第6話 夏が過ぎていく
青い空~。白い雲~。夏の日射しが眩しいわ~。
そう。夏と言ったら海。海と言ったら水着。キャッキャウフフな季節なのに、我がカルディム伯爵領は内陸部。海までは馬車で七日はかかり、知り合いもいないので気軽にいけたりしないのです。
二日くらいの距離に湖はあるみたいだけど、海水浴や湖水浴なんて概念もなし。水着なんて着たら気が狂ったと騒がれるだけでしょう。今こうして生地の薄いワンピースを着るだけでメイドたちに騒がれたからね。
まあ、肌を見せているわけじゃないのだから押し切ったわ。意識改革は実行してこそ変えられるもの。真夏にあんなドレスなど着てられないっちゅーの!
「マーナ。日射しが強いんだから館に入ってなさい」
サリナと一緒にやってきたメイドの片割れであり、わたしのお付きとなったマーナ。十四歳ながら伯爵令嬢につくとか大役だ。親からもなにか言われたんでしょう。館にきて十日となるのに未だに緊張しているわ。
「いえ。お嬢様の仕える身。お側に控えております」
その仕事に忠実なのは立派だと思うわ。けど、額から汗を流されながら横にいられると気になるのよ。なんだかわたしがいじめているみたいじゃないのよ。
「仕方がないわね」
マーナのメイド服に日射しを弾き、冷気を出させる魔法を付与させた。
「……え? 涼しい……」
「夕方までは続くはずよ」
チートな付与だけど、魔力は並み。夏の間持続させるには一日分の魔力を注ぎ込まないといけないでしょうが、夕方までならそう手間ではないわ。
「あ、ありがとうございます。お、お嬢様は凄いんですね」
「どういたしまして。魔法が使えないあなたからしたら凄いように見えるけど、貴族の中ではわたしの魔力は可もなく不可もなくよ。わたし、よく眠っているでしょう」
「はい。夜更かしなさっているのですか?」
「違うわ。魔力切れを起こして力尽きているのよ。魔力は精神を使うから眠ると言うより気を失っているほうが正しいわね」
十五の夏。こんな輝かしい時期にわたしは魔力を使いすぎて一日の大半は眠っているわ。
「大変なのですね」
「ええ。大変なのよ」
お父様のからの注文も増えており、とてもじゃないが身が持たないわ。早く魔力回復に効果がある薬草を育てないと眠り姫になっちゃう。
「チェレミー様」
そろそろお昼かな~とぼんやり考えていたらマゴットがやってきた。十五歳くらいの少女を連れて。どちら様?
「商売の途中で呼び出してごめなさいね」
「いや、構わないよ。ちょうど帰る途中だったからな」
「マリアナルはどうでした?」
「いいところだったよ。
それはなにより。詳しいことはあとで聞かせてもらうとして、二人を昼食に誘った。
「それはありがたい。チェレミー様のところで食える料理はどれも美味いからな」
おっぱいが見れないのならせめて美味しいものを食べたい。
幸い、カルディム伯爵領は豊か。いろいろな野菜を育て、食用の山羊や羊を育てたりする。わたしとしては豚が欲しいところだけど、この地域には豚はいない。まあ、野生の猪がいるのでたまに猟師から買っているわ。
調味料も錬金の壺で創っているのでそこそこのものは食べられているわ。ガイル、まだ調味料を使いこなしてないのよね。
前世の知識を活かして! ができたらいいのだけれど、前世は焼く、煮る、沸かす、くらいしかしなかったダメな魔法使いだった。
こんな感じで~、としか言えない自分が憎い。もっと料理を嗜んでおくんだったわ。
「マクライ。お客様がきたからガイルに伝えてちょうだい」
「畏まりました」
「あ、スパークリングワインを出してあげて」
わたしの付与は炭酸も付与できたりしちゃうんですよ。あと甘味もね。
この国、何歳からでもお酒は飲めるけど、水が綺麗なのでワインを飲料水になってはいない。なので、ワインの流通はそれほどでもなく、一般庶民には高価な飲み物。大人が消費して子供には回らないのよ。
「はい。よく冷えたものをお出しします」
食堂に移り、食前酒、ではないけど、蜂蜜酒を出した。
「これも売って欲しいよ」
「売るほどはないけど、帰りに少しわけてあげるわ」
作ってみたはいいけど、わたしの好みじゃなかったのよね。まだビールのほうが美味しいわ。
「それは感激だ。しばらくは楽しめるよ」
いや、壺一つしかやれないわよ。マクライも蜂蜜酒は好きなんだから。
「チェレミー様、養蜂をやってくださいよ。人ならわたしが集めますからぁ~」
どんだけ好きなのよ? ワインを飲んでなさい。もう気兼ねなしにワインを買えるくらい稼いでいるんだから。
「そうね。館の裏山には野花がたくさん咲いているそうだし、箱を置いてみましょうか」
蜂を集める付与をかけておけば勝手に集まってくるでしょうしね。時期とか採取とかまったく知らないけどね。
「是非、やってくれ! 養蜂家を探してくるから!」
「ふふ。そのまま飛び出していかないでね。まだ呼んだ理由も話していないんだから」
マゴットならやりかねないから笑えないわ。
「わかっているよ。まだ料理に手をつけてないんだからな」
ちょうどよくラティアとマーナが料理を運んできてくれ、美味しいお昼をいただいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます