──ではなくエルフの女性を連れてきた。


 この国は人間の国だけど、この世界にはエルフ族の国がそれなりにある。交易条約も結んでいるのでエルフを見ることはそう珍しくはない。元の世界で外国人を見るくらいには認識されているでしょうよ。


 ……プロポーションはいいと聞いていたけど、完全にエロフじゃない。なんだ、この暴力的な色気は……?


「お初にお目にかかります。わたしは、ラーダニア・マリオンと申します。この領のご令嬢、チェレミー様でしょうか?」


 恭しく片膝を地面につかせて頭を垂れて名を告げ、わたしの名を口にした。


「ええ、チェレミー・カルディムよ。よろしくね、ラーダニア・マリオンさん」


 どうも高貴な匂いがプンプンするけど、身分を明かしていない。なら、普通の客人として扱っておきましょう。


「まずは中へどうぞ。ラン。ラーダニアさんをお風呂に入れてあげなさい」


 エロフでも臭いのはノーサンキュー。さっぱりしてきてください。


「お客様。こちらへ」


「あ、あの……」


「まずは汚れを落としてください。話は朝食後にしましょうか」


 ランに促されてお風呂に向かった。


「また変わった客がきたものだな」


 懲りずに、と言うか、完全にかまくらをうちとしているコノメノウ様。どんだけかまくらを気に入ってんのよ。もう庭の雪は解けていると言うのに。


「コノメノウ様はエルフと会ったことないんですか?」


 わたしは何度か見たことありますよ。


「会ったことくらいあるわ。マリオン家はコズメ王国でも有名な家だ。国王にも意見できる家だと聞いたことがある」


 ヤダ。完全に厄介事じゃない。わたし、目立ちたくないでござるよ。ニンニン。


「隠遁生活中なんですけどね」


「嫌なら山奥にでもいくんだな」


「それもいいかもしれませんね」


 これ以上、わたしのおっぱいライフ──スローライフを阻害されるなら山奥に逃げるしかないわね。今のうちに山奥に館でも建てておこうかしら?


「冗談だ。そなたに消えられたら美味い酒が飲めなくなる。いざとなればわしの名を使うがよい」


 それはまた、寛容どころか大それたことを。まあ、必要になったら使わせていただきますけど。


「そんな日がこないことを願いますよ」


 肩を竦めてみせて館に入り、お客様に失礼のないワンピースに着替え、朝食をちょっと遅らせるよう伝える。


「お嬢様。エルフがきたそうですね」


 さっそくマクライやローラ、ラグラナがやってきた。


「ええ。コノメノウ様によればゴズメ王国でも有名な家柄のようよ。誰かマリオン家って知っているかしら?」


 生憎、わたしは国外のことはさっぱりです。令嬢の身では国外の情報なんてなかなか入手することはできないからね。


「薬聖を多く輩出した家です。我が国も多くの薬を輸入しております」


 教えてくれたのはマクライ。さすが王都の屋敷を仕切っていただけはあるわね。


「そんな家がわたしになんの用かしらね?」


「どう対応しましょうか?」


「身分を話すまで客人として扱ってちょうだい。部屋は空いているかしら?」


「別館に用意致します」


 あら、別館ってもうできたの? 建て物はできてたみたいだけど。


「そう。なら、ローラが対応してちょうだい。マクライは屋敷と城に話だけは通しておいてちょうだい。カルディム家として預かるわ」


 そんな家の者なら黙っておくことはできない。話だけは通しておくべきでしょうよ


「畏まりました」


「ラグラナもよろしくね」


 王宮にも伝えておいたほうがいいでしょう。把握しているかわからないしね。


「畏まりました」


 さて。なにしにきたのかしらね。

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