第31話 シェイプアップアイテム
王宮からの依頼はあとにするとして、お母様の手紙から読みますか。フムフム。
どうやら貧乏男爵夫人や令嬢を集めたお茶会(と言う名の魔力回収)は順調のようだけど、報酬となる資金が不足しているそうよ。
まあ、うちも潤沢な資金があるわけじゃない。溜め込んでいるお金もそうはないはず。どこからか調達しないといけないわね~。
「さて。どこからにしましょうか?」
わたしもそんなに持っているわけじゃない。マゴットからの売り上げもまだ少ない。
借金はしたくないわね。商人に協力を得るのもしたくない。なにか売るとしても大金が手に入るものとなると相当なものになる。その販路も伝手もないんだから無理だわ。
いいアイデアが出ないので王宮からの手紙を読んだ。はぁ? 痩せるものが欲しい? なんのこっチャイナ?
よくわからないのでラグラナを呼んで説明を求めた。
「最近、お妃様が太ってしまったようで、痩せるためのものがないかと嘆いているようです」
「体を動かして食事を見直せと伝えておきなさい」
なんじゃそりゃ? 王宮はそんなことまでやらなくちゃならないの? そんなのわたしに頼むようなことではないでしょうが!
「可能なら金貨五十枚は出すそうです」
「わかったわ。任せなさい」
約五百万円の報酬とは王宮は気前がいいこと。がんばらせていただきます!
「領都から仕立て屋を呼んでちょうだい。あ、コルセットって手に入るかしら? お妃様が使うようなものが」
「王宮に早馬を飛ばします」
うち、早馬なんてあったっけ?
「なにかあったときのために馬を二頭貸し出してもらいました。世話する者も」
どんだけわたしの付与魔法に頼ろうとしてんのよ? 大国なんだからもっと便利な魔法を使える者を探しなさいよね。
「そう。とにかく急いで呼んでちょうだい」
これから冬になる。貧乏男爵家も冬に備えていろいろ買い出さなくちゃならない。それまでに金貨五十枚をゲットするわよ。
「畏まりました。すぐに呼びます」
で、連れてこられた仕立て屋さん。何事かと恐れ戦いているわ。急げとは命じたけど、ちゃんと説明してから連れてきなさいよね。カルディム領に悪いウワサが立ったらどうするのよ、まったく。
「ごめんなさいね。突然呼び出したりして。あなたたちに仕事を頼みたいだけなの。報酬を上乗せするからお願いできないかしら?」
優しく語りかけて仕立て屋さんの人たちを宥め、報酬で釣り上げ、必要なものを急ピッチで作ってもらった。
「き、金貨五枚もよろしいのですか!?」
「いいのよ。ただ、これらはやんごとなき方へ渡すもの。外に漏らさないようにしてちょうだい。どうしてもってときはわたしの服を頼まれたと言いなさい。いいわね?」
お妃様のシェイプアップアイテム。醜聞となるものだ。漏れることは一切できないわ。
「は、はい。わかりました。絶対に口にしません」
理解してくれてなにより。でも、装飾関係のメイドも用意してたほうがいいわね。秘密保持のために。
「モリエ。アルドに館の増築をお願いしてちょうだい。作業場とメイドの宿舎をね」
「お嬢様、メイドを増やすのですか?」
「王宮からの依頼が外に漏れないためにも専門のメイドを集めておく必要があるわ。そちらもそのほうが都合がいいでしょう?」
さらに依頼が舞い込む未来が見えるけど、秘密が漏れるほうが最悪だ。罪を被せられて死刑とか嫌だわ。
「……そう、ですね。わかりました。すぐに用意致します」
ハァー。どうしてこう厄介事が増えていくのかしらね? わたしはただ、スローライフを送りたいだけなのに。まったく、どこかに正しいスローライフの送り方って書物ないものかしらね?
「アマリア。申し訳ないけど、しばらくは午後も魔力を籠めてもらうわね。食後のデザートなケーキを用意してあげるからがんばってちょうだい」
最近、ナディアがケーキを作れるようになった。手間がかかるからわたししか食べられないもの。がんばったご褒美にわけてあげましょう。
「はい、がんばります!」
お菓子大好きアマリアちゃん、可愛い。
「モリエ。手紙を書くから道具を出して。シェイプアップアイテムの使い方を書くから。ラグラナ。報酬は王都の屋敷に渡るようにできる?」
「はい。問題ありません」
あ、問題ないんだ。うち、大丈夫? かなり王宮の影響が浸透しているじゃないのよ。ハァー。
「あまりうちを引っ掻き回さないでよ」
「お嬢様がいるのにそんなこと致しませんよ。少なくともこの館は完全にお嬢様の支配下。そんなお嬢様が覆す手段は絶対に用意しているはずです」
「あら、酷い買い被りだこと」
まあ、お金の流れを知れば大抵は事情は見えてくるもの。なら、お金を管理し、帳簿をつける者に小細工すればいい。ってことはまだ知られてないみたいね。よかった。
「買い被りどころか、その先の先をいくのがお嬢様です」
「フフ。あなたにそう言われるなんて光栄ね」
意味ありげに笑ってみせた。先の先なんてそう簡単にいけるわけないじゃない。こっちは手数がないのよ。巨大な組織を欺くには意味ありげなハッタリが効果的なのよ。勝手に深読みしてくれるからね。
「さあ、仕事をしましょうか。がんばってちょうだいね」
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