第64話 性格

 次の日、孤児の二人をわたしの部屋に呼んだ。


 レアナとマーグ兄様を優先させるべきなでしょうけど、外に興味があるみたいだからランとサナリに案内させるよう指示を出したわ。しばらくは大丈夫でしょうよ。


「自己紹介を」


 ローラに教育されたようで二人が背筋を伸ばした。


「マルセです。よろしくお願いします」


「ターリャです。よろしくお願いします」


 それだけの挨拶だけど、ローラが努力した影がちらほらと見えるわね。


「わたしは、チェレミー・カルディム。この館の主よ。春まであなたたちに教育を施します。慣れないことや戸惑うこともあるでしょう。でも、踏ん張りなさい。自分のためにね」


 細かいことならローラがフォローしてくれるでしょうから必要なことだけを口にする。


「「はい。がんばります」」


「では、二人の適正を見ましょうか」


 冬の間の教育。たった二、三ヶ月しかないのだからあれもこれもと教育してられない。なら、二人の適正を見抜いて、それを中心に教育していくべきでしょうよ。


「まずは、わたしが見るわ。そこに座りなさい」


 長椅子に二人を座らせ、紙に二人の名前を書く。


「こちらはマルセ。こちらはターリャ。あなたたちの名前よ。その紙に自分の名前を書いてみなさい」


 二人とも文字は書けるようだけど、紙に書くなんてこれが初めてでしょう。戸惑いながらも紙に名前を書いた。


 マルセは紙端に。汚く。ターリャも端に。でも綺麗に書いた。


「なぜ、紙の端に書いたの?」


 わたしの問いに「え?」って顔になる二人。


「わたしは紙の真ん中に均一に書いた。でも、あなたたちは紙の端に、小さく書いた。なぜそう思ったのかしら? これは責めているわけじゃないから安心して。あなたちの性格を知るためにやっているのよ。まずはマルセ。答えてくれないかしら?」


 怖がらないよう優しく問うた。まあ、上位者からの問いにビビらないほうがおかしいけどね。それも判断な一つよ。


「か、紙がもったいないので端に書きました。また使うと思って」


 なるほど。次も書くだろうと判断したわけね。


「わかったわ。じゃあ、ターリャ。教えてくれる?」


「わ、わたしもいろいろ書くのだろうと端に書きました。手紙は左の上から書くと聞いたので」


 へー。さすが綺麗に書くだけあって手紙の作法とか知っているんだ。凄いわね。


「ローラ。マルセをガイルに預けて。しばらく下働きをさせて。向いてないと判断したらわたしに報告を。次に移させるから」


 体格や挙動からしてマルセは体を動かすことには不向きな性格でしょう。文字を書けることや計算ができるところからしてね。


 兵士に預けても辛いだけでしょう。なら、料理ならまだやれるはずだわ。


「ターリャは文字が綺麗だからモリエに預けましょう。名前を書く速さからして他の文字も知っていそうだし、頭もよさそうだしね」


 モリエの雑用としてなら充分使えるはずでしょう。


「どう教育していいかわからないときは遠慮なくわたしに言うこと。この二人を育てることはカルディム家にとって大切なことなのだから」


「畏まりました。ガイルとモリエにキツく申しておきます」


「そうしてちょうだい。マルセ、ターリャ。あなたたちは自分のために努力しなさい。その努力が無駄にならないよう、わたしたちが全力で支えるから」


「「はい! よろしくお願いします!」」


「うん。いい返事よ。その調子でがんばりなさい」


 あとはローラに任せて部屋を下がらせた。


「お嬢様は人の性格まで見抜けるのですね」


 お茶を出してくれたアマリアが目を丸くしながら話しかけてきた。


「あんなもの見抜いたうちに入らないわよ。表面をちょっと見ただけ。性格は環境や人との関わりでよくも悪くも変わっちゃうからね。大人が正しく導いてあげればそれなりに育つものよ」


 天才や英雄が道を切り開くでしょうけど、それを支えたり維持したりするのは凡人だ。そんな特別な存在は滅多に生まれないし、社会を切り開く位置になるとは限らない。


 仮に生まれて、その位置に立つとしてもそれはカルディムの地ではない。そんな存在が立たないのなら凡人を教育させてカルディム家を支えさせるほうがわたしのためになるってものだわ。


「アマリア。ライラナにできた分を持ってこさせて」


 お父様の催促には応えられないのでシェイプアップアイテムから進めましょう。いい稼ぎになるしね。


 シェイプアップアイテムはいくらと決めてないけど、それはお妃様にお任せだ。いい値段で売ってくれるでしょうよ。


 すぐにシェイプアップアイテム──全身タイツに振動、熱放出、新陳代謝向上、治癒力向上、精神安定、防菌の付与を施していく。


「魔力があるっていいわね」


 わたしだけの魔力だったら三日はかかっていたでしょうよ。


 魔力さえあればわたしの付与はチートだ。思うがままの付与を一瞬で施せるし、疲れたりしない。五着を三分もしないで終わらせられたわ。魔力万歳。コノメノウ様ありがとうございます!


「お昼まで時間はあるわね。じゃあ、お父様のほうもやっておきますか」


 あまり急いでもまた注文か増えるだけだけど、なにがあるかわからない。先に創っておくに越したことはないでしょうよ。


「アマリア。魔力をお願い」


 魔力が多い者は溜め込むと体を悪くする。ほどよく放出するほうが健康的なのよ。


 わたしも昼まで魔力を壺に込める作業に勤しんだ。

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