第75話 薬医局
「改めて自己紹介をさせてください」
朝食をいただき、少し休んでから場所を部屋に移した。
部屋にはわたしとラーダニアさんの二人だけ。人払いさせたいんだろうと思ってね。そしたらラーダニアさんが雰囲気を変えてそんなことを言ってきた。
「ゴズメ王国薬医局所属ラーダニア・マリオンです」
薬医局? ゴズメ王国にはそんな厚生労働省みたいな組織があるのね。さすが薬を輸出している国。うちの国も創って欲しいものだわ。
「不勉強でごめんなさいね。その薬医局と言うのは大きな組織なのかしら?」
「はい。独自権限が与えられるくらいには」
それはもうスパイですと言っているものじゃないかしら。
「わたし、秘密を知っちゃったら殺されちゃうのかしら?」
言っちゃダメなこと聞いたら抹殺ルートじゃないのよ。
「いえ、そんなことは致しません」
「では、違うことをしちゃうのかしら?」
拉致ルートもあるかもしれないわね。有益な人材を連れ去るってこともあるし。
「なにもしません。失礼ながらチェレミー様のことを調べさせていただきました」
「齢十五年の小娘を調べてなにかおもしろいこと出てきたかしら?」
王宮と言い、ラーダニア様と言い、わたしを調べすぎじゃない? 国家転覆とか考えてないんだから放っておいてくれないかしら。こっちはおっぱいぱいに囲まれてスローライフを送りたいのに。
「はい。田舎に引っ込むためにメイドに恨みをもたせ、自らの顔を焼くなど狂気の沙汰です」
エルフでもそう見えるんだ。まあ、そう見せるために計画したんだけどね。
「狂気の女に会った感想はどうかしら?」
「素直に恐ろしいと思います」
あら。恐ろしいとこ、見せたかしら? 真摯に対応したと思うのだけれど。
「あなたを調べている途中、王宮の影らに囲まれました」
ヤダ。まだアザイヤを見張っているの? 執念深い組織なんだから。
「よく生きてられたわね」
素直に感心するわ。王宮はそんなに甘くないと思ったのに。
「取引をし、それで協力関係を築かせてもらいました」
「ふふ。交渉上手なのね」
わたしのところにも交渉できる人が欲しいわ。面倒事を任せたいよぉ~。
「そんな相手に笑えていられることが信じられません」
「王宮は国に害をもたらす者には容赦ないけど、私情や私怨では動かない。なら、別に恐れる必要はないわ。わたしは、穏やかに暮らしたいだけなのだからね」
王宮はわかっているわ。藪をつついて蛇を出す愚に。見張りはするがなにもしない。必要なら協力を求める。それが正解だってことにね。
「……あなたは、何者なのですか……?」
「何者でもない、ただ、穏やかに暮らしたいだけの女よ」
このエロフさん、見た目は二十半ばくらいだけど、まだ若いみたいね。ベテランは何者なんて訊かないもの。
「まあ、あなたの中でわたしをどう捉えるかは自由にしていいわ。隠遁者が世間体など気にもしないからね。それで、わたしに会いにきた理由はなにかしら?」
王宮との取引がなんなのか気になるところだけど、聞いたところで厄介なだけなんだから流しておくが吉だわ。
「これを知っていますか?」
と、ラーダニア様が懐から折り畳まれた紙を出し、開いてテーブルの上に置いた。
「なにかの種かしら?」
植物に造詣がないのでなんだかわからないわ。蕎麦の実っぽいけど。
「コノセノと呼ばれる花の種です。高い山にしか育たないもので、種を取れるのは数十年に一度しかありません」
高山植物ってことか。なにかの薬の材料になるってことかしら?
「つまり、それをわたしに咲かせろと?」
「はい。できませんでしょうか? もちろん、お礼はさせていただきます」
「わたし、草花なんて育てた経験もないし、草花に精通しているわけでもないわ。ましてやどこで咲く花かも知らない。少々無茶なお願いではないかしら?」
そういうのって、植物系の魔法が得意なものにお願いするものでしょう。わたしは付与魔法が得意なの。系統違いでしょうよ。
「種に魔法はかけられないのでしょうか?」
「わたしの魔法は生物には施せないわ。必ず無機物でないと無理なのよ」
できるなら男になっているわ。まあ、物質に男になる付与を施すことも考えたけど、実験もしないでやることはできないわ。怖いもの。
「……そう、ですか……」
藁にもすがる思いでやってきたみたいね。
「一つ、わたしにもらえるかしら?」
貴重な種みたいだけど、五粒はある。藁にもすがる思いなら一つくらいもらっても構わないでしょう。
「なにか方法があるのですか?」
「まあ、ないこともないわね。成功するかはわからないけど」
直接が無理なら間接的にやればいいだけだわ。
「どうします?」
嫌と言うならそれでも結構。わたしに損はないのだからね。
「お願いします!」
と言うことで呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び、サナリに菜園の土を持ってきてもらうよう伝えた。
しばらくしてサナリがプランターに土を入れて持ってきてくれ、空いている壺に土を移し、種をちょこんと植えた。
壺に種のDNAを読み取れるようにして、求める環境を創り出す付与を施した。
我がチートここにあり、よ。
「ラーダニア様。しばらく館に滞在してください。様子を見ますので」
「ありがとうございます!」
ふふ。これでエロフと混浴のチャンスを得られたわ。わたし、グッジョブ!
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