第8話 パクらせてもらいました

 暑い日が少し和らいだ頃、お父様が雇った細工師の職人二人と美術商が同時にやってきた。いや、一緒にくんなし!


「よくきてくれたわね。暑かったでしょう。夜までゆっくり休みなさい。湯を用意するから汗を流すといいわ」


 あんたら汗臭いよ。まずは体を拭け。ということをお上品に言ってやる。


「マクライ。部屋に案内してあげて。わたしは部屋にいるから」


 こっちは魔力注入で疲れてんの。同時に三人も相手してられないわ。


 三人の相手をするためにも魔力回復のために夜までお寝んねタイム。ぐーぐー。


「お嬢様。夕食のお時間ですよ」


 マーナに起こされがっつり眠って魔力回復。気力回復。わたしは、就寝まで戦えるわ。


 人前に出るのでいつものワンピースではなく、ちゃんとしたドレスに着替える。まったく、面倒臭いわ~。


 食堂に向かうと、職人二人と美術商がいた。連れとかいないのかしら?


 まあ、細かいことはマクライがやってくれる。わたしは、この三人を相手しましょうか。


 食事の前に軽く自己紹介。


 まずは細工師のお二人さんからで、中年のほうがラドル。若いほうは弟子のタイトとか。主に指輪を作ることを商売にしているそうよ。


 美術商はマナレッタ商会の一部門で、壺に詳しいハルセアと言うそうだ。その道四十年だそうよ。


 知っているでしょうが、礼儀としてわたしも名乗り、食前酒で乾杯。まずは料理を食べてもらった。


 三人とも緊張しているみたいだけど、料理が気に入ったようで黙々と食べていた。


 三人は出された料理を完食し、我を取り戻したのか、自分たちの行動を思い出して恐縮してしまった。


「そう固くならなくていいわよ。今日はあなたたちを歓迎するもの。美味しくいただいてくれたら嬉しいわ」


「とても美味しい料理で、我を忘れてしまいました」


 答えたのはハルセア。商売人だけはあるわね。


「それならよかったわ。お腹が落ち着いたらお酒も楽しんでちょうだい。話は明日にするから」


 そう急ぐわけでもない。いや、お父様からは毎日のように手紙が届くけど、わたしの魔力は有限。急ぎなら魔力を寄越しやがれと返事を書いてやったわ。大容量の魔力充填箱バッテリーと一緒にね。


 わたしがいたのではお酒も飲めないのでしょうから、あとはハルセアたちに任せてわたしは下がらせてもらったわ。


 次の日、朝食をいただき、落ち着いたら三人を部屋に呼んだ。


「工房は職人たちに任せてあるから要望があるならそちらに言って。よほどのことでなければあなたたちの要望に応えるように伝えてあるから」


 マクライにアルドを呼んでこさせ、顔合わせをさせた。


「アルド。よろしくね」


 丸投げで申し訳ないけど、素人にあれこれ口出しされても面倒でしょうしね。


 三人が下がればハルセアと商売の話をする。


 連れの者が呼ばれ、王都から運んできた壺を部屋に運んでもらった。


「いい壺ばかりね」


 なにがいいのか説明を求められたら困る黙秘させてもらうけど、デザインはどれもこれもセンスのよいものばかり。飾るならすべてを買い占めたいところでしょうよ。


「はい。サンカリ、マイセール、ロンドラムと言った有名な窯元で作られたものです」


 この国にそんな窯元があったのね。知らなかったわ。


「どれもこれもよくて悩むわね」


 大小合わせて四十個(壺の単位ってなに?)も持ってきてくれた。舗装もされてない道をね。その心意気に応えて十個は買いたいところだけど、予算と言うものがある。これだけいいものだと三つ買えるかどうかね……。


「予算は考えなくてよろしいですよ。お代は伯爵様からいただくので」


「お父様が?」


 え、なんで? 娘には甘いけど、親バカではない。娘可愛さに、なんてことはないはずだわ。


「はい。報酬だそうです」


「……もしかして、マナレッタ商会がカルディム家についたのかしら?」


 可もなく不可もなく、極々普通の伯爵家。そこまで余剰資金があるとは思えない。なにかバックにつかなければこんなこと言わないわ。


 それを証明するかのようにハルセアが言葉を詰まらせた。


「不勉強で申し訳ないのだけれど、マナレッタ商会は大きい商会なのかしら? 伯爵以上の者に口添えをお願いするくらいに?」


 カルディム領の商会より大きいのは確かだし、王都にいる大商会を押し退けて指輪ライターの利権をつかみ取った。


 確実に大商会でしょうが、それでも伯爵以上の権力者と繋がりがなければ利権をつかみ取るなんてできないでしょうよ。


「あ、勘違いなさらないでね。わたしは、お父様がどこの商会と繋がろうと構わないわ。ただ、背後にいる人を知っておきたいだけよ」


 敵になるか味方になるか。その見極めをしておきたいだけよ。


「……さすが才女とウワサされるチェレミー様です……」


「あら、わたし、才女なんてウワサされているの? 嫌だわ~。恥ずかしい」


 てか、才女と呼ばれるようなことしたかしら? 転生者であることを隠し、ただ伯爵令嬢として過ごしてきたのに。


「いえいえ。チェレミー様が創り出したしゃべる人形をサンタリオ公爵様に贈られた話は有名ですよ」


 ………………。


 …………。


 ……。


 あぁ、そんなことあったわね。サンタリオ公爵様とカルディム伯爵家は親戚関係だ。もちろん、遠いって言葉がつくけど、なにかあれば夜会や晩餐会に招待される。


 公爵様の長男、ロイドバール様とアルタリア様の間に男のお子様が産まれたから、お祝いとして子守唄を仕込んだウサギのヌイグルミをカルディム家からとして贈ったのよね。


「でも、それで才女はないんじゃないかしら?」


「子守唄の他に物語も語られるとか。その物語が秀逸だと有名です」


 アンデルセン童話にこちらの常識を加えて何話かいれたっけ。アンデルセン先生、パクらせてもらいました。すみません!


「では、マナレッタ商会は公爵様傘下の商会なのね」


 それなら納得。金に糸目はつけないわけよ。バックが大きすぎるわ。


「はい。お好きなだけお選びください」


 それなら二十個はいただけるわね。どうせあとでなにかを要求されるなら遠慮することないもの。

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