第5話 突っ込んでよ!

 スローライフじゃなくてエローライフだよ!


 とか、天から突っ込みが入るかと思ったけど、なにも突っ込まれなくてなにより。では、次なるスローライフを送るための準備に取りかかりますか。


「お嬢様、苗木をもらってきました」


 雑草が生えた館の庭で日向ぼっこしていると、新たに入ったメイドが戻ってきた。


 サナリは豪農の次女で、小さい頃から農作業の手伝いもしてきたと言うので、家庭菜園担当に任命をしたわ。


 わたしも鍬を振るって耕したいところだけど、伯爵令嬢が土いじりするなど醜聞でしかない。まだガーデニングが貴族の趣味となってない時代。ちょっとずつ認識させていき、いずれは自分の手で農作業をしてやるわ。


「ありがとう。急なお願いでごめんなさいね。人は集められたみたいね」


 敷地外に、逞しい農夫たちが緊張した面持ちで立っていた。


「いえ、お小遣い稼ぎができて喜んでいるくらいですよ」


 今の季節は初夏、と言ったところかしらね? 今は麦の世話もそれほどなく、他の野菜もそう手間ではないとか。ならば、その間に館の庭を耕してもらおうと思ったのだ。


「そう。なら、喜んでもらえるよう弾まないといけないわね。サナリ、お願いね」


「はい。お任せください」


 わたしが見てるのもプレッシャーだろうし、お風呂の進捗状況を見にいった。


 貯水槽と言う名のお風呂建築はまだ始まって三日くらいだけど、職人が余っているのか三十人くらい集まっている。いや、どっから集めてきたんだよ?


「アルド。ご苦労様。職人をたくさん集められたみたいね」


「はい。領都の親方連中に声をかけて集めやした」


「そんなことして迷惑にならないの?」


「迷惑だなんてとんでもない。仕事がもらえたと喜んでますよ」


「それならよいのだけれど。では、怪我をしないようお願いね」


 職人たちが作業の手を止めて直立不動にして立っているので、さっさと立ち去ることにした。


「はぁ~。ほんと、お嬢様って不便だわ」


 自分の手でやってこそスローライフだろうに、ただ命令しているだけではおもしろくもなんともないわ。


 まあ、それは最初から理解していたこと。今はわたしにできることをやるしかないわね。


「お嬢様。旦那様からお手紙が届きました」


 自分の部屋に戻り、机につくと、マクライが手紙を持ってきた。


「お父様から? 昨日、手紙を出したばかりよね?」


 指輪ライターも一緒に送ったはず。知らぬ間に五日くらい過ぎてた?


 まあ、読んでみればわかると手紙を開いた。


 なになに。指輪ライターのことが広まって、注文が殺到していると。細工師を送るからたくさん作ってくれ、ですか。お父様も無茶言ってくれますね。


「やれやれ。このままじゃ指輪ライター長者になりそうね」


 まさか指輪ライターがこれほど人気になるとは予想外だったわ。葉巻なんて体に悪いんだからほどほどにしなさいよね。いや、指輪ライターを創ったわたしのセリフじゃないけど。


「マクライ。細工師が二人くるそうだから、アルドに工房を造るようにお願いして」


「職人は間に合うので?」


「アルドを呼んでちょうだい。相談するわ」


 ここであれこれ悩んでも仕方がない。職人のことは職人に訊くほうが早いわ。


 部屋に呼んでもらい、お茶を飲みながらお父様からの無茶を相談した。


「予算はいかほどで?」


「お父様からは金貨五十枚をいただけるそうよ。今すぐ必要なら金貨二十枚は出せるわ」


 金貨十枚もあれば一月は館を維持はできるはず。なら、二十枚は出せるわ。


「わかりやした。親方連中に言って集めさせます。その分、弾んでください」


「もちろんよ。無理を言うんだから。マクライ。出してあげて」


「畏まりました」


 二人が下がったらマゴットに手紙を書いた。指輪ライターの販売の利はお父様に移りそうだから別の商品を売ると、ね。


「……売れすぎるのも問題ね……」


 なにもしなければなにもしないで不便だし、なにかすればなにかしたで問題が出てきる。まったく、世界が変わっても世の中上手くいかないものよね……。


 棚からポップコーンの自動製造壺を出し、机の引き出しからカップを出してオヤツにした。


 本当はメイドに用意してもらうのだけど、わざわざ呼びつけて用意させるのも面倒なもの。だから、王都の屋敷から運んできた机にいろんな付与をつけ、コーヒーメーカー的な機能をつけたのですよ。


 もちろん、全自動洗浄もついてるので、後片付けもバッチリ。他にも機能はあるけど、紹介はそのうちに、ね♥️


「チョコレートが食べたいわ」


 創造の壺で創っているけど、わたしの魔力では一日五十グラムが限界。早く庭を整備して薬草を育てないと。

 

「一から始めるスローライフも大変だわ」


 まあ、ポップコーンを食べて、コーヒーを飲みながら言っても説得力がないけどね。


 製造されている分を食べたらちょっと仮眠。魔力回復薬がない状況では眠ることが一番の魔力回復法なのよ。


 低反発の付与を施した椅子の背もたれを倒し、短時間集中睡眠できる機能を発動させた。


「ハァー。早くスローライフできるようになるといいな~」


 いや、してるよ! と、幻聴が聞こえたような気もするけど、眠りに入ってしまったので確かめることもできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る