第51話 人はおもしろい

「そなたたち、洗うのが本当に上手いの」


「ラグラナは小さい頃からわたしを洗っておりましたから玄人の域に入っております」


 わたしはラグラナに毎日、朝と夜は体を念入りに拭いてもらっていた。


 ラグラナも嫌な顔(いや、無表情だったけどね)一つ見せずわたしを隅々まで拭いてくれ、腕を磨いていってくれたものよ。


 ……当時はおばあちゃんに洗われるのは悲しかったけどね……。


 今はおっぱいが揺れるのを眺めながら洗われているわ。ただ、大きいからいろいろ当たっちゃうのが最高ね! おっぱいスポンジとかお願いしたいわ!


「うむ。確かに玄人の域よな。これなら毎日湯浴みしてもよい」


「毎日入ってください。人の姿でいるときは」


 いや、獣の姿でも毎日入って欲しいけどね。獣臭いとか嫌だし。


「人の姿も動きやすくてよいが、魔力を抑えておくのが鬱陶しくて堪らん。だが、あの部屋は余分に溜まった魔力を適度に抜いてくれる。まあ、心地よくて閉じ籠りがちになるがのぉ」


「ではたまには外出致しましょうか。寒い中で飲む熱燗は体を温かくしてくれますから」


 冬に鍋で温めたワンカップ○関で一杯とか、至福のときだったわ。まあ、冷やしても美味しかったけど。あぁ、また飲みたいものだわ。開発した人、この世界に転生してきてくれないかしらね。

 

「あつかん?」


「清酒を温めたものです。飲むと思わずくぅ~って声が出てしまいます」


 いや、この世界ではまだ飲んでないけどね。この体、まだお酒に慣れてないからさ。


「それは飲んでみたいのぉ~」


「いずれ。今日は冷酒でお楽しみください」


 ラグラナにどんな感じかを目で問うと、小さく頭を振った。そんなに汚れているの?


「お嬢様。次は背中を流します」


 と言うので位置交換。コノメノウ様の体が冷えないよう膝にタオルを乗せてお湯をかけていく。


 コノメノウ様は幼児体型なのでお胸様はペッタンコン。あ、狐とかてコンと言ったんじゃないからね。ついよ、つい。


「寒くありませんか?」


「いや、問題ない。気持ちよいぞ」


 一応、お風呂場は二十五度くらいにはしてある。体を洗ってくれるメイドが寒くならないように、ってね。


「お嬢様。髪は如何なさいましょうか?」


「体を温めてからでいいわ」


 髪はおかっぱなので、洗うのは大変じゃない。まずは体を温めてもらって冷酒を飲んでいただきましょう。


 体を洗い終わったようなのでコノメノウ様に入ってもらった。


「温くはございませんか?」


「うむ。問題ない。いい湯じゃ」


 幼児体型だからお湯の温度はちょっと低くしておいたのよね。


「それはなによりです。肩まで浸かって、体が火照ってきたらここにお座りください」


 湯船の奥は座れるようにしてあり、お尻が痛くならないようにタオルを敷いてある。


 わたしも湯に入り、冷酒の壺やお猪口、干し肉を並べた。


「もう飲んでよいか?」


 まだ一分も浸かってないけど、しっかり洗ったし、構わないか。


 タオルに座ってもらい、お猪口を渡して冷酒を注いだ。


「くー! いいの、冷酒。火照った体を冷やしてくれるのぉ~」


 まあ、すぐに体は熱くなりますけどね。


 お猪口を差し出される度に冷酒を注ぎ、コノメノウ様が満足する顔を眺めた。


「コノメノウ様はその体にしかなれないのですか?」


 と言うか、なんでロリ? 獣のときがどんなサイズかは知らないけど、質量的におかしくない? いや、魔法がある世界で質量とか言っても仕方がないかとは思うけどさ。


「なれるぞ。ただ、あまりデカいと世話をする者が大変なのでな、この体になっておるだけだ」


 つまり、おっぱいぷるんバージョンにもなれるってことね。


「確かにこの体でしたら少人数で済みますね」


「いや、二十人くらいついて回るぞ。昔は百人もいて鬱陶しかったわ」


 さすがに百人は多すぎでしょう。二十人でも多いけどさ。


「よく減らせましたね。不興を買ったのではないかと大騒ぎになったのでは?」


「なったなった。たが、当時の王ががんばってくれて二十人まで減らしてくれたよ」


「カンナルギ王ですか?」


「……よくわかったの……」


「国の歴史を学べば自ずとわかります」


 百五十年前くらいの王で、善政を行ったと言われており、コノメノウ様がよく出てきていた時代でもあったわ。


「よき王だったのでしょうね」


 コノメノウ様に取って。


「まあ、そうだな。早死にしたのはいただけぬが……」


 四十前半で病死したとか。ただ、いきなり病気になってすぐ死んじゃったのはなにかあったっぽいけどね。


「……もう、よいかなと思うよ……」


 なにが? とは尋ねない。この国が建国して長いこと経つ。親しい者が死んでいくのは辛いでしょう。守護聖獣になるくらい人が好きなんだからね。


「わたしが言うのもおこがましいですけど、人を甘やかすのもほどほどがよいかと思います。命には必ず終わりがあるのですから」


 それは国も同じ。いつか必ず終わりがくる。


 種として生き残ることが大事なら生存競争に勝った者が続けていけばいい。わたしは個として今を生きていくけどね。


「……そなたは変わっておるな……」


「褒め言葉と受け取っておきますわ」


 わたしには輪廻転生があったけど、次も輪廻転生できるとは限らない。なら、この生を楽しむだけだわ。


「ふふ。人とは本当におもしろいのぉ」


 妖艶に、でも、嬉しそうに笑うコノメノウ様。この方は、本当に人が好きなのね……。

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